また会ったね
「シロさん?見えて来ましたよ?リウキウエリアです」
「本当だ、綺麗な島だなぁ… 一年中暖かいんだってね?」
キョウシュウを離れ、夫婦二人で船に乗り訪れたそこはリウキウエリア。
気候は暖かく海が綺麗、このエリアは離島なのでまだそんなに復興が進んでいない、そんなリウキウに俺達がわざわざ来た理由は他でもない。
フレンズに会うため。
あれからずいぶん長い間会っておらず、もう会うことはないとすら思っていたであろう人物がここにいると情報が入ったからだ。
まぁ会う必要ができて探してもらったからわかったってだけのことなんだが。
クロが例の件で父さんに進歩を聞いていた時のことだ、一通り会話が済むと俺に代わってほしいと言われたそうだ。
その時直感的に“あのことか”と察した俺は、すぐにラッキーを借りて外でこそこそ父と話すことにした。
「父さん… そっか、見付かったんだね?リウキウエリア?ずいぶん遠くまで行ったなぁ …わかった、準備しとくから船寄越してくれる? …内緒に決まってるだろう?クロは今目の前のことでいっぱいいっぱいなんだ、余計なことは考えなくていい …わかってるさ、落ち着いた頃に話す」
彼女達はリウキウエリアにいる、そうと分かればすぐに会いに行く必要がある。
なのでこのことをすぐに妻にも話し、せっかくなので夫婦二人で会いに行くことをその場で決めた。
この問題… と言うと良くない言い方になるが、この件は最早俺やクロだけに関する問題というわけではない。
こうなるともう、家族全体の話になると思っている。
本当なら父も着いてくるはずだったが、多忙なのだろう… 今日は来ていない。
「情報によると小さな女の子がいたって、さすがクロは君に似てるだけあって勘がいいね?でもまさか本当にいるなんて思わなかった、孫… になるのかな?」
「まだわかりませんよ?単に旅の途中でついてきたフレンズさんかもしれません」
「ん~… 子供の姿と言っても幅広いからね?確かにこの目で見るまでは確信を持てないけど」
なんてことを船の甲板から見えるリウキウエリアの島を眺めながら二人で話していた。
クロは今まさに夢で会ったお姉さんと奇跡の再会をしている頃だろうか?
しかし驚いたさ、俺はてっきり平行世界に行ったものだと思っていたから。
昔にまったく同じ人物がいたとしてもその先の世界が“ここ”とは限らない、クロの会ったお姉さんはずっと昔確かにパークで飼育員をしていたが、退職して実家を継ぐこともあればそのまま続けてもっと出世したかもしれない。
クロは過去の世界を歩いたが似た世界観としてサンもその可能性がある、だが二人の訪れた世界は分岐した違う“過去”かもしれない。
だから同じ人物がこの時代にいたとしてもそれがクロの会ったお姉さんとは限らない、俺が違うかばんちゃんと会ったのと似たような話さ。
でも例のお姉さんはクロを覚えていた、いや思い出した。
もしかしたら分岐する前のイベントなら記憶を共有できるとか?まぁまさにそんな夢を見てるような不思議なお話なのかもしれない、確認なんてしようがないが。
…
それにしても綺麗なところだ、海も空もこんなに青いし潮風も気持ちがいい… ただの観光ならあんなに真っ白な砂浜を水着のかばんちゃんと追いかけっこしたいものだ。
「ねぇ?」
「なんですか?」
「余裕あったらデートしない?」
「もぉ~… そうしたいのは僕もですけど、デートしてる場合じゃないですよ?大事な用事です、それどころじゃありません!」
仰る通りです、どーも失礼しました。
とそうこうしているうちに船が港に到着した、船長にはここで待機してもらい俺たちはさっそく目的地を目指さなくてはならない。
彼女達は情報によると海沿いにある建物を根城にしていると聞いた、浜辺を進んでいればいずれ見えてくるだろう。
「おいで?」
「はいっ… んしょっと」
先に降りて妻の手を取りこちらへ引き寄せた、このまま手を繋いで浜辺を二人でのんびり歩いて進む…。
というのも悪くないのだがそれでは少々骨が折れる、ここは乗り物が欲しいところだ。
そこでこちら。
「船長、例の物は?」
「ご用意できております、こちらですよユウキさん」
そう言って船員が船から持ち出したのは乗り物、タイヤが2つ… これはそう、バイク!二輪車!
「ビューディフォー!」
「整備バッチリです、サンドスターエンジンも良好」
「頼んでおいたスライダーモードは?」
「構造的に不可能なのでありません」
外装は白、ヘッドライト周りはライオンの頭部をイメージしたデザインとなっており爪や牙を象ったようなデザインも要所に見られるワイルドな完成度となっている。
自然に囲まれたパークに対応できるようオフロードバイクが元である。
「あのこれなんですか?」
「マシンホワイトライオン丸だよ」←センスェ…
「新しい乗り物なんていつの間に頼んでたんですか?ダメじゃないですかお義父さん達にワガママ言って!」
「父さんもノリノリだったしいいかなって」
だって、バギーはクロにとられたしバイク欲しかったんだ… 欲しかったんだもん…。
父さんだって言ってた。
「男に生まれたからには誰でも一生のうち一度は夢見る、それはバイクに乗ること」
じゃあ真の仮面フレンズになるためによろしく頼みますと伝えると。
「超カッコいいバイク、用意してやるよ?」
って俺は半分冗談で言ったのに父さんときたらまったくこの始末だったのでありがたくその完成を待っていた、そして今まさに目の前に届いたのだ。
俺のバイクが!
「名前は誰が考えたんですか?」
「俺だよ」
「もっと可愛い名前にしましょうよ?白にゃんこちゃんとか!」←センスェ…
「なるほど、一理ある」←ない
間をとって“マシンにゃん丸ホワイト”に決定した。←セ,センスェ…
…
浜辺を颯爽と走り抜ける一台の白獅子、乗りこなすのも当然白獅子、後ろからしがみつくのはその妻。
子供達が大きくなってからこうして二人で出掛けることも増えた、ようやく夫らしく妻を楽しませてあげられている気がする。
もっとも今は真面目な用事で来てるのだが、何度も苦労掛けたしそれらのことと比べればこれくらいのことはトラブルのうちには入らない、そんな余裕は無いと口では言っているがデートのついでと考えるくらいの余裕を持っていいだろう。
なぜなら俺が会いに行くのは親友、そしてその相棒ともしかしたらその子供も。
かつて俺が辛くてどうしようもない時、必ず隣で背中を押してくれる親友がいた。
パークに上陸したその直後、初めて会った彼女とはまともな会話はできなかったが俺にとっては誰より最初に会った初めてのフレンズ、当時はただ出会えたことが嬉しかった。
そのまま博士達に図書館に連行された俺だったけど一旦船に戻るためにもう一度港を訪れた時、彼女と再会した。
口が悪くって目付きも悪いし情緒不安定気味の彼女だったけど、俺にとってはパークで初めてできた友達。
本当は優しくって不器用ながらに何度も俺を助けてくれた。
みんなに受け入れてもらえるか不安な時は一緒に着いてきてくれた、野生解放が上手くいかない時は強い言葉で激励をくれた、怪我をした時は手厚く看病してくれて、恋に悩んだ時は俺に彼女から気持ちを聞かされた後に本当の気持ちに気付かせてくれた。
ずっと助けてくれた彼女、かばんちゃんと結婚して子供ができたその時は子育てにも協力してくれて…。
ある日そんな彼女との本当の別れの日が訪れた、本当に突然だった。
あれから数年、相棒のあの子も元気にしているだろうか?寧ろ今日はどちらかと言えばその相棒の方の関連で訪れたのだけど。
彼女はここにいる、だから会いに来た。
そんなことを懐かしみながら俺はバイクを走らせる。
そうしてやがて見えてきたのは古い木造の建物、直したような箇所がよく見られ「住んでいるんだな」というのがよくわかる。
「あれだ」
「いきなり訪ねたらびっくりしないでしょうか?」
「平気さ、彼女は何しても結構驚くし」
家のそばにバイクを止めるとすぐに気配を感じた、俺からすればいつぞやの遊園地を思い出す。
「あ、今木の影に…」
「え?どこですか?」
「ほらあそこ、尻尾が見える」
そう、いつぞやは遊園地のお化け屋敷だったか。
今回は家より少し奥の木が覆い繁ってるあたりだ、大きめの木の幹からはユラリユラリと尻尾が揺れているのが見える。
あれは猫科の尻尾… もしかして相棒の方では?
「おーい?出ておいで?尻尾が見えてるよ?」
話しかけると隠れていることがバレたことに驚いたのか尻尾がピクンとまっすぐに伸びた、そのままスススと尻尾が木に隠れると地面からそう高くもない辺りからひょこっと顔をだす子供の姿が見えた。
小さい女の子、歳の頃は3才前後くらいだろうか?髪は薄目のブロンドで。
その頭には大きな猫耳がついている。
「見てください女の子です、じーっとこちらを見てます… 耳もありますね?」
「そっくりだ…」
「そうですね、彼女の子供で間違いなさそうですね?」
「いや、君にもさ?同じ目をしてる」
確かにあの子はあの彼女にそっくりだ、しかしかばんちゃんにもよく似てると俺は思う、いやこの場合はクロに似ているんだろう。
やはり、いたのか… 俺達の孫に当たる子が。
「怖くないよ?おいで?」
子供と話すときは目線をなるべく合わせてやり、対等な立場で話す。
だがそんな小細工をしても見たこともないおっさんが話しかけて来たのだから無論幼女は警戒するだろう、だからここはあえて目的は君ではないということを伝える。
「おじさん達は君のママに会いに来たんだ?今は一人?小さいのにお留守番できるなんてお利口さんだね?ママはいつ頃帰ってくるかわかるかな?」
努めて優しく、特に裏があるわけでもないのでそのまま思ったことを口にしたつもりだ… ただ相手を小さな子供と侮ることなかれ、俺と妻はその愛くるしい姿からは似ても似つかない驚愕の言葉を耳にした。
「お名前は?おばさんはかばんって言うんだよ?お友達に…」
「なんだぁーこにゃぁろー!誰だおめぇらー!クシャー!」
「「!?」」
こ、これは!?
驚いたとも、まさかこんな小さな女の子からそんな言葉が飛び出したんだから。
誰から英才教育を受けたのかすぐにわかる、まさか見た目に反し中身がそっちとは… この子はこうなると実質彼女達二人の子供と言っても差し支えないだろう。
「アッハッハッハッ!よく教育されてるじゃないか?そっくりだ!」
「ビックリしましたよ… あんまり小さな女の子が使うにはちょっと言葉が乱暴すぎなんじゃ?」
「シャー!」
さっきまで木に隠れながらキョトンと目を丸くしてこちらを眺めていたのに、口を開くなり舌足らずな言葉でこの口調。
しかし猫なのに警戒方法が蛇とはね。
「シャー!クシャー!」
「「…」」
さて、参ったな… どうするべきか?不用意に近づいては余計に警戒されてしまうし、かといって話にもならないとなるとなんとも。
「…!シロさん?」
「ん?」
警戒中の幼女から目を背け妻は静かに俺に語りかけてきた、落ち着いているが目は妙に真剣だ。
あぁなるほど… 何か“見えた”んだね?
「右に3歩、動いてください」
言われた通り右にズレた、その分妻とは3歩分の距離が空く… 威嚇を続けるあの子も俺の妙な動きに思わず黙りこんだ。
「OK?」
「はい… っ!?ダメ伏せて!」
とその時さっきとは違いかなり必死な声が耳に入る、何が起きた?と考える前にとにかく言われた通りに俺はその場で姿勢を下げた。
その瞬間…。
音で言うと「ズギューン!」って感じだ。
何か熱いもの、光線のようなものが右にズレた俺に合わせてカーブしてくるのが見え。た、ほんの一瞬だけだが確かに見えた。
間一髪屈んでいたので猫耳を掠めるだけで済んだが、危ないところだった。
これはビーム、俺はこれを知っている。
急にまっがーるなんて更に腕を上げているようだ。
「シロさん!」
「平気、ありがとう助かった…
いやぁずいぶんご挨拶だね?数年ぶりだって言うのに」
カサカサと、木々の向こうから誰かが来るのが分かる。
女の子はそれに気づくと嬉しそうにそこへ向かい飛び込んでいった。
「ママ!」
彼女はその人物を母と呼ぶ、少し妙には思ったが母と呼ばれるその人物もまた娘として彼女を温かく受け入れているのがわかる。
「“ミユ”… 怪我はないか?勝手に離れんなって言っただろうが?探したんだぞ?」
「わりぃ!おうちに変なのが来たから気になったまった!」
「言葉が汚い、はぁ… 自由なとこといい似なくていいとこばかり似やがって?いやそれはオレのせいか?まぁいい…
おい!誰だか知らんが娘に近寄るな! …ってなんだよ?お前らまさか」
娘が母だと慕い抱きついている女性、しかし彼女には娘のように大きな猫耳はない。
代わりに髪は空みたいに綺麗な水色でサラサラと風になびいている、二人とも尻尾を持っているが母親の持つそれは娘と違い黒と茶色の縞模様で、どちらかと言えば爬虫類的である。
目はボゥッと青い光を放ち、鋭いが優しさのある目付きで娘の顔を見下ろしている。
なんだ、ちっとも変わってない… 元気そうで何よりだ。
「ひどいじゃないか?いきなり眉間撃ち抜こうとするなんてさ?俺浮気なんかしてないけど?」
「お前… シロか?それにかばんまで」
「お久しぶりです、お元気ですか?」
俺にはゲンキとは別にフレンズの親友がいる、彼女とは兄弟杯を交わしたので細かいことを言うと姉になるのかもしれないがとにかく親友だ。
当時彼女がいなければ俺は挫折から立ち直れなかったかもしれないし、かばんちゃんと夫婦になることもなかったかもしれない。
俺が何かを乗り越えなくてはならないとき、彼女は必ず側にいてくれた。
「また会ったね?ツチノコちゃん?」
彼女はツチノコ… ツチノコのフレンズ。
「あぁ… また会ったな?元気だったか?バカ野郎」
何度でも言おう、俺の親友だ。
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