鬼屋敷

安良巻祐介

 

 ぼんやりと街を歩いていたら、「お前の家に憑いて脅かす恐ろしい鬼の気配がある」と、道端の占い師から唐突に指摘された。

 なんとなく嫌な気持ちになった。

 鬼。鬼だと。お化けを信じないわけではないが、俺はそういう霊感商法のようなものは嫌いなのだ。

 だいたい、目下俺に目立った不幸はない。少し前までの、その日のことにすらひいこら言っていた俺ならともかく、今は気楽な毎日だ。鬼とやらに何かされているような覚えはない。

 しかしそいつがあまりにしつこいので、詐欺師だったら怒鳴りつけてやるつもりで、よしそれならと家まで連れて行った。

 占い師は鬼の姿を映すとか言って、何やら胡散臭い呪文をぶつぶつ唱えている。やがて、冗談のような水晶玉を家に向かってかざして、俺と自分とに見えるようにした。

 すると、何たることか。いかなる仕掛けか知らないが、水晶玉の中に、本当に「鬼」の姿が現れたのだ。

 俺はびっくりした。それと同時に、そういうことかと思わず感心してしまった。

 なぜって、映しだされていたのが、家の屋根に覆いかぶさっている、巨大な俺自身の姿だったからだ。

 汚らしい赤裸で、目はうつろな白濁で、口元だけが裂けたようになって、大きな大きな笑いを作っている。

 そんな俺だ。

 しばらく、俺と一緒に、凍りついたようにそれを見つめていた占い師は、徐々に水晶玉から顔を上げ、ゆっくりと俺を見ると、甲高い悲鳴を上げて逃げ出した。

 俺は笑いながらその後を追いかけた。

 前に住んでた老夫婦が、埋めた床下から告げ口でもしたものかと思ったが、単に家にとっての、俺のイメージが映っていただけとも思われた。

 なんだかんだでもう半年も住んでいるのに、まだ慣れないのか。

 俺は女と付き合ってもなかなか打ち解けられないのを思い出して苦笑した。

 とにかく、妙な疑いを持たれても困るので、あの占い師も生かしておけない。

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鬼屋敷 安良巻祐介 @aramaki88

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