ヒト夢を見る④
「始めに上陸したとき彼はツチノコのフレンズと会うが、すぐに島の長に連れ拐われて図書館で料理番をすることを言い渡される
試行錯誤を繰り返すうちに一度荷物を取りに船に戻るが、それまでにも様々な出会いがあり彼の存在は着々とパークに受け入れられていく、図書館に帰ったその後は料理の幅も広がり腕も上がる、そしてやがて君と運命の出会いを果たす… とこんなところかな?」
「…」
運命の出会い…。
そう、運命の出会いだ。
悲しみ責任を感じつつ彼を見守りながら彼女は考えていた、もしかすると自分と彼は必ず結ばれるようになっているのではないか?
歴史改変後も最後は自分と結ばれていたのが何よりの証拠では?例えばあの時彼が一歩踏み出せるように背中を押してあげても何かしらの理由でいずれはアイとは別れることになり、結局彼はパークへ移住することになる… そう考えていた。
例えばそれが16歳というタイミングでなくとも、高校を卒業したあとにパーク復興の仕事に貢献するため父親やミライの下に着くだとか。
あの頃はカインドマンという彼と彼の母親を付け狙う輩もいるのだから、安全確保の為にパークへ避難させるだとかが考えられる。
あまり考えるべきことではないが、別れ話を切り出したアイに取り乱し傷を負わせてしまいまた同じ事が起きてしまうということも。
運命… その一言で片付けてしまうとすれば彼はパークに移住することがそれであり、タイミングは違えどパークに来てしまいさえすればいずれかばんと出会い互いに心が引かれ合うことになる。
二人は結ばれる運命、赤い糸が互いの小指に繋がれているのだ。
それは歴史改変を行った際に感じた彼女の仮説… いや淡い期待のようなものだった。
「これから彼はいろいろ経験しますが、回避するべきはここです」
流れていく周囲の風景、時と場所は移りサンドスター火山をバギーで登る彼の姿が彼女の目に映る。
「ここか…」
「どうか… しました?」
「いや、彼はこれから少し行ったとこの崖から落ちるんだったな」
いつも無感情に淡々と話す歯車故か、彼女には歯車が時折見せるほんの一瞬の人間味のようなものを敏感に感じとるようになっていた、こんな姿をしているがこの歯車は本来ヒトの姿を持っており、実は彼と深く関わりがあるのではないか?だから彼のことにもやけに詳しく自分に力を与え彼のことを救うように仕向けたのでは?
彼に集中するあまり目を向けていなかったが、こうして冷静に視野を広くしてみれば色々なことに説明がつく。
「やけに気にしますよね彼のこと?歯車さんは彼のなんですか?」
「何とは?」
「お友達ですか?それとも恩人かなにか?」
「何でもないさ… 君は彼から歯車型の友人がいると聞いたことがあるのか?ないだろう?そんなことよりそろそろだ、彼がセルリアンに囲まれ始めたぞ」
こうして肝心なことをはぐらかしてくるが、はぐらかしてると感じるということは図星なのではないだろうか?
ヘラジカの槍でセルリアンに応戦する彼に細心の注意を払いつつ、かばんは歯車に対する違和感も確かなものと考えた。
やがて彼、シロは切りがないとバギーで山を降り始めた。
「焦っていた彼は路面の凹凸への対処が間に合わずハンドルを取られてしまう、そして直進していたはずのバギーは左へ急旋回、そのまま崖っぷちの岩に衝突しバギーは静止するが、その勢いは消えず彼を崖の向こうへ…」
ガンッ!
『しまっ…!?』
…
その瞬間に時が止まり、彼は空中で静止した状態でピクリとも動かなくなった。
大層驚いたのだろう、崖から落ちると分かった彼の表情はまさに“ビックリ”という感じである、目を丸くして口を「あっ」と開いている。
「少し戻します」
まるで巻き戻しボタンが押されたかのように時が遡る、崖の向こうに投げ出された彼はバギーに戻り、バギーは衝突する寸前のとこで動きを止めている
「ほんの少し… ほんの少しだけ向きを変えてぶつからないようにしてあげれば」
かばんが手をかざすと彼はバギーごと浮き上がりぶつかるはずだった岩から進行方向を変えた、方向はそのまま正しい下り坂へ
このまま順調に逃げ切れば彼がセルリアンに追い付かれることはない
そして、時は再び動きだす
『ッ!?ととっ… 危ない危ない!急いでても運転に気は抜けないよな!』
少しバランスは崩していたが予定通り山を順調に下っていく、歴史は改変され彼はバギーと共に無傷の下山を果たした。
これにより後に起こる変化は大きいだろう。
「このまま山を下ることによりハンター達にセルリアンの報告が可能になる、無傷の彼も含め強者達を集めて掃討に入るだろう」
「はい、そして飛行機に寄生したセルリアンはそこで現れます… だけど問題はありません、パークでも指折りで数えられるほど強いフレンズさん達がみんな集められています」
彼女の言う通り、下山したシロは長やハンター達にセルリアン大量発生の報告をして態勢を立て直し再び火山へ。
強者達で頭数を揃えた為に掃討は楽になり、改変前よりも早まった飛行機セルリアンの出現にも動じない。
しかし、空を自由に舞う大型セルリアンとは地を駆ける彼女達にとって非常に厄介な相手なのに変わりはなかった。
『なんだアイツは!デカイくせにあぁ高く飛ばれちゃ手が出しづらいッ!』
戦い方に難儀したハンターヒグマの言葉に、シロと共に着いてきた一人のフレンズは立ち上がった。
『あまりやりたくないが仕方ない、奥の手を使う!お前に頼みがあるシロ!』
『何でも言って?』
『オレの目はそれを使うと一時的にほとんど見えなくなる… だからその間は、ま、守ってくれ…///』
『なんだそんなことか、言われなくても守るさ!任しといて?』
ツチノコだ。
当時まだビームのコントロールが未熟だった彼女だが、セルリアンを上手く撃ち抜き欲を言えばそのまま石を砕く作戦にでた。
空戦可能な長の二人が応戦しつつその隙を突きツチノコがビームで撃ち抜く、三人にほぼ任せる形になるがその間ハンター率いる他のフレンズ達はセルリアンの気を引き隙を作った。
ズキュン!
ツチノコの目から放たれる光線はセルリアンを華麗に撃ち抜くが、コアとなる石は上手く照準が合わず外れている、だがダメージは大きい。
攻撃を加えた者に標的を変えたセルリアンはツチノコに向かい鋭い牙の生えた口を持つ触手を伸ばす。
しかしそこには彼がいる。
『ツチノコちゃんに…!手ぇ出してんじゃねぇよッッッ!!!』
師であるヘラジカから譲り受けた槍を巧みに操り、シロはそれを全て凪ぎ払う。
やがてダメージの蓄積により高度が落ちたのを見計らい、ヘラジカはその好機を逃さず彼に声を掛けた。
『よし、あれなら届くな… シロ!』
『何師匠!』
『今からお前を投げ飛ばす!』
『ナズェ投げるンディス!?』
『石を砕いてこい!大丈夫お前ならやれる!ツチノコは一端ライオンに任せろ!』
問答無用でヘラジカに捕まったシロはジャイアントスィングの要領で回転を加えられ全力で高く投げ飛ばされる。
『ぬぇぇぇぇい!!!』ブンッ!
『あぁぁれぇぇぇ!?そんなご無体なぁぁぁ!?!?!?』
なすがままに舞い上がるシロは目が回り受け身何もない自由落下を始めるが、そこを一旦長の二人に受け止められた。
『世話が焼けるのですまったく…』
『ここまでフォローはしたのです、確実に仕留めるのですよシロ?』
『はぁ助かった… ハイハイ、そんじゃいっくぞー!』
今度は縦回転、勢いを増しながら落下するシロが目指すは背中の石。
やがて彼は槍を突く構えになり、彗星の如き一撃をセルリアンに直撃させた。
『グゥラァァァァッ!!!』ズギャァオン!
まるで雷鳴のような轟きと共にセルリアンは爆発四散。
かばんによる歴史改変により最悪の事態が免れるのと同時に最善の対応とることができたのだ。
「改変前よりも早い対応、そして無傷の生還を果たした彼の活躍… これにより火山の大掃除も早まりこのエリアの平穏が予定より早く訪れる」
「それだけじゃありません、バギーは置き去りになってないのでアライさんやフェネックさん、それにアルパカさんもリカオンさんもツチノコさんも危ない目には逢いません、まぁリカオンさんとツチノコさんは今も戦いに参加してたんですが、やっぱりあの時ほど危険ではありません」
改変前の通り、いやより良い結果を残しその歴史が刻まれた。
これから火山に残る戦闘機の残骸や空の砲弾、それらの無機物にサンドスターロウが反応しないようにフレンズ達総出で片付けに入ることになる。
「現場監督は改変前同様君が勤めているようだ、さすがの指揮能力と言える」
「この頃、僕はもう既にシロさんが好きでした… 彼が僕のことをどう思ってるか全然わからなくって、恋って苦しいなって思いながらいつも彼を目で追っていたんです
客観的に見ると結構あからさまなものですね?なんだか恥ずかしいです」
当時と同じように、彼からかばんに山の大掃除を提案していた。
真面目な話でしか話し掛けてこない彼に少しムッとしてしまったのも彼女にとってはいい思い出だった。
何故なら、そのあと色々とすれ違いがあったもののちゃんと結ばれたのだから。
「片付けの後に“みんなお疲れ様”ってパーティーを遊園地でするんです、その時僕もお料理のお手伝いをしたんですけど、僕は彼と一緒に料理してるのがなんだか楽しくて鼻歌なんて歌ってました、そしたら彼にそれが聞こえてたみたいで“上手だね?”って… 恥ずかしかったけど、嬉しかった… すごく」
「思い出に浸っているところ悪いがどうやらここも少し変化があるようだ、本来はいなかったはずの人物がいる」
彼女はその光景に少し動揺を覚えた。
この時彼の料理を手伝っていたのはかばんの他に火を恐れず料理経験のあるヒグマ、それから彼の料理の弟子だったアライグマだ。
後からアライグマを追うようにフェネックも来たが、彼女は飽くまでアライグマのサポートに徹していたので実質三人の料理助手が彼の元にいたことになる。
だが改変後の今、もう一人いなかったはずの彼女がそこにいた。
『オレも何か手伝おうか?大したことはできんが…』
『あぁ助かるよ、野菜切ってくれる?猫の手ならぬツチノコの手も借りたい』
『はぁ?ツチノコに手はないぞ?マヌケ』
それはツチノコだった、本来であれば彼女はスナネコと共にその辺をブラブラして遠くからシロを見つめるだけだったのだが、なぜだか今回はやけに距離が近く自ら手伝いを名乗り出ていた。
『こうか?』
『あぁほら危ない危ない!こうだよ!ちょっと失礼?』
そんな彼女を見ているとかばんは当時の気持ちが胸の奥からふつふつと沸き上がるのを感じた。
『お、おい!なんでこんなにくっつくんだよ///』
『だだだってこうしないとちゃんと教えられないんだもの…』
『おま…/// ってお前も震えるくらい緊張すんなら見栄張るなよ!?』
仲睦まじい、まるで初々しい恋人同士のような… そんな二人を見ていたかばんは。
「なん… で?こんなこと… なかったのに?あれは初めて会った時に僕にしてくれたことなのに…」
「そうか、君は知らないのか?彼が崖から落ちてその時の怪我がまだ完治しないころには彼女… ツチノコが付きっきりで看病していたのは君も知っているだろう?その時に一度だけ料理のできない彼の代わりに彼女がやると言ったことがあった、彼女も慣れず覚束ない手付きなので彼はあの時もあぁしてハニカミながら手解きをしていたんだ… なるほど本来なら怪我をして動けない時なのでこのタイミングで似たようなことが起きたのかもしれないな?」
『そ、それにしたって仲が深すぎます!確かにシロさんはツチノコさんと仲が良かったけど!あんな!あんな人目の着くように… 僕だっているのに… どうして?』
この時の彼の心境としては、かばんなら何を任せても問題ないので自分のことに専念できるという絶大な信頼を向けていた、実際彼女ならそつなくこなしていた。
だがツチノコは料理などできない、すぐに現場慣れさせるにはそれなりに着いてあげなくてはならない、このように考えていたのだろう。
しかし本来ならば鼻歌を歌い笑顔だったはずの当時のかばんの表情はそれをすぐ近くでされることで複雑なものに、黙り込み目を伏せながら煮込みものを混ぜていた。
「なにがおかしいんだ?」
「だって!」
「彼は幸せそうだ、失った青春を今まさに謳歌しているじゃないか?考えてもみてくれ?君が成し遂げようとしてるのは歴史改変による彼の幸せだ、さっきからなんども体験してるだろうこれくらいのこと?本来の歴史と変わるのは当然なのだから」
「…」
自分が行っているのは歴史改変。
彼の幸せの為の歴史改変。
直しきれなかったさっきの歴史と同じ。
改変することで彼は幸せでも、自分が無関係になることもある。
そんなことはわかりきっていることだ、彼女だって既に覚悟していたことでもある。
ただそれは彼女がある結論に行き着く前のこと、最後には必ず… パークに来た時点で必ず彼と自分が結ばれるという答えに行き着く前のことだ。
だからおかしいと感じた、自分が目の前にいながらよりにもよって当時恋敵だったツチノコとあぁしているというのが苦しくて仕方なかった。
変わった歴史はさらに容赦無くかばんを心を掻き乱した。
『なぁおい?お前いつまで野生解放してるんだ?必要もないのにフレンズ化してるとまた倒れるぞ?』
『なんか戻らなくてさ?火山でサンドスター吸いすぎたのかな?まぁほっとけば戻るよ、いつも足りないくらいだもん』
『そうか?お前の体はみんなと違うからな… 注意したほうがいい、しばらくオレも側で様子を見るからな?』
事態は彼女の心とは裏腹にツチノコとの仲が深まるような方向へ進み始めていた、その場いた当時のかばんも未来のかばんも動揺してしまい彼女は思わず耳を塞いだ。
「ダメダメダメ… この時にツチノコさんは一緒にいてはダメ…!」
「フムそうか… 確か彼はこの時サンドスター過多で動物的本能が強くなり発情期になってしまうんだったな?自らを地下室に監禁するという荒業に出たが止まる切っ掛けは君だったか?さて、この場合どうなるのか?」
そして時は進み、場所は数日後の図書館となった…。
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