最終章 二人のエピローグ。みんなのプロローグ

エピローグ 幸せのハンバーガー

 涼子さんは捕まる時にものすごい暴れていた。


「離して! 私は、私は悪くない! 私にはあの子しかいないのに、何で引き離そうとするの! やめて!」


 私も穂波ちゃんも、アイリもミホも、警察の人には大分色々聞かれた。

 私は涼子さんが正志や荒井を突き落とした犯人だったことも教えて。

 部屋とか鞄に仕掛けられてた盗聴器のことも全部話した。


 で、全部が終わった後に怒られた。

 警察の人からも、お父さんとお母さんからも。


「心配かけたくなかったって、何かあったらもっと心配するでしょ!」


 本当にその通りだった。

 でも、最後には無事で良かったと笑ってくれた。


 お父さん、お母さん、本当にごめんなさい。


 その後、涼子さんの家から受信機とか言うのも、パソコンから音声のデータも、動画とか写真のデータも沢山見つかったとかで、涼子さんは逃げられなかったみたい。


 涼子さんはあの家からいなくなった。

 引っ越したのか、それとも、刑務所に行ったのか、子供の私にはわからないけれど。


 そのうち、弟が退院して、荒井も退院した。


 荒井は退院してすぐ、出回っていた噂でからかわれて、「俺はまだ童貞だ!」と宣言をしてしまい、一躍時の人となった。


 何て言うか、すんごいバカ。

 と思ったけど、私も駅前で処女宣言したんだった。

 私もバカだった。


 でも、そのおかげか、噂が嘘だって分かって、私がクラスの男子からおかしな目で見られることは無くなった。

 と、思いたかった。


 一度ついた印象はなかなか消えない。

 未だに男子には、時々ジトッて見られることがある。


 学校の裏サイトとか言うのも、涼子さんがいなくなったあと消えたけれど、それでも保存されてたらと思うと怖い。


 谷口さんを始め、クラスの女子からは一応、謝られたけれど、ギクシャクした空気は消えることは無かった。

 そして、今度はエリが無視され始めた。


「裏サイトに写真を載せたのも、エリだったらしいよ?」

「何それ、最悪」

「好きな人を取られたかと思ってやったんじゃない?」

「だからって、親友を裏切る?」


 エリは、全部を否定した。


「私は何もしてない。ただ、私は竹沢さんに相談しただけで、そしたら竹沢さんが盛り上がって」

「何アイツ、今度は竹沢さんに責任おっかぶせようとしてるよ」

「どうなの? 竹沢」

「私はエリから聞いたことしか話してないよ? すっかり騙されたけど」


 私の時とは比べ物にならないイジメが始まったと思う。

 何か悪いことがあれば、全部エリのせいにされていた。


 一番酷いと思ったのは、ある日、小さな地震があったのだけれど、そう言うことも全部エリのせいにされて、疫病神扱いされていたことだ。


 絶対にそんなわけがない。

 誰だってそんなことは分るはずなのに、みんながエリを責め立てていた。


 ある日、体育の後に制服が隠されてエリは泣いていて。

 本気で腹が立った私は歩き回り、ゴミ箱に捨てられてたエリの制服を拾うとエリのところまで持って行った。


「制服、あったよ」

「何、してんのよ」


 エリは、私の顔を見るとかえって泣いた。


「私の事、みじめだと思ってるんでしょ? 笑いたきゃ笑えばいいじゃん!」

「そ、そんなこと思わないよ」

「もう、話しかけて来ないで!」


 結局、エリとは和解できないままだった。

 エリは学校に来なくなって、少し経った後、転校したと聞いた。


 私は悔しくて仕方がない。

 私は涼子さんに追い詰められて、その過程でイジメられることにもなったけれど、私が辛かったのは涼子さんのせいばかりではないのだ。


 もちろん、私を誤解したエリのせいでもない。

 全部、きっかけでしかなかった。


 みんな、なんでイジメなんかするんだろう。

 どうして、簡単に悪い噂を信じるんだろう。


 どうして大して知りもしないのに、人を傷つける言葉を平気で言うんだろう。

 どうして……


「それはね、先輩。人間が悲しい生き物だからなんですよ」


 穂波ちゃんが、笑う。

 穂波ちゃんとは、結局、お友達から始めることにした。

 相変わらずストーカー気質な感じはあって、ちょっと私に尽くしすぎるので、控えめにしてもらってはいるんだけどね。


 それでもなんとか楽しくやってる。

 鼻の形がちょっと変わっちゃったり、顔に傷がいくつも残ってしまって本当に申し訳ないと思うのだけれど、いつもニコニコしてて、とってもかわいい。


「人って、基本的に仲間思いですからね。敵が出来たと認識したら、みんなで対抗するように出来てるんです。敵だって誰かが思うと、一緒になって攻撃するんです。それが心地良いと感じるように出来てる。酷いですよね。みんなが先輩みたいだったらこんな悲しいことは無くなるのに」

「私みたいって?」

「先輩って、ハンバーガーがあれば幸せですよね?」

「うん。まぁ、そうだけど」


 むしろ、幸せの象徴である。

 あまりにも悲しすぎて食べれないこともあったけど、それでも食べれば幸せになれるし。


「それですよ。先輩は、良い意味で自分の気持ちを大切にしてるんです。ハンバーガーをおいしくて食べて、友達と笑って。見知らぬ誰かが泣いていたら、しっかり泣いているって気づいて助けに来てくれる、泣いてた人とも一緒に笑ってくれる。誰かが敵だって叫んでいてもです。先輩の周りには敵なんかいないんです。だから……」


 だから私、先輩のことが好きなんです、と穂波ちゃんは言った。


 ☆


 秋が本格的に来て、冬が来た。

 年が明けて春が来たら私は3年生になる。


 もう、間もなくだ。

 進路、どうしよう。

 大学に行こうか、就職しようか、ちょっと迷ってる。


 穂波ちゃんやみんなと同じ大学に行ければ二人で楽しくやれるかもしれないし、ちょっと魅力的だけど、どうするかは未定のままだ。


 と、そんなある日、アイリとミホと、私、それから穂波ちゃんで集まった。


 いつものハンバーガーショップ。

 私はチーズバーガーを食べていて、アイリの話を聞いていた。


「だからさー。もう一回、バンドやらない?」


 バンド。

 なんでも、転校したエリが組んだバンドが実力派で少し有名になったらしく、悔しいらしい。

 もともとエリはとんでもなく歌うまいし、ルックスは可愛いし、ギターだって豪快に弾いて見せてた。

 ライブパフォーマンスも完璧だったし、どこにいたって人気が出るのも分かる。


 うん。

 エリも元気にやってるみたいで、ちょっと安心した。


 転校って手段を選んだのも、決して逃げたわけじゃない。

 エリは、エリなりにプライドを持っていて、自分らしく生きていける場所を選んだんだ。


「でもよー、私たちにはボーカルがいないぜ、ボーカルが」


 チキンバーガーを食べているミホがそんなことを言う。


「へっへーん。アイリがなんでこの4人を集めたと思ってんの? 3人で組むんなら、穂波ちゃん呼ばないでしょ? ね、穂波ちゃん?」

「え? わ、私ですか?」


 穂波ちゃんが戸惑っている。


「天才少女の実力、見せてちょうだいよ!」


 アイリがニヤニヤ笑った。


 穂波ちゃん。歌、歌えるのかな?

 そう言えば、穂波ちゃんとカラオケ行ったこと無いや。


「わ、私、無理ですよ。人前で何かするなんて」

「嘘ばっかり。アイリ、穂波ちゃんが小学生の時にピアノのコンクールで入賞したの、知ってんだぞ? ピアノが弾けるなら、歌も歌えるでしょ?」


 アイリがさらにニヤニヤしてる。

 穂波ちゃんは、ふーっと一息ついて、それから言った。


「まったくもう、後悔しても知りませんよ?」

「やった」


 穂波ちゃん以外の三人――私たちは顔を見合わせて笑った。


「じゃあ、さっそくカラオケ行こう! ほら、キー子も穂波ちゃんも急いで食べて! 早く―!」


 そんなこんなで、色んなことがあったけど、楽しい日々はしばらく続きそうです。


 あー、チーズバーガー美味しい!


 追伸:穂波ちゃんの歌は、びっくりするくらい上手かったです。

    いつか弱点を見つけてやりたい。


(おわり)

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百合と私と貴女の恋 あとハンバーガー 秋田川緑 @Midoriakitagawa

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