第7話「とりあえず、ご飯にしましょう!」

「じゃーん! 猫耳と猫しっぽのセットです!」


 「ちょっと待ってて下さいね」と言って、アルエルが自室から持ってきたもの。それは、頭に付ける猫耳と、おしりの辺りに付ける猫のしっぽだった。ポカーンとしているキョーコに、アルエルが「こうやって付けて、こっちはこう……。わー、とっても似合ってますー」とご満悦の様子だ。


「キャットウーマン、ってヤツですね」


 そんなモンスターいたっけな? キョーコはちょっと戸惑いながらも「え? 大丈夫? 似合ってる?」と、ポーズを取っている。なんだ、まんざらでもないんじゃないか。「ハイハイ。ニアッテル、ニアッテル」と先程の仕返しをすると、ちょっとだけムッとしながらも「ま、まぁ。折角持ってきてもらったし」と、どうやら気に入ったようだ。


 案外チョロいな、こいつ。


「とりあえず、ごはんにしましょう!」


 アルエルがそう提案してきた。そう言えば、もうそんな時間か。開きっぱなしにしていたスクリーンをダンジョン出入口に切り替えると、外は既に暗くなり始めていた。


 私としては、この荒れ果てた『最後の審判』をなんとかしたいところだったが、よだれを垂らしているアルエルを見ているとそうはいくまいと思う。と言うか、お前さっきから涙流したり、鼻水垂らしたり、ちょっと色々と出すぎだろう。


「まぁいい。それでは『最後の晩餐』へ行こうか」

「『最後の晩餐』? 何それ?」キョーコが聞いてくる。

「食堂の名前ですよ」アルエルが「こっちですよ」とキョーコの手を取って、案内している。多少キョーコの顔が呆れたようにも見えたが、きっと気のせいだろう。


 キョーコにふっ飛ばされた扉が転がっている壁の前に立ち、アルエルが手をかざすと、その一部が光り別の扉が出現した。短い通路を挟んで再び扉。階段を登り、踊り場にある扉を開く。そこを抜けると『最後の晩餐』、つまり食堂がある。


 部屋の右手奥にはたくさんの長机。すでに多くのモンスターが椅子にかけており、オークなどはフォークとスプーンを両手に持ち、机をトントンと叩いていた。


「これ、行儀が悪いぞ」注意すると、少しバツの悪そうな顔をする。かわいいヤツ。


「あー、食事の前に、新人を紹介する」


 そう言ってキョーコを隣に立たせる。


「……なんだっけ? あぁ、そうそう。キャットウーマンのキョーコだ。おい、ちゃんとお辞儀しろ」


 私の言葉に、渋々ながらキョーコはペコリと頭を下げる。


「キャ……ットウーマンのキョーコだ。よろしく」

「キャットウーマン? そんなモンスターいたっけ?」

「さー? 新種じゃね?」

「レアキャラかな?」

「でもさ、なんか弱っちい感じだぜ。腕も足も細くて折れそうだ」

「ギャハハ。ホントダー」


 おい、ちょっと我慢しろ。隣のキョーコから殺気が伝わってきて、肘でつついて注意を促す。しかし「おい。今笑ったやつ。そうお前。ちょっとこっち来い」と言って、空いているテーブルをバンと叩く。いやだから、止めろってば。


 笑っていたのはスケルトンのボンだった。あ、骨=ボーンから取った名前らしい。結構、安直だよな。ボンはガシャガシャと骨を軋ませながら「ナニナニ?」とキョーコの対面に座る。


「勝負だ。本当に弱っちいか、お前の力で確かめてみな」


 そう言って、テーブルに肘をつく。腕相撲かよ……。って言うかボン。お前、人のこと笑えないくらい、腕細いじゃん。骨だけだし。止めとけ、と言おうとしたが、当のボンは「ショーブ、ショーブ」とやる気満々だ。いや、ちょっと……?


「では、両者腕を組んで。まだ。まだ力を入れちゃダメ」


 いつの間にかアルエルが、審判の役をしてるし。止めろよ、お前も。


「レディ……Go!」


 とても見ていられなくて、思わず両手で顔を覆う。何かが机に叩きつけられた音がして、続いてポキンという折れる音。あぁ……。ワーっと歓声が上がった。恐る恐る指の隙間から覗いてみると、椅子に片足を乗せてガッツポーズを取っているキョーコと、うなだれているボンの姿。机の上には、折られたボンの片腕が転がっている。


「『復活の泉』に行って来い」


 ボンは同僚のスケルトン、ロックに抱えられるように部屋を出ていく。少し半泣きだった。そりゃそうだよなぁ。いくらスケルトンだとは言え、見た目少女に腕相撲で負けちゃ、ショックだよな。ちなみに『復活の泉』とは医務室のことだ(もちろん、私が命名した)。


「さ、もう気が済んだだろ?」


 ボンを見送った後、そう言って振り返ると、キョーコは既に次の対戦相手と腕を組んでいた。「はいはい。まだ、まだですよぉ」アルエルもノリノリで審判を続行している。こいつら、何してんの……。


 その後、オークが倒され、リザードマンがやられ、ガーゴイルがノックアウトされた。負けたヤツラは悔しそうにしているが、他のヤツは「次は誰が行く?」とか「キョーコちゃん、ちょーつえー!」とか「俺もやるー」とか大いに盛り上がっている。


 そう言えば、こんなに楽しそうにしている皆を見るのも久しぶりだな……。いつも同じ面子で、毎日同じことの繰り返し……。楽しいことや苦しいこともあるけれど、単調でもある日々。たまにはこうやって羽目を外すのもいいかもしれ……ないわけがない!!


「ちょっ、ちょっと、ダメ、中止!」


 対戦に割って入る。ちょっと『リッチ』のランドフルさん。そんな残念そうな顔しないでよ。あなた最年長なんだから、むしろ止める立場でしょう? おい、アルエル。「えー?」じゃない。そういうのはさっきダメだって言ったでしょうが。って、結局「力でねじ伏せる」ってことになってんじゃないの、これ? もぉー!


 他のクルーも「もっとやるー」と反対していたが「ご飯抜くぞ」と言うと、途端に大人しくなった。私の命令より、ご飯の方が効果的だったのは誠に遺憾だが、まぁいい。


 静かになったのを確認してキッチンに立つ。ふむ。栄養バランス的には、今日は野菜中心の日なのだが……。しかし今日はキョーコが我がダンジョンのクルーに加わった記念すべき日。こういう日はお肉を振る舞うに限るだろう。


 ちょうどいいくらいに熟成されたお肉を取り出す。熱々に熱せられた鉄板の上に、等間隔に切り分けたそれを乗せ、豪快に焼いた。ジュワ~という肉汁の爆ぜる音と、なんとも言えない香りが漂ってきた。あ、薄月はずきさん? あなたは、座ってて下さいね。いえいえ、お手伝いはありがたいのですが、雪女のあなたは溶けちゃいますから。


 焼けた肉を皿に取り分け、付け合せのマッシュポテトを添えて完成。できた分からアルエルが順番にテーブルへと運んでいく。全ての料理が完成したところで、ボンとロックも帰ってきた。ボンの腕に巻かれた包帯が痛々しい。


 ふたりが再び険悪な雰囲気にならないかと心配したが「さっきはすまなかったね」とキョーコが言うと「ウウン、ボクノホウコソ」とボン。あぁ、なんだか雨降って地固まる、みたいな。友情が芽生えるシーンを見ているような。そんな感じで微笑ましく感じていた。ただ、ボンが折られていない方の手を差し伸べて握手しようとしているのが視界に入ってきて、再び絶望する。ボキッと何かが折れる音がした。あぁ……もう。

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