第3話 たから探し

ようやく子供を寝かしつけた午後9時過ぎ。

そっとスマホを手に取り、サイトにログインする。

旦那が帰宅するまでの数時間が、唯一の自由時間だ。


出会い系サイトというのは、キャバクラや風俗と似ているのだろう。

新人にはひっきりなしにお呼びがかかる。

ユーザーネーム『さやか』の受信ボックスには、

昨夜登録したばかりだというのに、20件以上のメッセージが届いていた。


軽いノリのデートから、直接的すぎる体の関係のお誘いまで。

中には、局部の自撮り写真が添付されているものも少なくない。

これで女が釣れると思っているのかと、思わず眉間にしわが寄る。

肝心なのはサイズよりも使い様だろうが。

経験上、セックス自慢をする男に技術が伴っていた試しがない。

この手のメッセージの送り主には、そのままアクセス制限をかけた。


文章には人の成りが出るというのが持論だ。

人事という仕事柄、毎日他人の履歴書に目を通している。

一般的な社会人として好ましい、誠実さと礼儀正しさ、自己アピールのできるコミュニケーション能力。

欲望にまみれた空間だからこそ、人間性を見極めなくては。

面接の合否判定さながら、自己紹介とメッセージの内容に目を通した。


ターゲットは、30代後半~40代前半の既婚男性。

女遊びはひと段落したけれど、まだおじさんの域に達していない

安全な遊びを心得ている、女の扱いに慣れた相手。

ホテル代くらい負担してくれる、ささやかな余裕のある相手なら言うことはない。


たかがセックスの相手を探すことに真剣になっている自分に苦笑しながらも

何人かに返事を書いた。

「どんな関係を求めていますか?」


『お互いの家庭は守りつつ、デートを楽しめる人を探しています』

『妻とは家族になってしまって、男性としての自信を取り戻したい』

『家と会社の往復だけの毎日に潤いが欲しいんです』


妻の立場としては、腸煮えくり返るような文言の羅列。

それなのに今の私には、彼らの気持ちが痛いほどわかる。

異性としての自分を否定されるのは悲しく寂しい。

家族を作り、遺伝子を残したら、男と女である意味はなくなるのだろうか?

ここはそんな気持ちを抱えた人ばかりだ。


共通の悩みがあると、自然と会話が続く。

しかし、このサイトではメッセージのやり取りにお金がかかるのだ。

課金が必要なのは男性だけ。

『LINEで連絡取りませんか?』

この文言が早い段階で来ると、なんだかテンションが下がる。

そんな簡単に個人情報開示できるかよ。

浅はかさと余裕のなさにイラッときて、そこから無視を続けた。


そんなことを何人かと繰り返しているうちに、一人の男と出逢った。

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