13 「コツがあるんだよ。」
そんな不安を感じるような勉強会を終えた後、前日と同じく倉井さんと一緒に帰った。その間に何か特別なことがあったかと聞かれると、何もなかったとしか答えようがない。まぁ、何も起こらないのが普通だよね。
で、今日も学校がある僕はいつも通りの時間に登校した。
したんだけどね。
「おい!夕!どういうことだよ!」
教室に入った瞬間、待ち構えていたかのような勢いで突撃してきた石橋君は、僕の両肩を掴むと恐ろしい形相で僕に詰め寄る。肩がギシギシいってる!力加減ちゃんとしてよ筋トレオタク!
というか、石橋君にこんなことをされるようなことをした記憶がない。僕は本当に何もしてないはずなんだけど。いや、気が付かないうちに何かをしてしまったのかもしれない。とりあえず話を聞いてみないことには始まらないな。
「どうかした?肩が痛いから開放してほしいんだけど。」
「どうかしたじゃねえよ!お前、羨ましいなこんにゃろう!」
「ごめん、思い当たる節がない。」
羨ましい?僕何かしたかな?今更『成績いいなんて羨ましい』なんて言わないだろうし、その説はないよね。でも、特に思い当たる節がないんだけど。
「はぁ?この期に及んでまだとぼけるのか!お前が黒髪ショート色白無口かわいい美少女の倉井さんに勉強を教えてたのは、もうわかってるんだよ!」
え?何美少女だって?こいつ、いよいよやばいかもしれないな。
ただ、石橋君がこんなことになっている理由はわかった。僕がチラリと柏谷さんを見ると、彼女は両手を合わせて口パクで「ごめん」と言う。謝るなら最初から話さないでほしかったなぁ。
「ああ、その件ね。確かに僕は勉強を教えたけど、特に石橋君が羨ましがることはないよ。」
「女子と二人っきりで勉強するのが羨ましいって言ってるんだよ!」
「知るか!」
何その理不尽な理由。僕はただ勉強を教えてるだけなのに何故こんなに肩を痛めつけられなければいけないのだ。解せぬ。
というか、だんだん力が強くなってきてるし。結構痛いからやめてくれないかな?やめてくれないだろうな。よし、一回警告した後やめないようなら実力行使だな。僕の肩が壊れるのは嫌だ。
「石橋君、いい加減肩を開放してくれない?結構痛いから、これ以上は実力行使も辞さないよ。」
「うっせ!俺はお前にこうしなきゃいけない理由があんだよ!」
「じゃあ、仕方ないよね。」
石橋君の顔に右手を伸ばし、それを鷲掴みにして力を込める。俗に言うアイアンクローを石橋君に仕掛けてみた。すると、作戦通り石橋君は僕の頭を開放し、僕の手を引きはがそうとする。
「痛い痛い痛い痛い!お前、ひょろいのに力強いな!」
「コツがあるんだよ。」
これ以上するとやりすぎな気がしたので、石橋君の顔を開放する。
「っく、お前、やるな。」
「どこの悪役?」
「俺を倒しても、第二第三の俺が現れるだろう。」
「それは嫌だね。」
そんなことを言う石橋君の横を通り抜け、僕は自分の席に座る。どうもどうやらまだ倉井さんは登校してきていないようだ。まぁ、倉井さんは登校してても僕みたいに質問攻めされない気がするけど。ただ、僕がされたのは質問攻めじゃなくて実力行使だったけどね。せめて質問にしろよ石橋君。まだ肩痛いんだけど。
心の中で文句を言っていると、教室の前のドアから倉井さんがいつも通りの様子で倉井さんが入ってきた。クラス中から倉井さんに視線が向けられるものの、彼女は気が付いていないのか意図的に無視しているのか、気にした様子もなく自分の席に着く。
「おはよ。」
どういうわけか、倉井さんは僕に向けてそう挨拶をする。刹那、僕に複数の殺気らしきものが向けられた。犯人は恐らく石橋君たち『モテ方研究同好会』のメンバーだろう。そこまであからさまに殺意を出さなくてもいいのに。
「うん、おはよう。」
僕が倉井さんにそう挨拶を返すと、殺気がさらに強くなる。いや、挨拶された以上は返事をしなきゃいけないよね?それなのに責める視線を向けられるって理不尽すぎでしょ。僕が何をした。
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