本当にあった怖い話6「逢魔が時」

詩月 七夜

逢魔が時

 幼少の頃の話。


 私の住む地区には、いくつかお寺や神社がいくつか点在した。

 そんなお寺の敷地内には、青年館(今でいう集会所)があり、子供達の遊び場になっていた。

 私も、近所の子供達と暗くなるまで「サッカー」や「おままごと」「ごっこ遊び」をよくやっていた。


 夏休みのある日。

 いつものように、夕暮れ時まで遊び続けた私達。

 遊びの合間に、他愛のない雑談を始めた。

 そのうち、内容は昨晩のテレビで放送された心霊番組の話題になった。

 そして、いつしか「霊は存在するか?しないか?」という議論が起こった。

 

 当時、私は「怪異否定派」だった。

 「怖いものが実在する」と認めたくなかったからだろう。

 「霊は存在しない」と言っていた。

 それほど大した議論にもならず、結局「いるかどうか分からない」という結論のまま、薄闇が迫る中、解散。

 それぞれ帰路についた。

 お寺から自宅までは、子供でも徒歩で約3~4分ほどで、そんなに離れてもいない距離だった。

 自宅に着いて、靴を脱ごうとした私は、その時、初めてお寺の境内に忘れ物(近所の子と交換したキャラクターシールだったと記憶している)をしたことに気付いた。

 最初「もう暗いし、明日の朝、ラジオ体操で一番に行って回収すればいいか」(※当時は、お寺の境内で毎朝ラジオ体操を行い、スタンプを押してもらい、学校に提出していた)と考えたが「もし、誰かが拾って持って行ってしまったらどうしよう?」と不安になった。

 頼み込んで交換してもらったシールだし、失くしたら絶対後悔する…そう考えた私は、お寺にUターンした。

 「カナカナカナ…」とヒグラシが鳴く中、誰もいないお寺の境内は、いつもと違う空間と化していた。

 既に夕闇は色濃く、うすぼんやりとしか風景が見えない。

 そんな中、記憶を辿り、シールを入れたビニル袋を探す私。

 果たして、袋は無事に見つかり、私は飛ぶようにお寺を後にした。


 帰宅して「ただいま」と、台所にいた母に声を掛けると、母は奇妙な表情になった。

 そして、


「二回言わなくても分かる」


 と、言った。

 私が「いま帰ってきたんだけど…」というと、母は、


「嘘。5分くらい前に帰って来てたでしょ?お母さん、あんたの『ただいま』って声も、姿も見てるし」


 と、妙なことを言い始めた。

 釈然としない私は「きっと、夕飯の支度で忙しい時に、見間違えたんだろう」と結論づけた。

 そして、自室(和室)に戻り、障子を開ける。

 そこで、私は固まった。


 日が沈み、付近はもう闇。

 電灯をつけていない自室(和室)は、当然、真っ暗だ。

 その室内の中に、誰かが立っている。

 闇の中、声も出せず、硬直する私の目は、徐々に闇に慣れていった。


 立っていたのは、子供だった。

 背丈は私と同じくらい。

 服装も似ている。

 というか…


 それは、そのまま姿だった。


 目の前の私が、徐々に振り向く。

 硬直した私は、悲鳴も上げられないで、それを見ていた。

 そして、目の前の私が振り返った。

 その顔を見たか、記憶がない。

 何故なら、私はそこで意識を失ったからだ。


 次に目が覚めると、私は蒲団の中だった。

 起き上がると、そこは自室だった。

 訳が分からず、起き出し、座敷にいた家族の元へ。

 テレビを見ていた父が、私に気付き、言った。


「おお、起きたのか?」


「うん…私、どうしてたの?」


「覚えてないのか?」


 頷く私。


「お前、部屋の中で蒲団も敷かずに寝てたんだよ。よっぽど遊び疲れたのかと思って、蒲団を敷いて、寝かせておいたんだ」


 座敷の時計を見ると、八時を回っていた。


 「早く夕飯、食べちまえ」という父に、混乱しつつ、応じていったん自室に戻る私。

 とてもじゃないが、食欲など沸かなかった。

 先に風呂でも入ろうと考え、着替えを用意していると、ふと学習机の卓上に、一枚の紙きれがあった。

 私がお寺に忘れてきたシールだった。

 父が拾って、卓上に置いたのか。

 何気なく手に取り、裏面を見る。

 そこで、私は再度固まった。


 シールの裏面には、キャラクターの説明文が印刷されている。

 その文章に、三カ所(いずれも平仮名)、鉛筆で○がついていた。

 続けて読むと、



「い」


「る」


「よ」



  

 それが、私が「怪異肯定派」になった、夏の日の思い出だ。


 昔、夕暮れ時を人々は「逢魔が時」と呼んだ。

 日が沈みゆくまでの、昼間と闇夜との「境界」となる時間。

 その時間は、人がこの世ならざるものと出会いやすくなるという。

 私が体験したこの怪異も、そんな時間の中で出会ったものだったのかも知れない。

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本当にあった怖い話6「逢魔が時」 詩月 七夜 @Nanaya-Shiduki

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