かえる

カント

本編

 夜に出歩いてはならない。出迎えてもいけない。それがルールだった。




「俺だ」


 父の声がする。玄関扉を叩いている。


 今は零時。父は夜までに帰れなかった。


 つまり、もう。


「ねえ、もし」


「駄目だよ」


 儚い希望に縋る母を、僕は掴んだ。


「頼むよ」


 父の声が響く。


 母は僕を振り払った。リビングの扉を開き、玄関へ。


 僕は急いで扉を閉めた。


 母の悲鳴がした。


 暫くして。


「ねえ」


 母の声がした。扉の外から。


「開けて」


 僕は震えた。耳を塞いだ。


 ルールを破ると。




 弱い陽が部屋に射していた。


 朝だ。


 声は聞こえない。


 喪失感の中、僕はリビングの扉を開く。そこで気付いた。


 玄関からリビングまでは、まだ真っ暗なことに。


「ただいま」


 『それ』は顔を歪ませた。

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かえる カント @drawingwriting

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