第4話 出会い

『はじめまして、ラクダといいます。

 都内で会社員をしています。

 出張が多い仕事なのですが、最近少し落ち着いてきたので

 一緒にごはんとか行ってくれる女性を探しています。

 良かったらお話ししませんか?』


「こんばんは。メッセージありがとうございます。

 私も都内でOLをしています。

 内勤なので、出張でいろんな所へ行けるのは羨ましいです。

 どんな所へ行かれるんですか?」


『さやかさん、お返事ありがとうございます。

 内勤だと外出する機会は少ないですよね。

 僕は中東や香港へ行くことが多くて、逆に移動ばかりです。

 国内だと大阪が多いかな。

 さやかさんは海外とか行くの?』


「私は旅行でハワイへ行ったくらいですね。。。

 中東も香港も行ったことないです!ほんと羨ましい。

 大阪はよく行かれるんですか?

 私、実家が関西なんです。」


『旅行ならリゾートがいいよね。

 さやかさん、大阪出身なの?

 僕は京都です。』


「え、ラクダさん、京都出身なんですか?

 私は兵庫です。

 東京で関西弁が通じる人に会えるとなんか嬉しい 笑」


『わかる、親近感湧くよね。

 お休みの日は何して過ごしてるの?』


「本読んだりDVD見たり。。。インドアなんです 笑

 ラクダさんは?」 


『僕も本読んだり、のんびり過ごすことが多いよ。

 学生の時にサッカーしてたから、たまにフットサルするくらい。

 さやかさんはお酒は飲むの?』


「フットサルされるんですね!

 私は学生の時、サッカー部のマネージャーでした。

 グラウンドで試合見るの、すごい好きだったなぁ。

 お酒は、実は全然飲めないんです。。お酒の場は大好きなんですけどね。

 ラクダさんはお酒強いんですか?」


『マネージャーだったんだ!モテそうだなー。

 うちの高校は男子校だったから、他校の女子マネージャーが羨ましかったよ 笑

 仕事の会食でお酒飲む機会は多いけど、普段は全然。

 若手の頃に散々飲まされたから、飲まなくて済むなら飲みたくないくらい。。』


「残念ながら全然モテませんでしたよー笑

 部室の掃除とか、ユニフォーム洗ったり、完全に雑用係でしたもん。

 ポジションどこだったんですか?

 会食の機会が多いってことは、お仕事は営業さんかな?」


『ポジションはセンターバックとか、ディフェンダーが多かったな。

 部員と付き合ったりしなかったの?

 仕事は営業だよ。

 さやかさんは、内勤てことは事務とか?』


「ちょっとだけフォワードの先輩と付き合ってましたけど、

 女子バレー部の怖い先輩達に吊し上げられてすぐ別れました 笑

 それからは、ボランチの先輩に片思いしてたなぁ。

 仕事は人事ですよ。

 受付嬢派遣してる会社で、少し前に現場から異動したんです。

 ラクダさんは何系の業界?」


『ほろ苦い思い出だね 笑

 仕事は商社です。

 さやかさんの会社は都内?』


「若かったですね 笑

 商社なんだ!モテそうなのになんでこんなところに?笑

 会社は港区です。」


『え、僕も港区。。。近いかもね。

 全然モテないよ。

 上司の付き合いで登録したんだけど、忙しくて放置してて。

 連休で時間が空いたから覗いてみたんだ。

 さやかさんはどうして登録したの?』


「港区の商社ってことは、もしかして青山の。。。?

 私、六本木です。。。」


『わかっちゃうか 笑

 本当近いね。。。

 昼休みとか部下と六本木までメシ行ったりするよ』


「。。。なんだか色々共通点多くてびっくりですね。

 すれ違ってたりするのかも。」


『本当びっくりだね。

 あり得るよー。一昨日もラーメン食いに行ってたし。

 ところで、さやかさんのプロフィールの写真って本物なの?』


「本物ですよ 笑

 さすがに全部顔出す勇気はなくて。」


『ごめん、ポスターかなにかと思って。笑

 なんか色気あるよね。

 全部映してないのが余計気になるっていうか。。。絶対美人だよね。』



メッセージを閉じて、彼のプロフィール画面を表示した。


39歳、既婚、中央区在住。身長180㎝、体重70㎏。

コメント:出張族であまり東京にいませんが、仲良くなれたら嬉しいです。


使っている写真は遠巻きからの全身が映っていて、砂漠で微笑んでいる。

様子からして、中東へ行ったことがあるのは本当らしい。

白いシャツにベージュのチノパンというシンプルなコーディネート。

浅黒く日に焼けた、がっしりとした体。

前髪は目にかかるかかからないかの長さで、

ゆるくカールがかって見えるのは癖っ毛なのだろうか。

顔ははっきりとは判別しないが、穏やかそうな雰囲気が伝わってくる。


これは当たりかもしれない。。。

むしろ恋愛市場のヒエラルキーは私より遥かに上だろう。


名前の知れた企業の商社マン。

部下というワードと、年齢からして中間管理職。

守りたい社会的な立場があれば、極端な変人である可能性も低い。


一息ついて、スマホで横顔を自撮りした。

左から撮った写真は、雰囲気は伝わるが、流した前髪のせいで全容までははっきりとわからない。

が、この程度でちょうど良いだろう。

こんな場所で本人と判別できる材料を流出させる勇気はない。

データを編集してよりアップにし、端に映り込んでいたクローゼットと共に

生活感を切り落とした。


短いコメントを付けて、送信ボタンを押す。

「美人ではないですが。。。」

もちろん謙遜だ。


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