25 「そこに変な感情は持っていないし。」
「で、なにか進展あんのか?」
翌日、学校に行き席に着いた直後、後ろの席の石橋君にそう話しかけられる。
「進展?なんのこと?」
なにを聞きたいのか、予想はついているもののそれが当たってほしくないので、僕はとりあえず知らないふりをする。すると、石橋君は「はぁ、それぐらいのこともわかんないのかよ。」と完全に煽る言い方で言ってくるが、僕はそれを無視した。いちいち反応するのも面倒だし。
「あのなぁ、お前と倉井さんのことだよ。なぁ、どこまでヤッたんだ?キスか?それとも――」
「だから、そういう関係じゃないって。それ以上言うなら二度と喋れないようにするよ?」
「お前、優しそうな顔してなかなか恐ろしいこと言うよな。」
石橋君はそう言って溜息を吐くと、ずいっと身を乗り出して話しかけてくる。顔が近くてうざい。僕はゆっくりしたいのに、どうしてこいつは話しかけてくるのか。
「なぁ、お前わかってんのか?今、あの美少女の倉井さんと最も近い異性はお前なんだぞ?このチャンスを生かさずどうする?それともあれか、実はお前熟女好きで倉井さんはストライクゾーンに入ってないのか?」
どうして石橋君はこんなにグイグイ聞いてくるんだろう。正直に言ってかなりうざいからやめてほしいんだけど。というか、どうして僕が熟女好きって発想に至るのかがわからない。いや、そもそも石橋君のことはよくわからん。
「僕は別に熟女好きじゃないよ。」
「なっ、じゃあまさかロリコ――」
「それも違う。その思考回路どうなってんの?」
一度大学病院で診てもらったほうがいいのではないだろうか。脳に何かしらの欠陥がありそうだ。脳みそ足りてないんじゃないのか?あ、ここまで言うとただの悪口か。ただ、これだけは言いたい。石橋君は頭おかしい。
「じゃあなんだよ!なんで少しも関係が進んでないんだよ!」
「進める必要すらないからでしょ。僕はただ勉強を教えているだけで、そこに変な感情は持っていないし。」
というか僕に進める気があったり、僕が石橋君みたいに煩悩に溢れていたら、今ごろ理性がなくなっていただろう。そういう意味だと、僕は同い年よりも枯れているというか、そういうものに興味がない方なのかもしれない。だって、男子高校生が女子と二人っきりの部屋に何回も入るとか、ねぇ?
「なんだよ!そんな顔して実はむっつりなんじゃねぇのか!?」
「石橋君って、だいぶ面倒だよね。」
そもそも、石橋君とまともな会話ができたためしがない。ある意味石橋君は健全な男子高校生の思考を持っているのかもしれないが、いくらなんでも表に出しすぎだろう。もっと隠す努力をするべきだと僕は思う。
「はぁ?俺が面倒?具体的にどこら辺が――あ、倉井さんおはようございます!」
石橋君は言葉を途中で切って、自分の席に着こうとしている朝日さんにそう挨拶をする。しかし、朝日さんは「うわぁ」みたいな嫌そうな顔をして、石橋君の挨拶を完全に無視する。しかしいつも通りのことなので、もはや石橋君もそう簡単に折れてくれない。
「ねぇねぇ倉井さん、夕のこと好きなの?」
「ゲホッゴホッ――ちょ、石橋君?」
唐突な倉井さんへの質問に、思わず僕はむせてしまう。こいつはなにを考えているのかさっぱりわからない。というか、そんなの相手がが好きって言うわけないでしょ。そんなこともわかんないの?
「――は?」
朝日さんのその一言は、まるで氷魔法のように石橋君の動きを止めた。普段よりも低い声に、朝日さんが相当嫌だと感じたのがわかる。まぁ、嫌だよね。むしろ嫌じゃないわけがない。
「いやさ、倉井さんってよく夕に勉強教えられているんでしょう?だったら、なにかしらあってもいいじゃん?」
「意味わかんない。」
朝日さんは冷たくそう言うと、自分の席に座って絵を描き始めてしまう。あーあ、石橋君完全に嫌われてるなぁ。まぁ、それも当たり前の話か。だってうざいもん。僕が朝日さんでも同じような対応をするだろうし。
「えー、でも、逢音君ってけっこういい人だと思うけどな?」
そう陽気な声で会話に割り込んできたのは、長い髪をなんか複雑な感じに結んでいる女子生徒、柏谷さん。朝日さんは自分の席の前に回り込みながらそう尋ねてきた柏谷さんを面倒そうに見る。
「だって、成績はいいし顔もいいし、体育の時間見てたけど運動もかなりできる。おまけに優しいじゃん。ほら、かなり優良物件だよね?」
「知らない。なんとも思わない。」
まぁ僕も朝日さんに恋愛感情があるわけではないが、そうやって真っ向からなんとも思わないと言われると少し心にダメージが入る。僕だって男子高校生なわけで、かわいい女の子によく思われたいのは当然でしょ?とはいえ、そのためになにか努力をしたりするわけではないのだけれど。その点では、モテたいという欲求のために同好会まで作る石橋君はすごいというか、頭おかしいよな。
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