15 「じゃあ、見せてもらってもいい?」



 僕はそんなことを考えながら、倉井さんに手を引かれるまま昇降口で靴を履き替え、校舎の外に出る。僕は何処へ連れていかれるんでしょうか。これから何かしらの犯罪に巻き込まれないよね?大丈夫だよね?いや、大丈夫だとは思うけどさ。


「あの、僕は何処に連れていかれるの?」


 僕がそう尋ねても、答えの代わりにチラリを視線を向けられるだけで、何の答えも返ってこない。というか、この道僕と倉井さんの家の方向だなぁ。

 暫くの間、そのまま手を引っ張られる状態が続き、僕は結局何処に行くかもわからないまま学校を出てから十分ほど歩く羽目になる。まぁ可愛い女の子と二人っきりだから、文句は言わないけどね。ただ、倉井さんが足を止めた場所に対しては文句と言うか、言いたいことがあった。


「着いた。入って。」


 倉井さんはマンションの前でそう言うと、僕の手を引っ張って中に入ろうとする。


「ちょ、ちょっと待って。ここって、倉井さんのマンションだよね?」

「ん?そうだよ?」

「『ん?そうだよ?』じゃなくて!急に男が入ったら両親がびっくりするよ!」

「大丈夫。親とは別のところで暮らしてる。一人暮らし。」

「なおさら駄目だよ!」


 いやいや、女の子の一人暮らしの家に男を招くって、警戒心が薄すぎるよ!まぁ、僕は特に変なことはしないけど!というか、割と大きなマンションに一人暮らしって色々違和感があるんだけど、すごいお金持ちなのかな?それとも、両親が海外出張とかラノベ的なパターン?


「いいから来る。」


 倉井さんは僕に向かってびしっとそう言うと、僕の手を引いてマンションの中に入っていく。さすがに女の子の手を振り払うわけにもいかず、僕はただ「ちょ!」とか「ストップ!」とか言うことしかできない。だが何故か倉井さんは止まらず、エントランスのドアを開けてどんどん中へ入っていく。まっすぐ歩きエレベーターに乗り込むと、四階のボタンを押した。


「あの、倉井さん?本当にお邪魔していいの?」

「じゃないと勉強ができない。」


 四階に着いたエレベーターから降りながら倉井さんはそう言うと、ずんずん通路を進んでいく。そして、『409』と書かれた部屋の前まで来ると、「ここで待ってて」と言って鍵を開けて中に入る。そりゃあ片付けとかがあるよね。当たり前だよ。見せたくないものもあるだろうしさ。

 というか、本当に入ってしまっていいのだろうか。何かの詐欺に引っかかったりしないよね?なんか、倉井さんよりも僕が警戒するっていう謎現象になってるけど、それも仕方ないよ。急に美少女の家に招かれるんだよ?何かあるかもって疑うよね?石橋君ならテンション上がって終わりな気がするけど、僕はそんな無警戒になれないな。

 でも、中に入れるのはある意味ラッキーかもしれない。決して変な意味でのラッキーではなく、もしかしたら倉井さんが『一つの朝焼け』と名乗る理由がわかるかもしれないからだ。だからと言ってタンスを勝手に開けたりする気はないけど。たまたま何か見つかればいいやぐらいの気持ちで行くのが正解だろうな。


「片付け終わった。入って。」


 数分間ぼんやりと考えていると、玄関のドアが開いて倉井さんが僕に向かってそう言う。女の子しかいない部屋に入るってすごく罪悪感を感じるのは何故だろうか。何も悪いことはしていないはずなんだけどな。


「お、お邪魔しまーす。」


 おそるおそる中に入ってみると、想像よりも仲が広くてびっくりする。明らかに一人暮らしには広すぎるだろうってくらいは広い。何故か少し緊張しながら靴を脱いで、案内されるままリビングへ向かう。

 リビングは、驚くほど物がなく本当にここに住んでいるのかと思うくらいだった。唯一それっぽいものといえば、テーブルの上に四冊積み重ねられているスケッチブックと、無造作に置かれた鉛筆と消しゴムぐらい。


「見る?」


 倉井さんは僕の視線の先に気が付いたのか、スケッチブックと手に取ってそう言う。露骨に見すぎたかもしれないけど、いい機会だから見せてもらうことにする。そういえば、倉井さんの絵をちゃんと見たことなかった。


「じゃあ、見せてもらってもいい?」

「ん。」


 倉井さんは僕にスケッチブックを差し出すと、「飲み物何がいい?」と聞いてくる。僕は「お構いなく」と返して、四冊目と書いてあるスケッチブックを開く。おそらく、これが一番最近のものだ。


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