第33話ボロボロですか?
「こりゃーひでぇわ……」
ヤヒロの発言に思わず相槌を打ちそうになった。確かに酷い。
崩れた建物、落ちきっていない血、もちろん露店などはほとんど出ていない。人の歩みはほとんどなく、まばらにいる人も、ほとんどが精気を感じられない。
思ったよりも疲弊していた。少し距離があるとはいえ、ソーサルの隣街がこんな風になっているなど、誰が想像できただろうか。
イルコスタにはBランク冒険者が十組以上いたはずだが、一体何が起きればこのような惨劇になるのだろうか。
「とりあえず、ギルドにいって盗賊討伐の申請をする」
イルコスタはソーサルと大して街並みが変わらない。大通りを抜けたところにギルドがあり、露店が豊富。ソーサルとの相違点があるとすれば、イルコスタは夜の街という雰囲気がある。要するに飲み屋や男が春を感じれるような店が点在している。
「それにしても、くっさいねぇ」
「ああ、くっせーな。血の匂いがプンプンしてやがる」
大通りは至る所に戦闘の爪痕があり、血なのか吐瀉物なのかわからないものがそこらじゅうに散らばっている。
「こ、このまま放置してたら疫病が心配されますが……すみません」
「感染症の前に魔物に滅ぼされかけてんじゃねーか!」
ギルドは特に損害を受けている様子はなかった。しかし、中に入ると冒険者の数はまばらで、やはり皆どこか元気がなかった。
「ようこそ。えっと、もしかしてですが、ライズ様御一行では?」
受付嬢は見たところかなり幼い。十五、六といったところだろうか。白と黄色の素材の良い服を身につけ、栗色の髪は三つ編みにしている。大きな瞳は若干曇っているようにも見えた。推測にはなるが、このような若い子が受付嬢をやらなければならないということは、おそらく前職の人が殉職したのだろう。
「あぁ、そうだ。ソーサルのギルドマスターロイドからのクエストとして来た。話は伝わっているか?」
「もちろんですよ。皆、ライズ様方をお待ちしておりました」
無理やり作った笑顔に見える。既に満身創痍。いつ来るかもわからない恐怖に怯えているようだ。しかし、今のライズたちがこの子にしてあげられることはない。
盗賊の討伐報酬を受け取り、この状況でも経営している宿屋を聞く。
宿屋にはひとまず一週間分の支払いを済ませ、荷物を各部屋に置くと、ひとまず全員ライズの部屋に集まった。
「思ったよりも深刻そうだねぇ」
「受付の方の話を聞くと、Bランクの魔物がうじゃうじゃ湧いて来るそうですね、はい」
受付嬢曰く、最初に魔物が街に出現したのは二ヶ月前、おそらくソーサルにデッドリーパーが出現した時期と同タイミングだ。それ以来、Bランクの魔物とCランクの魔物が頻繁に、どこからともなく出現するらしい。
「Bランクくらいでガッタガタしてんじゃねーよ、って話だよな。俺らの街なんてデッドリーパーだぞ! Aランクの魔物だぞ! この街でそんなやつ出たら、完全に崩壊してたじゃねーか」
「ソーサルだって、ハルトたちがいなければ崩壊してただろ。俺らじゃデッドリーパーには敵わなかった。一緒だ。この街の奴らと」
ヤヒロは「ぐぬぬ」といいながら腕を組み、何かを必死に考えている。
「た、たしかーに! しょうがねぇ、Bランクくらいならこのヤヒロ様が、スパッスパッちょちょーいって倒してやるぜ!」
どうやら、一応自分の力量はわきまえているようだ。口だけで、変に暴走しないのはヤヒロの救いだ。というか、これで暴走されたら、今頃ライズたちのパーティーにヤヒロはいないような気がする。
「魔物の出現時間はまばらと聞きましたが、ど、どう対策しますか?」
「一晩中寝ずに張り込むわけにはいかないしねぇ」
ライズは少しだけ思考を巡らせた。正直、宿屋で騒ぎを聞きつけてから飛び出したとしても、さほど時間はかからないとは思うが、少なからず犠牲は生まれてしまう。魔物が出現するのは約六割が中央広場らしい。となると――
「ディザスター内と同じように、見張りを置く。場所は中央広場、二人一組で十二時間交代だ。イアンとヤヒロ、俺とコマチの前後衛組み合わせで、魔物が出現した際はイアンか俺が伝達魔法で、宿屋にいるもう片方の組に連絡を取る。四人揃うまでは過度な戦闘は行わず、なるべく被害が出ないように魔物の注意を引き付けろ」
ざっくりではあるが、一通り説明をする。誰も反論する人はいない。長らくパーティーを組んで来たせいか、変に発言力が増してしまっている気がするが、現状、他の策は思い浮かばないようなので、ライズの作戦でひとまずは様子を見ることにした。
一体、いつからこんなリーダーじみたことをするようになったのだろうか。元々、そういうタイプではないというのに。
「イレギュラーが起きた場合は、その場で各自の判断で対処しろ。もちろん、Aランク以上の魔物が出現してもだ」
全員の表情が自然と引き締まった。やはり、思うところがあるのだろう。Aランク冒険者としての威厳というか、プライドのようなものが、以前のデッドリーパーでヒビが入ったような気がする。取り返すには、もっと強くなるしかない。
自惚れない。目の前の魔物がどれほど強くても、勝たなければいけない。強者の宿命みたいなものだ。正直、街の住人のことなど知ったこっちゃないが、守れなかったとなると、こんどこそプライドはバラバラに砕け散るだろう。
「いいか、今回は絶対に負けない。ハルトたちにいい顔させるな」
「あーっっっったりめーだ!!」
ヤヒロの叫ぶ声が宿屋全体に反響した。
「よし、さぁクエスト開始だ!」
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