第69話
そして誰もいなくなった酒場にて、クーデルスが一人囁く。
「ふふふ、今頃お馬鹿さんたちは慌てふためいている頃でしょうか?
いえ、まだ私が何をしているかについてすら気づいて無いかもしれませんね」
たしかにクーデルスは相手の諜報手段が何であるかについては知らない。
だが、その性質についてはすでに見当をつけていた。
自然界に満ちている魔力にまぎれてしまうほど微細で、モラルやベラトールですら特定できないほど癖の無い魔術波長しか出さない方法。
そんな魔術でこちらを探っているならば、やり取りできるのはおそらく音のみ。
映像も送受信するならば、情報量が多くなりすぎて使用する魔力が大きくなってしまうだろう。
そして酒場でダンジョンのデータの書かれた紙を広げたとき、そこにはダンジョンの中のモンスターがオークだらけであるほかにも色々な情報が記されていた。
特に、ベラトールの壊した壁の残骸をダンジョンの中に放り込み、ダンジョンの中を分断する『ダンジョン分断作戦』のアイディアについては絶対に無視できないはずである。
残骸といえども、モラル神と魔王クーデルスの力がこもった代物だ。
もしもそんな代物を放り込まれてダンジョン内の階段を封鎖されたら、対処はほぼ不可能である。
それこそ、クーデルスに準ずるような魔王でも呼んで来るしか無い。
そして、クーデルスがあの時さしだしたメモには、「相手が拾っているのは音だと思います。 ダンジョン分断作戦については口にしないでください」と書かれていたのだ。
そしてその計画は、今も着々と進んでいる。
今頃は、空間を操作する魔術に長けたフラクタ君が、壊れた壁の瓦礫の転がる現場でコツコツと転移の魔法陣を作成しているはずだ。
だが、その情報に対する対策や妨害がまるでされていない。
この結果によってクーデルスは相手の能力を完全に見切ってしまった。
そうなってしまえば、あとはいくらでもやりようはある。
いや、もはや後手に回る必要は何もない。
「さて、ここからはこちらが攻めに入る番ですね。
罪の無いオークさんたちを殺害した罪は重いですよ?」
先手を打たれてオークたちを殺されたのは屈辱だが、ならば倍にして返すのみ。
今日のクーデルスは復讐に燃えていた。
「趣味ではありませんが……苛めて差し上げます。
ふふふ、ふはははは、はーっはっはっはっは!」
すっかり人気のなくなってしまった宿に、クーデルスの不気味な笑い声が響き渡る。
その笑い声は、どこからともなく生えた極彩色の触手がクーデルスを殴り倒すまで続いたのであった。
そしてその頃。
ティンファの街の郊外では、野外ステージにてモラルが陣頭指揮を取っていた。
「さぁ、作戦に入るわよ」
ベラトールが作成した巨大な拡声器を背にし、彼女は笑顔で両腕を広げる。
この拡声器を使ってオークたちを引き寄せ、ダンジョンから引き剥がすのが彼女の役目だった。
「うぅぅ……なぜ私がこんな目に」
そんなモラルの目の前では、女騎士が泣きべそをかいている。
しかも、ビキニアーマーを身につけた姿で。
もはや防具としても下着としても微妙に用を成していないというアレである。
そしてその隣にはもう一人、同じ恰好の女性がいた。
「その前に説明してもらおう。 なぜ私がこんな作戦に参加しなければならないのだ!?」
歯をむき出しにして威嚇しつつそう叫んでいるのは、女騎士二号ことロザリスであった。
なお、ロザリスは諦めがわるく、未だにマントで体を隠している。
「もちろん、クーデルスからの罰よ、ロザリーちゃん。
聞けば、相当なヘマをやらかしたそうじゃない」
「ロザリスだ!! それに、あれはヤツの説明不足で……」
だが、モラルの前でそんな台詞は通用しない。
「ええ、説明しなくてもこの程度はわかると思っていたのに、貴方の頭が予想以上に悪かったらしいわね。
あと、貴女はロザリーちゃんよ。 反論は許さないから」
「……くっ」
そもそもモラルは一級神。
六級神に過ぎないロザリスからすれば文字通り雲の上の存在である。
彼女が黒だといえば、白であっても黒というしかなかった。
「なによ、その目。
仕草もオッサンくさくて、ぜんぜん可愛くないんですけどぉ。
……これは徹底的に調教してあげなきゃダメね」
眉間に皺を寄せながら、モラルはパチンと指を弾く。
すると、ロザリスの体をかろうじて隠していたマントが、水となって綺麗に流れ落ちた。
「まず、その馬鹿みたいに高いプライドにかじりついてカラカラになるまで啜ってあげるわ。
次に、男らしい価値観と言う奴を根こそぎにして……最後に夢の世界で雌堕ちさせてあげようかな」
耳にした者の血の気の引くような台詞をはきながら、モラルがゆっくりと距離をつめる。
その指は何かをもみしだくかのようにワキワキと蠢き、容赦なくロザリスの恐怖を煽り立てた。
「ひっ、ひいぃぃぃぃぃ! やめろ! やめてくれ! お前に慈悲はないのか!?」
「だいじょうぶ。 気持ちよくしてあげるから」
その現場に居合わせた女騎士は、あまりの恐怖に目をぎゅっと閉じたままうずくまり、手で耳を塞いで震えることしか出来なかった。
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