8 「あ、うん。本当だけど?」
結局、石橋君の「殴らせろ!」発言は暫く続いたが、テストを全て返却し終えた先生が、奥義「席に着きなさい!」を発動してくれたおかげで、僕は殴られずに済んだ。よかった、殴られたくないもん。
「各々、今回のテストについて思うことはあると思いますが、今回赤点をとってしまった皆さんは嘆くより先に勉強してくださいねー。」
先生のその言葉を聞いた瞬間、自分の真後ろの席から「ゴンッ!」と机に何か固いものを打ち付ける音が聞こえてきた。恐らく、机に頭を打ち付けたのだろう。というか、赤点かどうかはもっと前にわかったのでは?
「じゃあ、今日はもう解散ね!」
先生はそう言うと、「会議やだなぁー」とぼやきながら教室を出ていく。瞬間、教室中が爆発したように煩くなる。試験結果が返されたときにも騒いでたけど、あの時はまだ先生という枷があったからよかったのだろう。枷の外れた
「何位だった?」とか、「やばかった!」とかそんな感じで騒いでいる教室中。心の中でそう言う僕も、今質問攻めの嵐にあっていた。
「ほぼ百点だったって本当?」
「何したらいい点数取れるの?」
「そんなに頭いいのに入試のとき首席じゃなかったのか?」
「その頭俺に分けやがれ!」
うん、最後のは質問と言うか、恐ろしい。頭を分けられるわけないじゃん!死ぬよ?
「い、いったん落ち着いて。僕がほぼ満点だったのは本当だよ。入試で首席じゃなかったのは、単純に風邪ひいてたから。」
あれは酷かった。微熱で頭がぼうっとする中、必死で問題と格闘するというのはつらすぎる。何度諦めようかと思ったことか。結局合格してたんだけどね。
と、僕がそんな感じで説明をしていくと、周りからは「へぇ」とか「おぉ」とか声が上がる。やっぱり、わりと偏差値が高い学校だから勉強に熱心な人が多いね。次のテストは本気を出さなくてはいけないかもしれない。
「恨めしやー。」
僕の後ろの席から怨念のような声が聞こえてくるが、気にしないことにする。いや、気にしたら負けだ。まぁ最初から勝ち負けをつけてはいないんだけどね。
僕は一通り聞かれたことに答えると、「用事があるから!」と言って教室を出た。実際用事はないけれど、あのまま人が集まったままなのは嫌だったし、人に囲まれるの苦手なんだよね。自分のパーソナルスペースの内部に入られるのが嫌だというのは誰でもわかると思う。
靴を履き替えて校舎の外に出た僕は、いつも通り一人で家に帰る。もともと友達を作るのが苦手なうえに、石橋君のせいで友人と呼べる友人がいない僕は完全にボッチと化している。いや、ボッチというわけではないか。話せばちゃんと返してもらえるし、向こうから話してくることもある。ただ、遊びに誘われたり一緒に帰ろうとならないだけだ。「少しでも話すならみんな友達!」という価値観の人もいるかもしれないけど、僕の友達判定はもっとシビアだ。
「ん?」
歩いている最中、後ろから何かに引っ張られるような抵抗を感じた僕は思わず声を漏らす。誰が何をしたのか気になった僕は、とりあえず後ろを振り返ってみた。というか、誰でもそうするのではないだろうか。
「あ。」
僕のブレザーを引っ張った犯人は、小さな声を出すと、一歩分僕から離れる。短く、前髪がピンでとめられている髪が揺れ、そのサラサラ具合をわかりやすく僕の視覚に伝えてきた。
「どうしたの?倉井さん。」
彼女が何故服を引っ張ってきたかどうかわからない僕はそう尋ねるが、名前を呼ばれた倉井さんは何故か僕の目をじっと見つめ返す。僕の目、なんかおかしい?
「学年一位だったって本当?」
「え?あ、うん。本当だけど?」
まさか、倉井さんからそんな話を振られると思っていなかった僕は少し動揺しながらもそう返す。いやまぁ、どんな話題が来るかなんて初めから予想できてないんだけどね。
「証拠は?」
「あ、試験結果見る?」
別に僕が証拠を見せる必要性はこれっぽっちもないけど、別に見せない理由もないので大人しく見せることにする。「女の子には優しくしとくとクラスとかで過ごしやすくなるぞ!」ってお父さんも言ってたし。
「ああ、あったあった。はい。」
鞄から引っ張り出した試験結果表を倉井さんに渡すと、彼女はそれを半ば奪うように受け取り、食い入るように見つめた後、静かに頷いた。今の一連の動作の意味が、僕には全く分からないんだけど、誰かわかる人いる?まぁ、わかったら超能力者か。
「ありがとう。本当だった。」
「嘘つかないよ。」
そんなくだらない嘘をつくなんて面倒以外の何物でもない。その労力を勉強に回せば成績が本当に上がるのに、そんなことをするメリットは正直ないし。あ、でも楽しそうなら嘘をつくことも平気でするかも。
「あなたの点数が分かったところで、あなたに相談がある。」
「相談?」
「そう、相談。」
そう相談ってなんか語呂がいいな。じゃなくて、あの倉井さんが僕に相談?普段誰とも話さない倉井さんが?何か天変地異の前触れなのではなかろうかとか考えてしまう。
いやいや、普段話さないからと言ってそんな風に考えるのもよくないかもしれないな。失礼な気がする。
「あなたに勉強を教えてもらいたい。」
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