また会ったね④
ツガイは共にいなくてはならない。
共にいるから母さんは向こうでも暮らせるし、かばんちゃんは双子を産んでもすぐに体力が回復したのだろう。
俺なりに考えてみたのだけど。
カコ先生流に言うと代替わりが起こったのではないだろうか?
つまりミユキちゃんとはスナネコちゃんの代替わりした姿で、出産時にサンドスターを失ったのは次の世代に全てのサンドスターが託されるから。
無限の輝きとは、ツガイが愛し合うことでフレンズの体内でけもハーモニーのような現象が連鎖的に起きて常に自らのサンドスターの供給を続けることができる状態では?
母さんもかばんちゃんもその無限供給により産後もサンドスターがすぐに体に戻った、しかしクロと別れ遠く離れてしまったスナネコちゃんにはそれができなかった。
恐らくフレンズに子供ができるのも深く愛し合わなくては起きないことで、そこまでの領域に到達していると本来二人は決して離れることはない。
一年ほど経ってから妊娠するのは体が準備してるのもあるが、二人は決して離れないとサンドスターが判断するための猶予なのかもしれない。
だがこれは人間とフレンズという組み合わせにおいて起きたことだ、クロは男だがほぼフレンズ…。
だからすぐに二人の間に子供ができた、あるいは相性がよかったのかもしれないしもっと別の理由なのかもしれない。
なのに異例的に二人は道を違えてしまった。
故にこのような悲劇が起きた。
「なぁ、クロはどうしてる?」
一通り話終えるとツチノコちゃんは浜辺にいる娘に目を向けながら尋ねてきた。
俺は隠すつもりもなく答えた。
「一年半くらい前に結婚したよ」
「相手は?」
「助手さ、それと今妊娠してるんだ」
「助手と?そうか、なるほどな… アイツの予想通りだ」
なにやら予想がついていたらしい、しかもそれを予想していたのは他でもないスナネコちゃんだそうだ。
彼女は知っていたんだ、助手がクロを愛しているってことを。
「ここで暮らし始めた時に教えてくれたんだ、クロのやつ昔フェネックに迫られて家出したんだってな?それでアイツが一緒に図書館に帰ったときフェネックとのことはきっぱりケリつけたんだが、アイツは助手もクロのことが好きだったとその時わかったって、助手はクロのことを考えて気持ちをしまいこんじまったらしいが…
その時アイツの予想では、クロがキョウシュウに帰ったとき誰の邪魔もされないとしたらクロを慰めるのは助手で、そうなると多分そのまま助手といい関係になるって言ってた」
全てお見通しじゃないか?その通り、まったく彼女も大概鋭いというものだ。
失恋を慰めると関係が成立しやすいというやつか?
「まぁアイツもサーバルのことで傷付いたクロを慰めて落とすつもりになってたからな、多分共感できるところがあったんだろう」
「そういえばそうだった」
クロの現在を聞いても特に怒るとかそんなことはなく、寧ろ祝福をしてくれているような感じだ。
まぁ現状が現状とは言え責められる筋合いもクロには無いだろう、クロは全て投げ捨てる覚悟で彼女を追いかけたんだから。
俺が前に立ちはだかっても越えていくつもりでいたし、帰るつもりすらないそんな覚悟をクロは持っていた。
だがいざ彼女と再会すると一緒にはいられないと言われ、正々堂々コイントスをするもそれに敗北。
クロは…。
「もし運命ならばあそこでコインは表が出たと思う、裏が出たということは… そういうこと」
そう言っていた。
真に運命ならばいくら離れたところでまた元に戻る運命力みたいなものが働くと言いたいんだろう、だから信じて前に進んでみれば結果はこの通り… あそこまでして尚共にいられないということは、クロの言う通りそういうことなんだろう。
「おめでとう… って言っても、伝わらないんだろ?ここには内緒で来たな?」
「うん、その方がいいでしょ?ツチノコちゃんもさ?」
「あぁそうだな、でもおめでとう… 良かったなクロ、また大事にできる人ができて」
あぁ… 本当に良かったよ。
…
「ミユちゃん?一緒に遊んでもいい?」
「しょーがねーな!いいぞ!」
彼女、かばんが浜辺で遊ぶ孫娘の元に着くと、始めは驚かれたもののすぐにこうして受け入れてもらえた。
それは母親と親しげに話すかばんを見て悪い人物ではないと安心していたからなのか、あるいは彼女がミユキの祖母である為に見えない何かを感じ取ったからなのか。
どちらにせよ、既にミユキにはかばんを警戒する理由はなかった。
「貝殻好きなの?」
「そうだ!うぉぉほぁ!?見ろよ!こんなにでかくてキラキラしてるやつを見付けたぞー!」
やっていることはキラキラして綺麗なものを集める実に女の子らしいことなのだが、いかんせん話し方が母と酷似している。
これに関してはツチノコも反省しているが、いきなり直せと言われても無理なのでもう諦めて素のまま娘に接し続け現在に至る。
普段彼女達はどのような会話を繰り広げているのか?恐らくツチノコのこのテンションを知っているということは、落ち着いたフリをしてもしばしば娘の前でこのテンションになることが多いのだろう。
かばんとミユキ、祖母と孫… 端から見ればとてもそうは見えない、祖母が若すぎるため娘にも見える。
そんな二人が浜辺で一緒に貝殻を拾う姿もなかなか絵になることだろう。
「ミユちゃんはママのこと好き?」
「大好きだ!ママはすげーんだ!なんでも知っててカッコいいし優しい!しかも目からビームがでる!怒るとおっかないけどな!ミユも大きくなったらビーム出すんだぞ!」
彼女の言葉を聞くにツチノコは本当に良い母親として接することができているのだろう。
可愛がる時は可愛がり、叱るときは叱り。
良いことは良いと褒め称え、悪いことは悪いと注意する。
ツチノコのクセで、口調が必要以上にキツくなることもあるだろう。
それでもこうして「ママが大好き」と言えるのは、ミユキに彼女から絶え間なく愛情が注がれていることを意味する。
二人に血の繋がりはない、見た目だって全然似ていない。
それでも二人は紛れもなく親子だ。
「でもなぁ…」
がその時、ミユキは少し不安を感じているような声を漏らした。
「どうしたの?」とかばんが優しく尋ねてやると、ミユキは篭を置き木の棒っきれで砂浜に絵を描き始めながら答えた。
「きっと、ママはミユの本当のママじゃないんだよなぁ~」
かばんは言葉を失った。
嘘、知らないはずじゃ?ツチノコさんはスナネコさんのこともクロのこともまだ早いって言ってた、知っているはずがないのに…。
そう知らないはずなのだ、ツチノコはミユキが自分を本当の母だと思っているとシロに断言している。
なのにミユキがこう言うということは、誰か第三者がこの小さな女の子に何か仄めかしたのではないか?とかばんはそう思った。
しかし続けて彼女は言うのだ。
「何を言ってるの?ママはママでしょ?」
「違う、ママはママでミユは大好きだけど違う… だってミユには大きな耳があるのにママにはねぇし、尻尾はママのやつと全然違う、絵本で読んだ動物のママと赤ちゃんはみんな同じだったのに、ミユとママは全然違う」
「…」
自然に気付いたとでも言うのか?言っていることが最も過ぎて何も言い返してやれない、かばんもまさか気付いているなんて思わなかったのだ、3才の女の子がだ。
ザッ… ザッ… と、波の音に混ざり木の棒が砂を掻く寂しげな音が耳に残る。
「パパに似てるのかもよ?」
かばんがその時に言える最大に気を使った言葉だった、しかし言った後に「しまった」と感じた。
父親のことを知らされていない彼女なら「パパ」という言葉そのものがタブーである可能性があるからだ、しかしそれでも彼女は…。
「違うよパパじゃない、絶対パパじゃない」
この子には驚かされる、何もわからないかと思ったらこうして不思議と的を射たようのことを言うのだから。
次第に気にかかりかばんは食い入るように会話を続けた。
「どうして?パパに会ったことがあるの?」
「ねーけど分かる!多分おばちゃんみたいに耳も尻尾もパパには無いんだ」
「なぜ?なぜ言い切れるの?誰かに聞いたの?」
「知らねーよ、分かるから分かるんだ!」
勘?それにしては正確過ぎる気が…。
自信満々に言い残し、砂浜というキャンパスに絵を描き続けるミユキ。
驚かされるのはこれだけではなかった。
「フンフフンフフンフフフンフフフン♪」
「え… え、え?ミユちゃん?」
「なに?」
「それ、その歌どこで聞いたの?」
なぜその歌を?それはかばんの耳にもよく聞き馴染んだもので、ミユキの本当の母スナネコの鼻歌と同じものであった、クロが弾くギターの曲と同じでもあるということ。
なぜって二人で完成させた曲なのだから。
「わかんねー、なんとなく好きだから歌ってる!」
知っているはずがない、ツチノコが教えたのだろうか?それとも本当に自然に口ずさんでしまうのか?かばんは思った。
似てる、とてもよく似ている… スナネコさんは見た目はもちろん声も、でもこの妙に頭がキレるとこなんてクロにそっくり。
それにこの感じ、記憶をぼんやり継承しているとしか…。
ふと彼女の描く絵を見るとまた驚いた。
「それはミユちゃん?上手だね?」
「ん~ん、本当のママはこんなかな?って」
大きな耳、ショートの髪型… かばんはそれがミユキご本人の自画像のようなものかと思った、がしかし違うらしい。
子供の落書き故かなり大雑把ではあるがそれは確かにスナネコの特徴を捉えている。
「フフフンフンフ♪ これがママ!」
髪を後ろで一つに纏め、少し目付きが悪そうな女性の顔… こちらはツチノコだろう
「こっちもママで、こっちもママ!ミユにはママが二人もいるんだ!すげーだろ!」
「ふふ、うん!すごいね?」
寂しい?
そう聞こうか迷っていたが、どうやらそんなことはなさそうだとかばんの顔にも笑みが溢れた。
父親には会えない、しかし気に止めたことはなさそうだ。
母親とは血が繋がらない、しかしそれも特別気にしていないようだ。
寧ろ自分には産んでくれた母親と育ててくれる母親がいて特だと言うのだ、こんな屈託の無い笑みを向けられては話の途中でその場を離れてしまった自分が情けなく見えてくる。
「これはおばちゃん!」
「わぁありがとう!」
「これは白いおっちゃん!」
「あはは、似てる似てる!」
砂浜には家族の顔がいくつも描かれた、こうして見ると大家族だとかばんは改めて感じていた。
「おばさんも描いていい?」
「しょーがねーな!」
棒を受け取り、かばんも砂浜に思い思いに似顔絵を増やしていく。
ここにこの子のパパ、クロがいてその横にユキもいていつかアサヒくんと結婚するとして?お義父さんとお義母さんにそれからミライさんとカコさん、博士さんと助手さんにお姉ちゃんも… じゃあヘラジカさんたちも入れて、それからゲンキさん達一家とサーバルちゃん達も…。
それから…。
それから…。
「うぉほほぉぁあ!?すげぇー!いっぱい増えた!」
「え?あぁごめんね?夢中になって描きすぎちゃって…」
「おばあちゃんはお絵かき得意なんだなぁー!他には他には!?」
そっか、よく考えたらこの子にはこんなにはこんなに家族がいるんだね?
自分の家族を描き続けるうちに、周囲でお世話になっている人、フレンズ… みんなを家族のように感じていると再確認し、そしてそれはミユキの家族でもあるのだと気付いた。
ミユキはそんなかばんにすっかりとなついてしまったのか、これはどうだ?あれはどうだ?とどんどん注文が増えていく。
大変なものだが、それが可愛い孫のお願いだと思うとかばんとしても満更ではない。
確かに誰が悪いというわけではないけど、スナネコさんを死なせてしまった直接の原因はクロ… そう思うと僕は母親としてもっとできることがあったんじゃないか?って悩んでいたし、不幸な事だと悔やんでしまった。
でも違うんですねスナネコさん?最後に満足したのなら、クロのこと本当に大好きでそんなクロの子供を産めたのが嬉しかったんですね?
気持ちはよくわかります、僕もそうでした… シロさんとの子、クロとユキと会えて幸せです、今もそれは変わらないしこれからも変わりません。
だから例えそこで命を落としたとしても「満足」って言えたんですよね?
凄く悲しいです、悲しいですけど… 僕もスナネコさんと同じでこうしてこの子に会えたことは嬉しいです。
ミユちゃんとてもいい子ですよ?スナネコさんにもクロにもツチノコさんにもそっくりで、とてもいい子で凄く可愛いです。
だからありがとうございます、そしておやすみなさい。
スナネコさんが満足なら、僕も…。
「満足…」
「ミユはまだ満足してないぞ!次!次描いて!」
「はいはーい、次は何かな~?」
波打ち際の似顔絵達はやがて波と共に消えてしまうが、家族は例えその身が滅びても残された家族達の心に残ることだろう。
…
「元気でたみたいだね?」
「はい、よく考えたら悲しむのはあの子に失礼なんじゃないかって思いました… まるで望まれなかったみたいじゃないですか?でもそんなことないんですよね、スナネコさんは産めたことに満足してたし、僕もあの子に会えたことが嬉しいです」
「うん… スナネコちゃんのことは残念だけど、俺もミユちゃんに会えて満足だよ」
話を終えたので帰ることになった、当面ツチノコちゃんが面倒を見てくれるのであの子も問題はないだろう。
クロに話すのはずっと先か、あるいは俺たちの口からは話すことはないかもしれない
またクロから恨まれそうだが助手も大事な時期だ、せめて産まれてくるまでは黙っているべきだろうと思う。
でないと助手まで消えかねない…。
「じゃあ行くよ、何か必要なものとかあったら父さんの部下に言って?なんでも揃えてくれるから」
「助かる… 一応再確認しとくが、ミユをそっちに連れていく気はないんだな?」
遊び疲れてぐっすりと眠る娘を抱き抱えながら、少し寂しげな声で彼女は俺に尋ねた。
「その方がいいならそうする」
「誰が渡すか、ミユはオレの子だ…」
「じゃあ、頼むよ?」
「任せろ」
そうしたら、この子は困ることがないのかもしれない… でもきっとそれはこの子の幸せではない。
子供は、親の元にいるのが一番なんだ。
だから俺達は船に乗る、バイクで家を離れ二人で船に戻る。
なに心配はない、あの子には立派な母親が着いている。
あんなに信頼できる母親が。
…
「ん… おばちゃん達は?」
「起きたのか、帰ったよ?また遊びにくるってさ… 楽しかったか?」
「うん」
「そりゃ良かった、飯の用意するからいい子にしてろよ?」
二人が去った後、それほど時間も経たずに娘は目を覚ました。
ツチノコはまだ寝惚けている娘をベッドに下ろしてやり食事の用意に入った。
「ママぁ…」
不意に足にしがみつく娘に少し驚き、包丁などを置いてまた優しく抱き締め頭を撫でた。
「どうした?」
「なんでもねぇ」
「そうか…」
怖い夢でも見たのか、言葉とは裏腹にツチノコには不安が伝わってきた。
何がこの子にとっての幸せなんだろうか?
ふと考えると、娘をこの場に残したのは自分のワガママでもあると再認識した。
ツチノコ自身、シロのとこならば娘が不幸になることはないということくらいわかっている。
自分が娘と離れたくないからと言ってこの子をここに置いておくのは正しいことなんだろうか?と少し思い悩む。
逆にツチノコが不安に駆られたのか娘に尋ねた。
「ミユ?パパに会いたいか?」
「パパ?」
「そうだ、パパのとこでみんなで暮らしたいと思うか?たくさんの家族に囲まれて」
まだ質問がよくわかっていないだろう、ツチノコは甘く見ていたのか軽い気持ちでそう言っていたのだが、娘はこう返した。
「ママは?」
「え…?」
「そこにママはいるのかー?」
「いや… どうだろうな」
思わず目が泳いだ、もしそうなれば自分までそこに行くつもりはなかったからだ。
だがそんな様子を見て娘、ミユキは目に涙を浮かべながら言った。
「嫌だ!ミユはママといる!」
「ミユ…」
「ママがいないと嫌だ!」
「大丈夫だ、ママはミユとずっと一緒にいるからな?」
ギュウと強く抱き締めると、ツチノコは柄にもなくその目から涙を流した。
ミユキからは見えないように、静かに静かに… 泣いた。
ただ… オレもいつ消えるかわからない、せめてこの子が一人でなんでもできるくらいになるまでは側にいたいが。
もしもの時はシロ、頼むぞ?
お前の孫なんだからな?
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