38 「まぁ、確かにそうかもね。」


 朝日さんはこっちを向かずにそんなことを言ってくる。思いがけない言葉に僕は「提案?」とオウム返ししてしまう。朝日さんは僕の言葉に頷きで返し、続きを話し始める。


「そう。明日から、学校から家まで一緒に帰ろう。」

「ん?それは別にいいけど、どうして?」

「一人より二人のほうがいい。それに、女の子を一人で帰すのは非常識。」

「まぁ、確かにそうかもね。じゃあ、そうしよっか。」


 僕がそう言うと、朝日さんは頷いて歩く速度をいつものペースに戻す。なんだったんだろ?まぁ、たぶん僕がいくら考えてもわかんないことだろうなぁ。女の子のことってよくわかんない。本人に聞けばいいのかもしれないけど、別に聞かなくてもいいことだしいいか。

 そんなことを考えながら歩いていると、朝日さんが交差点のところで急に足を止める。僕もそれにつられて足を止めると、朝日さんは僕を見上げてきた。


「ねぇ、逢音。今日暇?」

「暇だけど、どうかした?」

「電車使う、ちょっと遠いとこの本屋行きたいんだけど、一緒に行かない?」


 朝日さんのそのお誘いに、僕は首を傾げる。なんでわざわざ僕を誘うのだろう。別に本屋くらい一人で行ったらいいと思うんだけど。でも、もしかしたら本人しかわかんない理由でもあるのかな?


「いいよ。とはいっても、僕この辺のこと未だによくわかってないんだけど。」

「わたしも。だから、二人のほうがいいかと思った。」

「確かに。よくわからないところに一人で行くのもなんか嫌だよね。」


 朝日さんが頷くと、ちょうど駅へ向かうために渡るほうの横断歩道が青になったので、その横断歩道を渡って駅のほうへ向かう。というか、七月だからかかなり暑いな。シャツが汗ばむからやめてほしいんだよね。まぁ、女子の夏服が見れるのはいいかもしれないけど、女子の夏服かいい感じの気温かと問われれば、迷わずに気温のほうを取る自信がある。煩悩にまみれてる石橋君とかは違うのかもしれないけどさ。

 定期なんか持っていない僕と朝日さんは駅で切符を買うと、そのまま電車のに乗ってガタゴトと揺られる。そういえば、前に日向さんが来た時にもこの電車乗ったな。日向さん、会った最初のほうはよく朝日さんの家に来てたけど、最近は来なくなったな。忙しいのかもしれないね。

 この前日向さんとファミレスに行ったときに降りた駅で、今回も降りる。大きい本屋がこの辺にあると我らが味方アプリケーションさんがおっしゃっているからね。いやぁ、便利だよね。って、いつの時代の人だって思われそう。


「ここだね。」


 スマホだけを頼りに辿り着いたのは、三階建ての大きな建物。このあたりだと一番大きな本屋で、漫画のレンタルとかもしてるからこんなに大きいようだ。ただ、僕は本を借りるのは好きじゃなくて、買って読みたくなるタイプ。ちなみに、中古の本も好きじゃなくて新品を買いたくなるタイプです。ただ、本をあんまり売らないから今自室が酷いことになってるんだよね。本棚じゃ収納しきれないから衣装ケースに入れて積んでるんだけど、最近それもスペースが残りわずかになってきた。いよいよ売ることを考えなきゃダメかなぁ。


「で、朝日さんはなにを買いたいの?」

「漫画の新刊。先週発売だったんだけど、さすがに自重した。」

「まぁ、テスト直前に買いに行かないよね。実は僕もまだ買ってない新刊あるんだよね。っと、漫画コーナーは二階っぽい。」

「エスカレーターあった。」


 なんか、今の連携プレイみたいじゃなかった?いや、たまたまか。

 エスカレーターを上ると、僕と朝日さんは近いようで遠いような微妙な距離感を保ちつつ、それぞれ漫画を見ていく。あ、この作品面白そう。買っちゃおうかな。とかいって集めすぎると、妹から「床抜けるよ?」とか言われちゃうしなぁ。ただ、まだベッドの下という収納を使ってないからスペースはあると思うんだけど。そもそも十八歳未満が持っていちゃいけないような本はないから、ベッド下を自由に使えるんだよね。買う気もないし。あ、この本もよさそう。


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