滅びのあと

来条 恵夢

浮遊世界

 宙に浮いた島が、崩れ落ちていく。

 島の湖から水がこぼれ落ち、下の海と混じる。鳥たちが飛び去って行く。

 青空はどこまでも、遠く広がっていた。

 

 五分足らずで消え去っていくだろう世界で、それらを眺めていた。

 ただの情報データでしかないとわかっていても、綺麗だと思う心は本物だ。

 周囲には、同じように世界の終わりを見つめる人たちがいた。

 空に浮いたり海に浮いたり、崩れ行く島から落ちていったり、せわしなく飛び回ったりとそれぞれだが、誰もが、同じ世界の最期を見つめていた。

 体感して、味わっていた。


 ゲームの世界が、現実のように感じられるほどに技術が発達して数年。

 はじめてプレイしたゲームがサービスを終了させると聞いた時には呆然とした。

 だから、最後の最後までそこにいた。

 そうやって惜しんだ人はたくさんいて、だからなのか、最後まで運営は手を抜かなかった。

 崩れ落ち、消え去る世界を体感させてくれた。

 そうして――世界の最期に、魅せられた。

 

 見守るもの、という呼び名がどこから生まれたのかはよくわからない。

 とにかく、ゲーム世界の最期を看取る人たちは、いつからかどこからか、ひそかにそんな名前を与えられた。

 そしてそれは、ゲーム世界を終えなければならない人たちの琴線にも触れたのだろう。単にアクセスを断ち切ればいいだけなのに、多くが五分程度の世界の最期を作り上げることを選んだ。

 そのおかげで僕らは、見守ることが出来た。

 

 最期の五分間を見守るために、僕らはつどう。

 これは、ごくごく個人的な楽しみ。

 ひっそりと、静かに。ひそやかに。

 

 次々に海に崩れ落ち、沈みゆく島々を眺め、そのせいですっきりとしてしまった空を見上げ、そろそろかと胸の内で呟く。

 思い思いのプレイヤーだけを残し、世界が空と海だけになった。

 

 が。

 

『 プレイヤーの皆様にお知らせいたします。本日ただ今、―――の存続が決定いたしました! 』


「は?」

 

 思わずこぼれた声を、アナウンスが打ち消していく。

 いわく。

 この場に集まったプレイヤーの数を理由に、大口の出資者を説き伏せることに成功した…の、だとか。

 ペテンだ。

 この場に集まっているのは、僕を含め「見守るもの」も数多い。

 僕らは、ゲームをプレイすることは少ない。

 登録はするものの、ただ、サービス終了を待ち受け、最期だけを味わおうとやってくる。

 つまりは、本当の意味ではプレイヤーではない。もちろん、課金もしない。ゲームに何ら貢献などしない。

 だからこれは、「見守るもの」の存在が一般的にはあまり知られていないのをいいことに、上手くだまくらかした、ということなのだろう。

 メディアに取り上げられる寸前、しかし「見守るもの」の数は刻々と増えているという、今だからこそできたことに違いない。


 やられた。


 思わず、笑みがこぼれ落ちる。

 味わった最後の五分間分くらいは、お代として課金してやってもいいかと決めた。

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滅びのあと 来条 恵夢 @raijyou

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