33 「あ、うん。いただきます。」



 あれ?そういえば、今日の朝日さん結構話すな。いつもよりも会話が多いぞ?いやまぁ、たまたま話題があっただけだとは思うけどね。でも、普段は話題がないから割と新鮮。

 二十分ほどラノベを読みながら過ごしていると、肩をポンっと叩かれる。


「どうしたの?」

「食べ終わった。勉強。」


 朝日さんはそう言うと、いつも勉強をするときに座っている僕の隣に座り、鉛筆と消しゴムを準備する。僕はいつも通りファイルからプリントを一枚出すと、それを朝日さんに渡し、朝日さんはいつも通り解き始める。うん、別に休日だからってなにかいつもと違うことはないね。強いて言えば服装と時間が違うくらいで、勉強の内容は全く変わらない。

 驚くほどいつも通りの時間を過ごしているといつの間にか時間は正午を過ぎており、昼食の時間になっていた。あぁ、少しお腹すいたかもしれない。今いい感じにプリント終わったし、ちょうどいいかな。


「じゃあ、僕はそろそろ帰るよ。」

「え?もう?」

「うん。だって、朝日さんも昼食食べるでしょ?あ、午後も勉強するならもう一回来るけど?」

「――うちで食べてく?」


 朝日さんは僕にそう提案してくるが、僕は首を横に振る。正直なところ一度食べてみたい気もしたが、さすがにその分の労力を使わせるのは、ねぇ?

 うちの親的にはたぶん外で食べてきてくれたほうがありがたいと思うんだけど、朝日さんに迷惑かけるなら親に作ってもらう。


「遠慮しておくよ。朝日さんも大変でしょ?」

「一人も二人も大して変わらない。それに、勉強のお礼もしてない。」

「いや、お礼は別にいいよ。そもそもこっちに利益があって始めたことなんだし、結局クリア条件は変わってないし。」

「お父さんが来たとき、助けてくれた。そのお礼。」

「勝手にしたことだし、お礼しなくていいよ。そもそも、勝手に首突っ込んだのはこっちだしね。」

「じゃ、そのときになんでもするって言ってたのを、今使う。」


 あー、そういえばそんなこと言ったなぁ。というか、それを使ってまで昼食を食べさせたいのか。明らかにお願いを使うタイミングを間違えてる気がするんだけど、まぁ無茶なお願いをされるよりかはましか。


「じゃあ、お願いしようかな。」

「うん。ありがとう。アレルギーとかある?」

「特にないよ。なんでも食べれるのが唯一の自慢だからね。」

「それはない。もっといろいろある。」


 朝日さんはキッチンに入ってエプロンを結ぶと、冷蔵庫から食材を出して手際よく調理を始める。

 さすがに女の子だけに働かせるのはと思い手伝いを申し出たが、「大丈夫」と断られてしまった。僕に家事スキルがないとなぜばれたんだろう。いや、家事出来そうな見た目はしてないか。

 手持無沙汰になった僕は朝日さんの料理の手腕を見ていたが、なかなかのものだ。イラストといい料理といい、朝日さんはなにかを創る才能があるのかもしれない。『一つの夕焼け』の絵柄にこだわらなければ、すぐにプロになれると思うんだけどなぁ。あの絵柄、朝日さんには向いてない気がするんだよね。


「できた。」


 見事な手際を見ていると、朝日さんがそう言って昼食を持ってきた。料理はシンプルにオムライス。ただ、絵に描いたようなオムライスというか、なんでこんな綺麗に作れるのかというほど完璧なオムライスだった。いや、わからない?僕もオムライス作ったことあるんだけどさ、綺麗に作るのって難しいんだよ。卵がくしゃっとなったり破れたりしちゃって、なかなかうまくいかないんだよね。


「すごい――」


 僕は思わずそう呟いてしまう。すると朝日さんは嬉しそうにくすっと笑い、僕の前に飲み物とスプーンを出してくれる。あ、朝日さんが笑った!珍しいこともあるんだね。嬉しそうな朝日さんの様子を見ると、僕も少し笑ってしまう。笑顔はいいね、世界を平和にするよ。


「じゃあ、食べよう。いただきます。」

「あ、うん。いただきます。」


 椅子に座って食前の挨拶をした朝日さんに続いて僕も挨拶をして食べる。

 っ!?う、美味いっ!なにこれすごい美味い!え?本当にオムライスだよね?なにこれ美味しすぎる!神か!


「朝日さん!無茶苦茶美味しい!すっごく料理上手だね!」

「――ありがとう。」


 テンションの上がった僕がそう言うと、朝日さんは少し頬を赤くして、軽く視線を下に向ける。恥ずかしかったのだろうか。でも、言わずにはいられないほど美味い。いやもう絶品だよこれ。すごいよ。って、僕の語彙力の無さが浮き彫りになってくる。


「いや、本当に美味しい。いやもう、美味しいって言わなかったら黙々と食べ続けるくらいは美味しい。美味しい以外の言葉が見当たらない。食事なんかただの栄養補給だって思ってたかつての自分をぶん殴りたい。」

「なかなかすごいこと思ってたんだね。」


 なんか、食事の時間を別の何かに使えたらいいなぁと思い始めたらもう駄目だね。食事が面倒になってきちゃった。でも、これを食べて心が洗われたよ。これからはちゃんと食事します。休日に一日一食とか不摂生な生活はしないようにします。って、誰に向けての宣言なのか。


「ちゃんと、食べたほうがいい。ただでさえ逢音は痩せてる。」

「そうだね。将来のためにも不摂生はやめて、ちゃんとした食生活を送るよ。朝食昼食合わせてケーキ一個で済ませるとかはしないようにする。」

「それはやめたほうがいい。」


 朝日さんらしからぬ素早いツッコミ。本当に、今日はよく喋るなぁ。あれ?でも、昨日もこれぐらい喋ったような気もする。なんか、朝日さんが友好的になったのかな?僕としては大歓迎なんだけどさ。


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