また会ったね②

 それにしてもだ… 子供を守るためとは言え問答無用で眉間にビームはちとやりすぎでは?これまでも来るヒト来るフレンズの眉間をそうして撃ち抜いてきたんだろうか?


 まさかこの地面には犠牲になった人達が大勢埋められて!?ここは親友としてこの暴挙を許すわけにはいかない!自首させないと!子供の教育にもよくない!


「ツチノコちゃん!子供が大事なのはわかる!でも誰かが訪ねて来る度にビームでその尊い命を奪うなんて!そんなこと…!狂っている!正気に戻ってくれ!」


「おいかばん、お前の旦那の方が狂ってると教えてやれ」


「ツチノコさん… 今からでも遅くありません!罪を償いましょう!」


「お前もか、落ち着け」


 なぜだ、何がそこまで君を変えてしまったんだ?そんな冷淡と命を奪うような子ではなかったはずだ、不器用だけど優しかった君はどこへ行ったんだ? 


「ママ!こいつらは何言ってんだー?ミユにおせーてくれ!」


「ただの茶番だ、覚えなくていい」


「ツチノコちゃん、子供の為にも思い出してくれ?本当の君を… 優しかった君を!」


「はぁ~… わかった、そこを動くなよ?それからシロ、お前は向こう見てろ」


 大きく溜め息をつくと指をクルリと回し背中を向けるように指示された、これから何をしようと言うのか?女性同士でしか見ることのできない特殊な方法で罪を償うのかな?なんてことだ、小さな子も見ているというのに俺の嫁さんと浜辺で百合畑作る気か?意味がわからん。


「あぁ!?つ、ツチノコさん何をする気ですか!?やめてください!」


「黙って見てろ」


「お願いやめて!」


 おい!本当にやる気か!?許せん!かばんちゃんの体を好きにしていいのは俺だけだ!例えツチノコちゃんでも許せんぞ!


 許さん!そう思い振り向こうとした瞬間のことだった。


 ズドン!

「ぐぇっ!?」


 背中に強い衝撃、両の肩甲骨の辺りで何か叩きつけられたような鈍い痛みが走った。


「シロさん!」


「おぉあ… 何今の…」


「ほらなんでもないだろ?まぁ眉間に当たればお前でも気絶くらいはしてたかもな?」


「いや、メチャ痛かったけど…」


 つまり、そういうことらしい。←説明必須



 先生からサンドスターコントロールを習いかつては使いこなせていなかったビームもご覧の通りリスク無しに、自主連や旅に出てからの経験、そして娘を守るための試行錯誤の末とうとう彼女はビームを極めたのだろう。


 相手の動きに合わせたホーミング、出力の微調整による殺傷能力の有無。


 ビームの達人か、アマチュアとかあるのか知らないが。


「娘の前で死人を出すわけないだろ?見くびるな!」


 そのような心構えでツチノコちゃんはもともとしっかりしてたのもありすっかりと落ち着いた母親となっていたのだ。


 さておき、背中の痛みも引いた頃俺達は家の中へ案内された。

 中は殺風景と思いきや以外にもしっかりとしており、食卓とリビングは簡単に分けられているし寝室にはなにやら子供が好きそうなぬいぐるみだとか、ベッドには可愛い柄のシーツが掛けられているのが見える。


「まぁ座れよ、遠いところからよく来たな?なにもないが…」


「なぜ来たか… 察しているね?」


「十中八九この子のことだろ?そうだろうな… まぁいつかはこういう日がくるのはわかってた、さてどこから話したらいいか」


 俺も妻も、実は先ほどから気になっていることがある。


「ママ?コイツらなんだー?」


「こらミユ、失礼だぞ?すまないな?オレの喋り方真似しちまって、口の悪さはこの通りだが悪気はないんだ… ってまだ3才じゃ分別もつかないだろうがな?」


 歳は3才、この見た目の特徴から既に確定と言ってもいいのだが敢えて聞こう、この子が誰の子なのか。


「この子はクロの子だ、そうでしょ?」


「そうだ、まさかあいつが妊娠してたなんてな… 知った時は驚いた」


「あの…」


 俺達夫婦が気になっていることはこの子が誰の子か?ということ以上にもうひとつ、もっと単純なことにある。

 このミユちゃんという女の子がクロの子だなんてことは見ればわかるし、ほかに心当たりなんてないだろう。


 妻は特に何か気を使ってというわけではなく、ただ単純にその場に彼女がいないことが気になり尋ねたのだ。


「スナネコさんはどこに?」


 そう、クロの子を授かるフレンズは彼女の他にいないだろう。

 俺も妻も妙だとは思った、なぜ彼女はツチノコちゃんと娘を残しこの場にいないのか?


 彼女が母親ならなぜこの子は…。


 ツチノコちゃんを“ママ”と呼ぶ?


「…」


「ツチノコさん?」


 少し目を細めパタパタと走り回る娘を見る彼女、無視したわけではなく娘がその場にいると話しにくい内容なのだろう、無邪気に走るところを不意に呼び止めた。


「ミユ、今日は貝殻集めないのか?」


「これからだ!」


「そうか… じゃあママは家の前で見てるから行っておいで?いいか?ちゃんと見えるとこで遊べよ?」


「ウォホホァハァ!よし行くぞー!」


 その言葉を聞くと、まだ小さな女の子はその小さな手を使い木の皮を編み込んで作られた小さな篭をとると、同じように小さな足でこの家を飛び出していく。


 母であるツチノコちゃんもそれに続きゆっくりと立ち上がり家の外へ… 何も言わず俺達に目配せしながら外へ出る。


「シロさん、あの… もしかすると」


「俺達も行こう?答えは本人から聞かないと、さぁ立って?」


 小さく「はい…」と返事をすると妻も立ち上がり、俺達は親子の後を着いていく。


 もう分かってる、本当はもうとっくに気付いてる。


 だけど俺達は気付かないフリをする。


 知りたくない、信じたくない。


 だからわからないフリをする。





 家の前から浜辺を眺め、波打ち際を元気に走り回る小さな女の子を見て小さく微笑んでいる彼女、その顔が紛れもない母親の顔であることは夫婦になり親となった俺達にはすぐにわかる。


 そんな彼女に後ろから再度聞き直した。


「聞かせてよ?スナネコちゃんはどうしたのかを」


「…」


 彼女はすぐには答えず、耳には潮の香りを運ぶ穏やかな風の音が静かに入ってくる。


 黙って答えを待つ俺達の耳にやがてその答えが返ってくる。





「死んだ」





「「…」」




 俺も妻も言葉が出ない、わかりきっていたことなのに。


 代替わりという生まれ変わりに近い現象が起こるフレンズにとって、その言葉は不適切でもあるのかもしれない。


 だが彼女はいない、この場には既に存在しないのだ。


 仮に新たにフレンズ化していても幼い娘を残し姿を消す、それは即ち彼女の死を意味すると言っていいだろう。


 背を向けたまま彼女は俺達に続けて話した


「出産に耐えられなかった… とこのエリアの守護けもの、シーサーの二人は言っていた」


 守護けもののことよりも、スナネコちゃんのことで頭がいっぱいだった。


 なぜ耐えられなかった?それほどまでに難産だったというのか?双子を産んだかばんちゃんよりか?もっと設備の整った環境や、カコ先生のとこならなんとかなったのか?


 俺がすぐに気づいてやれたら彼女もあの子も…。


 いろいろ口に出して言いたいことはあるが言ったところでどうにもならない、ツチノコちゃんを責めるのも違うしクロにもっとしっかりしろと言うのも違う。


 ならばこの道は彼女自身が選んだ結果、運命というやつだったのかもしれない。


 その時、ツチノコちゃんは空気を感じ取ったのか小さくため息を付きほんの少しずれた話を始めた、彼女も気を紛らわしたいのかもしれない。


「名前、ミユと呼んでるが本当は“ミユキ”って言うんだ?あの馬鹿が“スナユキ”とかつけようとしてたもんだから柄になくオレが真面目に考えてつけた名前さ?漢字ってやつにすると“美しい幸せ”って書いてミユキだ」


 一応クロとユキの名に文字ってくれたんだそうだ、スナネコちゃんもあの子にスナユキと名付けようとした辺り最後までクロのことを想ってくれていたんだとわかる。


「いい名前だと思います、あの子も本当に幸せそうで…」


「まぁオレはこんなだが、これでも精一杯愛情注いでるつもりだからな?そう見えるならよかった」


「詳しく聞いていい?スナネコちゃんの… 俺達の孫とその母親のことを」


「言われなくてもすぐ教えてやるよ」


 大人三人が並び、浜辺で元気に貝殻を拾う小さな女の子ミユキを眺めている。


 彼女が大きく手を振っていたので三人で振り返し、その後ツチノコちゃんがゆっくり淡々と詳細をおしえてくれた。


「始めに妊娠の症状がでたのはクロが追いかけてきてアイツらが再会できたすぐ後のことだった、クロが来てくれたのにアイツがまた意地張って正式に別れることになって… そのあとやけに食欲もなくなって疲れるのも早くなっていって、でもあの時はまさか妊娠してるとは思わなかった…」



 




 だんだん弱っていくスナネコちゃんを見て当然彼女は放っておけなかった、食事も満足に取れず吐き戻し、歩いていてもフラフラと覚束ない。


 ゴコクを離れ次のエリアへ進んだ頃のことだったそうだ。


「おいどうしたんだ?最近まったく食べてない、なんでそんな辛い思いしながらクロと離れたりしたんだ!今からでも遅くない、引き返すぞ!」


「大丈夫… です…」


「嘘つくなよ!強がってる場合か!」


 初めは失恋のショックのようなものだと思っていた、かばんちゃんも似たような状態になっていたのを彼女は知っていたのでこの時はそうだろうとツチノコちゃんも思い込んでいた。


 こればかりは時間が解決してくれるのを待つしかない、そう思っていた。


 するとやがてスナネコちゃんの症状が本当に落ちついてきた、慣れたのか安定したのかわからないがとにかく以前のようにひどく食事を拒否するようなことはなくなったのだ。


 逆によく食べるようになったらしい、ツチノコちゃんは彼女に尋ねた。


「お前それ、あんまり好きじゃないって言ってなかったか?」


 ジャパリマンにも種類がある、フレンズによってよく食べる味食べられない味、それは色によって分けられていてフレンズにもそれぞれ好みがある。


「なぜでしょう?今はこれが好きです、ボス?もう一個ください」


「ずいぶん食うなぁ?もう三個目だぞそれ?」


 好きでもなかった味のジャパリマンを貪るように食べ始めたスナネコちゃんを見てだんだんおかしいと思うようになったツチノコちゃんはしばらく注意して彼女の様子を伺っていた。

 そしてある日、その予感が的中したのか今度は謎の腹痛を訴え始めた彼女、時にしばらく動けないということもちょくちょくあったそうだ。


 ここまで来たら一度その症状を間近で見たことのあるツチノコちゃんにはわかった。



 まさか妊娠してるんじゃないのか?



 それならばこれまでのことに辻褄が合うと納得し、医者の真似事と言う訳でもないが少し診察してみたらしい。





「その時、分かったんですか?」 


「さすがに素人目じゃよくわからなかったがなんとなく腹が出始めている感じはあった、オレはそういう可能性があるとアイツに伝えてなるべく無理はさせないようにした… 走らせないようにしたり体を冷やさないようにしたりな?歩きすぎないようにこまめに休ませたりもしてた」


 が彼女は「まさかまさか」とか「なんか太ってきたかもしれません…」などとどこか楽観的なことを言ってあまり聞いてくれなかったそうだ、気分屋なのであっちへフラフラこっちへフラフラ。

 そんな彼女を守るためにツチノコちゃんはビームが更に上手くなったのかもしれない。


 とにかく赤ちゃんがいると思うと気が気ではなかったそうだ、なんだかその様子を想像するとツチノコちゃんはまるでパパだな、思い出すなぁ?俺もいちいち焦ったものだ。


 そうして数ヶ月が過ぎた頃当然のようにスナネコちゃんのお腹は大きくなっていき、もう既に誤魔化しの利かないところまできていたことをお互いに理解した。


「ツチノコあの…」


「あぁわかってる、だから言っただろうが?クロの子だな?なんか… とりあえず、おめでとうだな?」


「ありがとうございます、えへへ」


 なんだかんだ嬉しそうなその様子を見ていると心が和んだが、同時に本格的に考えていかなくてはならないと感じた。


 どうするんだよ?って言うのもなんか違うし、このまま帰るのは返って危険だと判断したツチノコちゃんはどこか落ち着ける場所でしばらく安静にすることを勧めた、ただ当然身の回りの世話はツチノコちゃんがすることになる、まぁクロとユキの時にも手伝ってくれた彼女ならそれなりに問題はないとも思う。


「アイツ、多分分かってて誤魔化してたんだと思うんだ?」


「なぜ?」


「自分の体のことだぞ?何かしら気付くだろ?でも子供ができたって認めるとクロの元へ帰ることになる、真意のほどはわからないがオレに気を使わせないようにしてたんだろう… まぁアイツも今さらクロのとこに腹でかくして帰っても迷惑だろうと考えていただろうし、実際引き返すにはもう遠すぎた」


 そう、それで最南端であるリウキウへ向かうことにしたらしい。


 何せここは暖かい、彼女の故郷さばくちほーのような過酷さもないこの浜辺なら落ち着いて子育てに専念できると考えたのだろう。


「あの、死んだ… って、本当にそうなんですか?僕やサーバルちゃんは平気だったのにどうして?どうしても… 信じられません」


 妻は複雑な表情で顔も見ずに言っていた、でも俺だって信じられない、いや信じたくない。


 だから何が起きたのかちゃんと知りたい。


「詳しくはこれから話すが、始めに言っとくぞ?アイツは最後に言ってたんだ、“満足”って… だからオレもアイツもクロのことを恨んだりはしてない

 それにアイツが自分で選んだ道なんだ、オレはそれに対して何も言わないしそもそも言うつもりも何か特別言うこともない…

 ただ、クロが側にいたら助かったかもしれない… それも言っておく」


 正確には死とは違う、その話を聞いた時俺はそんな気がして仕方なかった。


 いや。


 友人の“死”という現実を前に、そう思いたかっただけなのかもしれない。

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