91話
その日の夜。
クーデルスは誰もいない森の中に風呂桶チューリップを咲かせ、久しぶりに野外での入浴を楽しんでいた。
「さて、今回の件には大幅な工事が必要ですね。
私が全部やってもいいのですが、ここは外部に発注して色んなコネを作るべきでしょう」
そしてその依頼先である外部組織だが、クーデルスは魔族よりの勢力に話を持ってゆくつもりでいた。
なぜなら、人間サイドの業者では速度に問題があり、しかもどんな勢力が間者を忍び込ませるかわからないからである。
普段ならばダーテンに仕事を任せれば終わる話なのだが、今回は彼も参加者側に回りそうなので、そうも行かない。
「まず、階層の設定が難しそうですね。
長引いてもイベントが中だるみになるので困りますが、すぐに終わっても味気ないですし」
長い髪を丁寧にシャンプーで洗いながら、クーデルスはひとり考える。
問題は、参加者の力量に差がありすぎることだ。
元腕利きの冒険者であるサナトリアや、神であるダーテンが参加するとなると、難易度の設定がとてもやりづらい。
一般の冒険者たちと彼らを何も考えずに同じ場所で競わせてしまうと、超越者共のタイムアタックによって、数分でイベントが終わりになってしまうからだ。
かといって、彼らがてこずるようなバランスにすれば、一般人を皆殺しにするデスゲームになってしまう。
「うーん、一人で考え込んでも限界がありますね。
まずは、業者の手配をして、先方にも相談するとしましょう」
クーデルスは濡れた髪を後ろに書き上げると、魔術で爪の先に万年筆型の木片を生み出し、テーブルを引き寄せてサラサラと手紙を書く。
「……これで大丈夫ですかね。
そして短い呪文を唱えて地中から巨大な魚に似た植物――ポストの木を呼び出すと、そのその大きな口の中に書いたばかりの手紙を放り込んだ。
手紙を飲み込んだポストの木は、すぐさま地下にもぐって消え去り、土の中を泳ぎながら風よりも早いスピードで届け先へと向かう。
そして、翌日。
「……と言うわけで、私の伝手を使いまして、ドワーフの皆さんをお呼びしました」
職場にてクーデルスが自信たっぷりにそう宣言すると、真っ先に反応したのはガンナードであった。
「ドワーフだと!? たしかにダンジョンだのなんだのの建設に関してはあいつら以上の存在はないだろうが……あんな気難しい奴らをどうやって?
って、そうか、あいつらはもともとオマエの庇護下にいる種族だっけ」
「ええ。 彼らとは元々交流がありますし、なによりもお酒が大好きな方々ですからね。
ビールの木を1000本植えた果樹林を提供すると約束したら、すぐに了承していただけましたよ。
さぁ、入ってください」
クーデルスがそう促すと、ドアが開き……異形の集団が現れた。
次の瞬間、アデリアと村長の口からキャーっと悲鳴が漏れる。
そして彼女たちは一目散に駆け出した。
……ドワーフたちの下へと。
「きゃあぁぁぁ! いやぁぁぁぁ!! かわぃぃぃぃ!!」
「もふもふですわ! もふもふですわ!!」
そう、この世界のドワーフとは、髭面で小柄なマッチョではない。
手のひらサイズでモフモフの毛に覆われた、つぶらな瞳と丸っこい体がチャームポイントのアイツである。
「あー あまり騒がないでください。
ドワーフ・ハムスターさんたちがビックリしてしまいますから。
ほらほら、いきなり体を握り締めたりしないように!
しかし、たまにネズミだからといって苦手な方もいらっしゃるようなので、大丈夫か心配しましたが……どうやら問題ないですね」
それどころか、歓喜のあまり大興奮だ。
「クーデルス、ダーテン、この子たち一人お持ち帰りしてもいいですか?」
目をキラキラさせながら、ドワーフハムスターを手にアデリアが振り返る。
「しょ、正気にもどれ、アデリア!!」
「駄目に決まっているでしょう? この子達は家畜でもペットでもないんですから。
魔帝国領で活躍する、立派なダンジョン職人の皆さんですよ」
「チューっ」
クーデルスの言葉尻に乗るように、アデリアの手の中のドワーフが声をあげた。
なお、この世界のドワーフとは、ハムスターの獣人のなかでも特に高度な産業に従事する一族の事であり、独自の文化と技術を持つ立派な人類である。
ドワーフとは、そのすぐれた産業能力に対する称号だ。
彼らは生まれつき念動力を持ち、その能力をあらゆる生産活動に用いるのだが、なにぶん人見知りが激しくて臆病である。
しかも他種族からの搾取される事も多い事から、今ではクーデルスの庇護を受けて魔帝国領の南にある限られた地域にしか住んでいない。
ここ数百年ぐらいは、クーデルスを介してのみ仕事の注文を受け、厳重な保護の下でダンジョンやマジックアイテムを作っているのみである。
「さて、ダーテンさんはそろそろ向こうへ。
とっとと建築のお仕事こなしてらっしゃい。
他のみなさんは会議室に移動をお願いします」
「とほほ。 俺だけ仲間はずれかよ……」
ダーテンを建物の外へとつまみだすと、クーデルスは甘え足りないイヌのような目をした彼の目の前で扉をしっかりと閉めて、鍵までかける。
そして会議室に向かうと、すでに着席している一堂に向かって両腕を広げながら告げた。
「では、関係者も揃ったことですし、ダンジョン改造の打ち合わせに入りましょうか」
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