第14話「まぁ、見てろって」

「バルバトスさま、侵入者です!」


 アルエルが『最後の審判』に転がり込むように駆け込んできて、実際蹴躓いて盛大に転んでいた。


「いてて……。あっ、バルバトスさま、侵入者……って、さっき言いましたっけ?」


 なんか最近、緊張感なくなってない? うん、まぁ、お互い長い付き合いだしさ。そんなにかしこまらなくてもいいんだけど、ほら、こういうのってちゃんとした方が雰囲気出るじゃない?


 そう言って聞かせようと思ったが、今はそれよりも心配なことがある。呪文を唱えスクリーンを表示させた。


 先日の私、アルエル、キョーコの3人の会議(実質2人だったが)は「まずは資金集め」ということで結論を得た。「しかし、それができれば苦労はしていない」という私に対して、キョーコは「任せときな」と胸を叩いた。


 凄く心強く感じ、同時に恐怖を感じた。まさか、冒険者をカツアゲして……とかじゃないよね? そう尋ねてみたが、キョーコは「ん? んー……。いや、違う違う」と、なんとも曖昧な返事。何とかして止めないと、と思ったが、とは言え、確かに資金集めは大切なことでもある。


「まぁ、まずは見てみろって」


 開ダンと同時にキョーコはそう言ってどこかに行ってしまった。スクリーンを操作し、まずは冒険者の様子を確認する。ルート1、セクション2に彼らはいた。装備などを見る限り、どうやら初心者冒険者のようだ。そこであることに気づく。


 冒険者は4人パーティだった。セクション2を攻略した彼らは、列をなして歩いている。先頭から剣士。次に剣士。更に剣士。最後に剣士。って、剣士4人のパーティかよ! 確かに剣士は人気のあるクラスだ。でも、サポート役の魔法使いや、回復役の僧侶もいないパーティってどうなのよ?


 前にも言ったが、最近のダンジョンは「生死を賭けた冒険の場所」から「ワクワクドキドキのエンターテイメント施設」になってしまっている。その理由が「蘇生術の進化」にある。


 かつては、怪我を負った程度ならともかく、死んでしまうと蘇生は困難なことも多かった。蘇生には高レベルの僧侶などが必要であり、よって冒険者にとって「死」とはその言葉の通りの意味合いで受け取られていた。


 しかし技術の進歩は恐ろしいもので、今では中級レベルの僧侶でも蘇生が可能なまでになってきている。しかも、蘇生グッズまで販売されており、僧侶でなくても仲間の冒険者を簡単に蘇生させることが可能になった。


 最近では、死後1日程度なら軽く復活させることもできるらしい。しかもボンのようなアンデットまで蘇生が可能ときた。アンデットを蘇生って意味が分からないのだが。


 その結果、ダンジョンから恐怖が失われ、エンターテイメント化したわけだ。そういうのを批判する声もあったが、とは言え、人命に関わること。多くのダンジョンは「人命軽視」という批判をかわすため、それを黙認していった。我がダンジョンとて、それは変わらない。


 しかし、それでもこのようなふざけた構成のパーティを見ると、多少の怒りを感じてしまう。パーティ内で、自前のグッズなどを使って蘇生させている分にはまだいい。最悪なのが、全滅したときだ。


 ダンジョンとしては、当然放置はできない。ダンジョン内にも『復活の泉』などの救護施設はあるにはあるが、あれはクルー用であって冒険者のためのものではない。大手のダンジョンでは、冒険者用施設として開放しているものもあるが、当ダンジョンでは資金的な関係もあり、それはできない。


 仕方がないので、担架に乗せ王都の教会へ運ぶことになる。そこで蘇生させることとなるのだが、当然我々としては「運賃」を追加請求することとなる。素直に払う冒険者が大半ではあるが、中には「頼んでない」と追加料金を踏み倒す者さえいたりする。本当に困ったものだ。


 おっと、そう言っている間に、剣士4人組はセクション3をクリアしたようだ。無残にもボンとロックが砕け散っている。あー、救護班。ルート1セクション3へ急行せよ。


 まぁ、仲間のモンスターさえも蘇生できるようになった、と考えれば、悪い時代ではないのかもしれない。父の代には、色々大変だったみたいだからな。


 さて、セクション4を見てみるか。そう言えばキョーコのヤツ、どこに行ったのだろう……? そんなことを考えた途端、スクリーンに彼女の姿が映し出された。って、コラー! 何してんの!?


「あ、キョーコちゃんだ」


 アルエルがスクリーンを覗き込んできた。お前もこの前、こんなことをしてたよな? いや、それよりもキョーコだ。思わず「何してんの」と言ってしまったが、何をしているのかは明白だ。冒険者の相手をするらしい。


 まさか本当にカツアゲ……。止めようか、いや今から行っても間に合わないか。カツアゲならまだいい。うっかり全滅、なんてことになれば、面倒なことになる。分かってるよね? キョーコさん? 力、調整してくれるよね?


 スクリーンの中のキョーコが、こちらを向く。映像を送ってきている魔導器は、精巧にカモフラージュしているはずだが、どうして位置が分かっているのだろう……。キョーコと目が合う。ニコッと笑っている。怖い……。


 あれは、分かっていない目だ。

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