7 「普通ですよ。」
「じゃあ、早速だけどテストの結果を返しますね~。じゃあ、まずは逢音くん!」
名前を呼ばれた僕は黙って立ち上がると、教卓のところにいる先生のところまで移動して結果を受け取る。こういう時って、一番とかだと最初に返されるから、余計な緊張感が少なくて済むんだよな。そういう意味ではいいのかもしれないが、やっぱり出席番号が早いと損のほうが多い気がする。
「おめでとう、よく頑張ったね!」
「普通ですよ。」
僕は元気な先生にそう返すと、自分の席に戻って結果を見る。そこに書いてあったのは、百六十八人中学年順位一位というわかりやすいもの。まぁ、ほぼ満点だったし当然か。この学校ってだいぶランク落として入ったとこだしな。というか、合計点を計算した段階でわかってたんだけどね。
「じゃあ、次は石橋くんね。」
先生が石橋君の名前を呼ぶと、彼は少しぎこちない動きで立ち上がり、機械のように歩く。自信あるとかいう割には緊張しまくってるように見えるのは僕の気のせいなのだろうか。いや、気のせいじゃないと思う。
「まぁ、うん。頑張って。」
先生は石橋君から目を背けながらそう言う。石橋君は恐る恐るといった様子で自分の試験結果を見ると、「あああああああ!」と叫びながら崩れ落ちる。
えっと、その叫びはどういう意味の叫びなのかな?先生の反応から想像はつくけど、ね。
「う、嘘だろ?百六十位?」
さっきの自信満々の発言は何だったのかな?こいつ大丈夫か?頑張ったんじゃなかったんじゃないの?確か僕の学年は百六十八人だったから、百六十位ってかなり壊滅的な順位だと思うけど。というか、各教科ごとにテストが返却されたとき、危機感はなかったのかな?そんな低いんならわかりそうなものだけど。
石橋君はゆらりと立ち上がると、一気に僕のほうへ詰め寄ってくる。うわ、顔が近い。
「夕!俺の何がいけなかったんだ!?」
「点数。」
それ以外にないでしょ。むしろ、点数以外にあるわけない。順位とは点数で決まるものなのだから。それ以外の理由があるなら今すぐ説明してくれ。賄賂とかは無しだからね。
「くそっ!何でこいつこんなに余裕そうなんだ!普通テストの結果が返されたら嘆くだろう!落ち込むだろう!」
「ちょっと、声大きい。悪くなかったら嘆かないでしょ。」
本当に声が大きい。心の中で一つアドバイスをすると、女子ってあんまり騒がしい人好きじゃないと思うんだよね。女子じゃないから本当にそうかはわからないけど、たぶんそうだと思う。少なくとも、僕の家の女性陣はみんな「煩い男は嫌」と言っていた。うちの家族からだけの情報だけど、女性は女性だ。異論は認めん。
「わ、悪くなかったら嘆かない?じゃあお前、点数悪くなかったのか!見せろ!」
「あ。」
僕が机の上に置きっぱなしにしていた試験結果表を強引に奪うと、石橋君は容赦なく僕の試験の結果を見る。勝手に人の順位を見るのはよくないと思うな。僕の試験結果が悪くなかったからよかったけど、人に見せられないような点数だったらどうする気だったんだろう。
「は?」
少しの間固まっていた石橋君は、そんな呟きを漏らす。漫画的に表現すると、目が点になってる感じかな。なかなか面白い表情をする。自分から見ておいてその表情は面白すぎるでしょ。
「ほら、もう見たでしょ。いい加減返してよ。」
石橋君も満足しただろうと思い彼の手から試験結果表を取り返そうとするが、強く握っていて話してくれない。あーあ、紙をそんな強く握るとしわがついちゃう。石橋君、変な人でも悪いやつじゃないんだけど、たまにやりすぎなところあるみたいなんだよね。
「はぁぁぁぁぁぁあああああああああ!?」
「っ!うるさい。」
ほら、急に大声出したから今試験結果表を受け取ってた
「おま、ふざけんな!何処にほぼオール満点で学年一位取るヤツがいるんだよ!」
「ちょ、なぜ僕の順位を大声で言う!」
いくらいい順位だからってそれは酷い!僕のプライバシーどこ行った!プライバシーの権利を主張する!
そういえば中学の頃に「お前のプライバシーは月へ行った!」とか言いながら、クラスで他人のテストの順位を大声で言いまくる馬鹿がいたな。ああいうタイプって、知らないところで嫌われてたりするんだよね。
「いい結果なんだから文句言うな!」
「不条理だ!」
いい結果をとったのはあくまでも僕の勉強の成果なのだから、文句を言う権利がなくなる理屈が分からない。まぁまぁそう感情的になるな。血圧上がるよ?若いうちから高血圧とか大変じゃないかな。僕なりに心配してるんだからね。
ほら、僕の試験結果を聞いてクラス中がざわめいてるじゃん。困ったなぁ、僕注目されたくない。いや、注目されてもいいんだけどね。注目されたときに「成績いい奴はぶちのめす」とか逆恨みされるのが怖いよね。そんな人はそうそういないと思うけど。
「夕!一発殴らせろ!」
言ってるそばからいましたよ。石橋君、相変わらず期待を裏切らない。
「殴ったら即反撃したうえで警察に通報するよ。幼稚園生にして大人を投げ飛ばし、武術の申し子と呼ばれた僕を舐めないでほしい。」
「な、マジか!」
「いや、冗談☆」
「冗談かよ!」
本気なわけないじゃん。どこに幼稚園生で大人を投げ飛ばせる人がいるの。ただ、僕を舐めないでほしいって言うのは本当。友人に武術の達人がいて、小学生のころから定期的に教わってたから、ただ筋トレしただけの石橋君に負ける気はしない。あ、石橋君が実は武術の天才でしたとかは無しね。
「なんでここで冗談を言う!」
「面白いかなぁって。」
人間の行動原理なんてそんなもんでしょう。少なくとも僕は面白くも美しくもないことをするのは、意味がないと思ってるからね。いや、意味がないは言い過ぎか。
「俺は全く面白くねぇ!」
いや、知らないし。勝手に僕の試験結果を見た挙句大声で言いふらしたお前に同情の余地はない。一回反省したまえ。
「ああもう!いいから一回殴らせろ!」
「だが断る。」
「断るな!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます