猫夢を見る②

 現在船に揺られて海の上。

 さて、どこから説明しようか?


「よしお前達、言い訳があるなら一応言ってみろ」


「「…」」


 妻を連れてセントラル直行便の船に乗り込んだ、そんな俺の前になんともばつの悪そうな表情で黙って座りこむ二人のフレンズがいる。


 悪いことをした自覚があるのだろう、シラ~っと目を逸らし合わせようとしない。


「目を逸らすんじゃない、こっちを見ろ」


 威圧感を感じたのか二人はビクッと肩を震わせたが尚も俯いたまま目を合わせる気はないようだ、やがてそのうちの片方… 角の子は一転の曇りもない真っ直ぐな目を俺に向けこう言ったのだ。


「ライオンですマスター!ライオンがこっそりマスターに着いていこうと言ってきたから私は止めに来たんです!」


 弟子、ヘラジカのヘラである… もう一人はライオンのライ。


 彼女はいとも簡単にライオン… ライに全ての罪を擦り付けた、だがそれを黙って聞いている百獣の王ではないだろう。


「てめぇヘラジカァ!売ってんじゃねぇよ!?てめぇだってノリノリだっただろうが!罪を擦り付けて一人だけ逃げるなんざ森の王が聞いて呆れるぜ!」


「おのれ!私を侮辱するか…!」


「何度だって言ってやるよ!この卑怯者!」


 やれやれまた始まった…。

 

 今まさに掴み合いのケンカになるところだろう、先日ケンカばっかりしてんなよって言ったばかりだろうがまったく… なんなら毎日言ってるぞ。


 そんなことよりなんで二人はここにいるんですかねぇ?特にライにはお仕事任せてきたはずなんだけどなぁ?


「貴様ァ…!ライオン!」


「あんだよやんのかぁ?おら来いよその角へし折ってやんよ?」


 熱い火花散らしてんじゃねぇよぉ…。


 まったくため息がでる。

 ヘラも言い訳が苦し過ぎるしライもわざわざ煽るようなことを言っている、毎回俺の前でケンカ始めて拳骨食らってるのによくぞまぁ飽きずにできるもんだなぁ?水と油… とまでは言わないんだが。


「やめろ見苦しい!」


「「うっ…」」


 怒鳴り声をあげると両者すぐに萎縮、すっかりと縮こまり座り込む。


「いいか!船でケンカするようなバカ共は海に叩き落としてやるからな!ほらやってみろ!覚悟しろよお前ら!」


「「ごごごごごめんなさぁい!」」


 本当は二人とも素直ないい子なはずなんだが、なんでケンカばっかりしちゃうかなぁ?先代は仲良しだったのになぁまるで夫婦みたいにさ?


 まったくこの歳でこんなに怒鳴り散らすようになるとはね、こんなこと続けてたらおじいちゃん血圧上がっちゃう…。

 正直クロとユキより手が掛かってるぞ?やっぱり二人はとってもいい子だったんだな?二人共いい子でパパ嬉しいよ。


「はぁ… まったく仕事の前に疲れさせるなよ?ライ、城を任せたはずだぞ?こんなとこでなにしてる?」


「あの… キングコブラと会って…」


「まさか代わりを頼んだのか?」


「だってなんか頼られたがってたから…」


 安請け合いすんなよジャングルの王!ドMコブラ!平原に何の用だったんだよ!


 簡単に纏めるとこうだ。


 ライが平原をブラブラと暇そうに練り歩いているとここで会ったが百年目のヘラと出会う、お互いメンチを切っていたが「ケンカばかりするな」という俺の言葉を思い出したライは無闇に突っ掛かるのをやめた。←いい子


 そこで俺の話題になり、ヘラは俺が少しの間留守にすることを知るとその事情をライに尋ねた。


 ライから俺がなんだか摩訶不思議アドベンチャーしに行くから城を任されたのだと聞かされ、ヘラも成る程とすぐに納得した。


 だがこの時二人は思った「楽しそう」と。

 

 そしてなぜかこの時だけは二人仲良く「なんとか着いていけんのか?」と頭を悩ませた。←普段から仲良くしろ


 そこに現れたのが三人目の王キングコブラである、彼女は最高最善の王になりたいので民から言われるありとあらゆる事を「なんとかなりそうな気がする!」と言って色々肩代わりしまくっていた、寧ろどのちほーでも使いパシりみたいになっていたほどだ。


 その時ライがほんのぼやきのつもりで「代わりに城を任せれる子がいればなぁ?チラチラ」と言うと、彼女は恍惚とした表情でそれを自ら引き受けたのであった。


「おい、さすがにまずくないか?マスターからのお達しなんだろ?」


 一応止めたヘラだったが…。


「いや向こうから任せろって言ってきたんだからアタシは悪くないぞ?」


「それもそうだな、港へ急ぐぞ」


 仲良しか、いい加減にしろお前ら。


 こうして出港直前の船に忍び込んだ二人、海に出てしばらくたった頃船員の一人に密航者がいますと俺の前へ無事に突き出されたわけだ。


 さて、言い訳は終了したな?


 なんだか二人は私達悪くないって満足気な表情だが、残念ながら言い訳は言い訳にしかならないので正座説教を再開することにした。


「まったくお前達は!!!」ガミガミ


「「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」」


 ホワイトさんも言っていたことだが、俺はライを信頼して任せたんだ。

 お前の気持ちはわかるがあまり失望させるなよ、ヘラも当たり前みたいに乗っかりやがってまったく…。


 仲良しじゃんよもうホント… 普段から仲良くしてくれよ?


 だが俺がそうしてガミガミやっていた時、そんな俺を静めるのが一番得意であろう人物が後ろからやって来て優しく言ってくるのだ。


「シロさん?あんまり怒ってるとお顔が怖いですよ?」


 妻かばんである、確かに彼女の言う通り俺は今眉間にシワを寄せ酷い面してるんだろう。

 しかし妻が来たからと言ってここでニヘらぁ~とすると威厳がない、なので努めてキリッとした顔を心掛ける。


「あぁすまないけど今大事な話をしてるんだ、口を挟まないでもらえるかな?」キリッ


「何カッコつけてるんですか?ほらもうこんなに目を釣り上げて~?いけませんねこれは?はい笑ってくださーい?」←華麗なるフェイシャルマッサージ


 あぁ何するんですか奥さんそんな流れるように耳まで触って… お、おやめください尻尾をそんな風に触ってはなりませんよ?


 あぁん…。


「ニャァニャァ… ごめんなさい///」←即落ち


 やっぱり今回もダメだったよ、だから今度は始めから諦めるよ。


 俺を落とした妻はそのまま正座する二人に目を向けるとその場に少し屈み、優しく耳周りを撫でながら声を掛けていく。


「二人ともほったらかしにされて寂しかったんだよね?よしよし、ほらもう寂しくないね?」


「おかみぃ…」

「奥様ぁ…」


「ほらおいで~?」


「おかみぃ!」

「奥様ぁ!」


 妻は、二人に甘い。


 俺だって厳しいというわけではないんだけど。←そうだろうか?


 一方妻は完全に甘い、まるで父親に叱られた子供の逃げ道になってあげる母親のようだ。


 よく話すのが、クロとユキもすっかり大人なのでああいう子には弱いとのことらしい。


 孫に溺れる祖母のような状態ということだろう、もちろん孫には俺も甘い。


「仕方ない、ここまで来たら手伝ってくれるか二人とも?社会勉強みたいなもんだと思うことにしよう、頼むぞ?」


「ニャァ… おかみぃ///」←即落ち

「奥様いけません… こんなことはいけません///」←即落ち


「聞けコラ… かばんちゃんごめんちょっとそれ一回やめて?お願い、後で好きなだけ触っていいから?」







 そんなトラブルだらけの航海であったが無事セントラルの島へ上陸、ズタボロだったここ周辺の建造物も回収作業が進められ全盛期の姿を取り戻しつつある。


 ただ今回は建物に用があるわけではない、周辺に残るサファリゾーン… 即ち森の中に用がある。


 厳密にはセントラルではなくセントラルの周辺と言ったのはそう言うわけだ。


 これから漠然としてるが捜索に入る、適当に森の中を歩きフレンズがいたら情報収集を行う… とまぁこのようなプランで行こうと思う。


 俺だってこんな面倒そうな依頼が1日で済むなんて思ってないさ?


「よっしゃあ!どんなヤツか知らねぇが腕が鳴るぜ!」


「どちらが先に倒すか勝負するというのはどうだ?」


「いいのかぁ?アタシが勝っちまうぜ?」


「フン!お前が負けて悔しがる姿が目に浮かぶようだ」


 張り切ってるな二人とも?にしてもそんなに面白い仕事だろうか?相手はセルリアンじゃないんだぞ?


 やっぱり基本似てるんだろうな?何か切っ掛けがあればライとヘラはいいコンビになれそうなのだが…。


 よしわかった、まさにこれだろう。


「いいか二人とも?相手はフレンズを襲って食料を奪う暴君みたいなヤツだ、だから単独で動かず二人で行け」


「なんでコイツと!?」

「なぜこんなヤツと!?」


 二手に別れて行動するとしよう、俺は単独でライとヘラにはバディを組ませる。

 まぁ二人がこのやり方に不服なのはわかってたさ、でもいい機会だ。


「ここのフレンズだって決して弱くはないはずなのにあっさりとやられているような話だ、それを聞く限り相手はかなり厄介なのはわかるな?そんなのを相手にするとなると一人だと不安だ、でも二人ならきっとなんとかできる筈だ、だってそうだろ?フレンズの中でも特に強いお前達二人が組むんだから?」


 俺の言葉に二人は無言で向かい合うも。


「チッ!足引っ張んなよな?」


「そのまま返す」 


 憎まれ口を叩きまたメンチを切り始めた、なのでそれを止め二人の頭にポンと手を置いた、二人はケンカするほど仲がいいんだよなきっと?だから協力すればきっと上手くいくと俺は信じている。


「お前達がお互いのことを気に入らないのはお互いに強いということを認めているからだろ?違うか?」


「「…」」


 黙っているが否定もしないのは図星だったからだろう、ライにはライの強さがありヘラにはヘラの強さがある、お互いに強いと思っててなかなか勝てない相手だから気に食わないんだろうと俺にはそう見える。


「そんな強い相手が今回味方になってくれるんだ、頼もしいにもほどがあると思わないか?お互い違った強さを持ってる、二人とも力は強いがライは素早いしヘラは丈夫だ、フレンズによって得意なことは違う、相手には相手の土俵… ステージってやつがあるんだよ?だから相手の長所を見ろ?二人で尊重し合えばきっとどんな相手にも勝てるさ?チームワークだ、できそうか?」


「わかったよ…」

「わかりました」


「よし、いい子だ」


 昔姉に言われたことを俺がこの子達に伝えるというのがなんとも時の流れを感じる…。


 二人の顔を交互に見た後、ワシャワシャと少し雑に頭を撫でた。

 そして俺がその手を離すと二人は何も言わず森の中へ入っていった。


 二人が並んで歩くそんな後ろ姿に、俺は姉と師の背中を思い出す…。



 姉さん?師匠?二人を守ってやってくれる?これでも心配なんだよ俺… 頼んだよ?



 さて… 俺も行くか。



「じゃあかばんちゃん?暴走フレンズだった場合カウンセリングを頼むよ?落ち着かせれば事情を聞けるかもしれない」


「はい!シロさんもお気をつけて?なんだか思っていたより難しいような気がするんです、今回のお仕事…」


 妻の勘は当たる、彼女がこう言うのだから恐らく単純な通り魔みたいな事件ではないということだろう。


「了解、じゃあ行ってきます!」


「いってらっしゃい!」


 妻に背を向け鬱蒼とした森の中へ足を踏み入れる、フレンズを襲う者はなんなのか?食料を奪うということは確かにセルリアンではないのだろう、食事を必要とするということはなにかしらの生き物であるということだ。


 しかしフレンズならばなぜフレンズを襲う?なぜ食事を用意してくれるラッキーを襲う?知能が低い?では犯人はただの獣?いや、それならフレンズが遅れをとるとは思えない。


 何かしらの理由で食欲のコントロールが下手なフレンズと見るのが自然か。


 わからない、出会ってみないことには…。




 森に入った時、何かを感じた。



「…?」



 誰かに見られている?



「誰だ…」



 いや、気のせいか…。








 

 一方、先に別ルートから森へ入ったライオンとヘラジカの二人。


 お互いあれから一言も口を聞いていない、師であるシロの言い付けとは言えやはりお互いに距離を計りかねていたのだ。


 とても仲良しとは言えない二人、寧ろいちいち突っ掛かるお互いにイラついている。


 かといって憎いのか?と聞かれるとハッキリそうだとは言えない、そうじゃないのだがなぜか気に入らないのだ。



 二人にはなぜ師はこんなヤツと自分を組ませたのか?と不満があるのも事実、しかし彼に言われた通りお互いの強さを認めているが故に反発しあっているのも事実。



 なんて丈夫なヤツだ、あと何発叩き込めばいいんだ?


 ちょこまかとすばしっこいヤツ、おまけにいちいち一撃が重い。



 二人がケンカしたとき、いつも考えてしまうことだ。


 そしてそれがお互いの強さを認めているということ、二人も本当は気付いている… ただその心を認めたくないだけ。


 シロはこれが何かの切っ掛けになればと二人に行かせることしたのだ。


 彼は思っている、姉と師のような二人になってはくれまいか?と… しかしそれは彼の気持ちを押し付けているだけなのかもしれないし、彼自身そのことにも気付いている。


 それでもやはり、仲の良い二人に重ねてしまうものなのだろう。




 静かな二人、そんな沈黙の空気を先に破ったのはヘラジカの方だった。


「ライオン、あれを見ろ」


「あん? …なんだこりゃ?」


 ヘラジカの指差す先には大木、しかしその大木の幹の一部は無惨にも抉りとられているのだ… まるで鋭く頑丈な物で無理矢理貫通させたかのような抉れ方をしている。


「木に穴が開いてやがる、例のヤツがやったのか?」


「わからん、だがこれは地道にかじりとったとか少しづつ削ったとかにも見えない… キョウシュウでもこんな跡は見たことがない、用心したほうがいいな」


「なんだヘラジカァ?ビビってんのかよ?」


「お前のそういうのを油断というんだ、この木のようになりたいのか?」


 話すなり空気がピリピリとする、口を開けば憎まれ口。

 二人は他のフレンズと比べると顔を合わせるなりケンカばかり、シロが何度注意しようが睨み合いやがて手を出す。



 やっぱりコイツのことは嫌いだ。



 二人は改めてそう思っていた。



 その時だ…。



 キャー!?



「聞いたか!」

「あぁ!行くぞ!」


 フレンズとおぼしき悲鳴、それを聞くなり二人はいがみ合うのをやめ即座に悲鳴の方へ走り出した。



 その茂みの奥にいるのは何者か?

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