疑惑のピザパーティー
@sunday____akira
疑惑のピザパーティー
「ねぇ、誰か嘘ついてるでしょ」
マコさんが口にした疑念は、サキも薄々感じていた。テーブルを囲む8人で顔を見合わせる。みんなも同様に疑っているとサキは感じた。
テーブルに残ったピザは7切れ。
3切れは遅れて到着した課長がこれから食べる分として、あと4切れを誰かが食べなければいけない。
さっきまでの和気あいあいとした雰囲気が嘘のように、部屋の空気は急激に冷めきっていった。
「もともと、全部で何切れだったの?」
1切れ目を食べ終えた課長が、2切れ目に手を伸ばしながら尋ねた。マコさんが答える。
「26切れです。Sサイズ3つがそれぞれ6枚切りで、Mサイズはひとつで8枚切りなので」
「じゃあ8人で分けたら、だれか2人が4切れ食べればいいのか。みんな、何切れずつ食べたの?」
「さっき聞いたら、全員3切れずつだったんです」
サキは胃袋の様子をうかがった。それほど余裕はないが、あと1切れなら大丈夫そうだ。
「私、4切れ目いただきます」勢いよく手を挙げる。
「じゃあ私も」マコさんも手を伸ばした。
「これ全部、種類違うの?」
3切れ目を取りながら課長が尋ねる。
えっちゃんが「そうなんですよ」と箱を指差した。
「これが照り焼きとアイダホのハーフ&ハーフ。こっちはイタリアンバジルとコーンのハーフ&ハーフ。これは人気の4種類を1枚で楽しめるやつ。こっちは期間限定の4種類が1枚になってます」
へぇー、と唸りながら課長は4切れ目を取った。
あと1切れ。
既に4切れ食べたサキ、マコさん、課長以外の5人に緊張が走る。
「誰か、3切れ食べてない人いるでしょ」
冗談めかして言ったマコさんの声が、不気味に響く。
――みんな女子だし、食べ過ぎたくないのは分かるけど、嘘つくのはずるいよ。
早く名乗り出て、とサキは祈りながら5人を見つめた。
「ちーちゃんは、どれ食べた?」
「バジルのと、アイダホと、シーフードです」
「モトさんは?」
マコさんが時計回りに当てていく。
「私は照り焼きと、サラミのと、アイダホ」
「愛ちゃんは?」
「アイダホと、バジルと、卵のです」
「アイダホ多くない?」
「アイダホ、4種類のにも入ってたんですよ。ハーフ&ハーフとは別に」
モトさんが指差す先には、最後に残されたアイダホが1切れ残っていた。サキはなんとなく違和感を覚えた。
「なんか、このアイダホ小さくない?」
課長がつぶやく。
「4種類のは8枚切りなんですよ。……あっ」
マコさんが小さく叫ぶと同時にサキも気づいた。
Sサイズは3つとも6枚切り。その前提が間違っていたのだ。
Sサイズのハーフ&ハーフが2つと、4種類のがひとつ。Mサイズの4種類のがひとつ。合計で28切れ。
8人で分けたら、4人が4切れ食べる計算になる。
「なんだ、じゃ、誰も嘘はついてなかったんだね」
あははっ、とマコさんの不自然な笑い声が響いた。サキも他の5人と一緒に、ぎこちなく笑った。
冷めきったピザは誰にも手を伸ばされなかった。
疑惑のピザパーティー @sunday____akira
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