第34話災害ですか?

 結論から語ろうと思う。魔物は一日に多くて三回、必ず対になって現れる。基本的にはCランクとBランクに想定する魔物だ。

 多すぎる。確かにこの量に関しては、不可解だ。


 街に滞在して四日目。さすがにライズたちにも疲労の色が見え始めていた。魔物と相対することに関しては、なんら問題はない。しかし、街を壊さないように、なおかつ周囲の人々に被害を出さないように戦う、ということが予想以上に苦となっているのだ。


 魔物の多くは事前情報の通り、中央広場に多く出現した。しかし、時折街の外や中央広場以外に出現し、防ぎようのない犠牲が出てしまうこともあった。それに関しては仕方がないと割り切ることにしていたが、やはりもう少し何か対処のしようがあるのではないだろうか。


 街の冒険者には代わる代わる中央広場以外の場所の見張りについてもらっている。しかし、彼らは予想以上に使えなかった。


 ヤヒロの言葉を引用すると「んだよ! Bランクの冒険者がBランクの魔物を倒せないってバカなのかよ! Eランクからやり直してこいや!」てな具合だ。

 たぶん、地道にクエストをこなしてランクをあげたのだろう。しかし、昇格試験などは存在しないランク制度。ランク相応の魔物が倒せないパーティーはよくいる現状だ。この街にはその不相応なランクのパーティーが多い。


 おそらくではあるが、この辺りにはBランクやCランクの魔物が生息するディザスターが少ないのだろう。それゆえ、彼ら、もしくは彼女らは高ランクの魔物と戦い慣れていないのだ。致命的である。


 そんなことを考えながら、目の前のエコーイノセントの大きな鎌を叩き斬る。追随して、天から無数の矢の雨がエコーイノセントに降り注ぐ。

 巨大なカマキリは地面に鎌を突き立てて、なんとか体勢を維持していた。


 しかし、体力の回復を待ってやるだけの慈悲などない。ライズの剣が光り輝き、光速の三連突きを下がった顔面に叩き込む。

 コマチがライズの傍をすり抜け、鎌を足場として跳躍。二メートルはあるエコーイノセントを軽々と跳び越し、近距離からの剛射をお見舞いする。放たれた三本の矢は、エコーイノセントの強固な外角を突き破り、激しい爆音と共に石畳の地面を割る。


「ふぅー、いっちょあがりだねぇ」


 ライズは後方で、もう一体のエコーイノセントと競り合うヤヒロとイアンに目を向ける。そちらもちょうどフィニッシュだったようだ。地面から飛び出した巨大すぎる氷柱に貫かれたエコーイノセントの姿があった。


「かーっ! まだ昼間だってのに今日だけで二回目。やってらんねーなおい」


 ヤヒロは悪臭漂うその場に座り込み、大の字で寝そべった。よくもまあ、こんな場所で寝転がれる。


「た、確かにこの街は異常ですね、はい。幾ら何でも魔物が出過ぎです……すみません」


 これだけ魔物が出現すると、ディザスター以外では魔物が出現することはない、という大前提を忘れそうになる。


「じゃ、俺らは戻るから、引き続きよろしく頼む」


 ライズはコマチに手で指示をして、宿屋に足を運ぶ。帰り道、ライズはぼーっとする頭で考えた。この異常事態がいつまで続くのだろう、と。クエスト契約期間は二週間。しかし、残り一週間と三日でこの事態が治る、もしくはイルコスタが対策を打ち立てることはないだろう。そうなったとき、まさか見捨ててソーサルに帰還するわけにもいかない。


 しかし、もしかしたら連絡が入っていないだけで、ソーサルがこの二週間でもっと酷い有様になることだって考えられる。


「……むずかしいな」


 思わず口に出していた。コマチはまだまだ余裕がありそうな素ぶりで、ライズを一目したが、特に声をかけてくることはなかった。


 人間界の至る所で魔物が出現している。これが指す意味は、いまいちピンと来ない。なんにせよ、全体的に対策を練らないと本当に取り返しのつかないことになりそうな、そんな嫌な予感がする。

 しかし、それをするのは冒険者の役目ではない。


 宿に着いた。当初取ってあった部屋は四部屋だったが、よくよく考えれば、交代しながら見張りをするのであれば、二部屋で十分だと気がつき、もう二部屋は払い戻しした。


「じゃ、私は二時間ほど寝るから、ライズも無理しない程度に休憩しなさいねぇ」


 頷いて、自室兼ヤヒロの部屋に入る。ひとまず剣の刃こぼれがないかをチェック、後に白布で綺麗に磨く。甲冑も軽く拭いて、風呂に入る。

 街にこびりつく悪臭はある程度、マシになったものの、やはり全体的に濁った空気が流れている。そんなまとわりつくような空気を流すように長めに風呂に入り、髪が乾くまでの間、椅子に座って目を閉じる。


 色々と考えたいこともあるが、まずは睡眠を取らねば戦闘に支障が出る。Bランク、Cランクとはいえ、攻撃をまともに食らえば、どんなに高ランクな冒険者であろうと人間だ。致命的なダメージは避け得ない。凡ミスを無くすには、コンディションを整えておかねばいけない。


 様々な考えが巡る脳をシャットダウンするように意識を闇に浮かせた。眠りには簡単につくことが出来た。やはり、予想以上に精神的疲労が溜まっていたのだろう。


 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッ――――――――ンン!!


 脳が一瞬で覚醒した。激しい地鳴り。まるで隕石でも落ちたのではないかと感じるほどの揺れだ。姿勢を維持していられなくなり、椅子から飛び降りる。

 脳がガンガンと警告を発する。


 揺れは二分ほど続き、やがて収まった。


「な、なんだったんだ……?」


 息が切れていることに気がつく、大きく深呼吸をする。状況が把握できない。


「だ、大丈夫かい!?」


 コマチが勢いよく扉を開き入ってくる。コマチも相当焦ったようで、息が乱れていた。


「と、とりあえず外だ。外に行くぞ」


 甲冑を急いで着用し、剣と大きな盾を握りしめて外に出る。

 驚愕した。


「な、なんだい。これは……」


 まるで雨のように降り注ぐ魔物。魔物。魔物。どこを見ても魔物だらけだ。建物を破壊し、逃げ惑う人々を嗜虐の限りを尽くして追い回している。

 

 その様子はまるで地獄絵図。


 これから起こりうる惨劇に目を背けるようにライズは駆け出した。

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