時を超えてお元気ですか?②

「あ、じいちゃん?僕、クロユキだよ?例の件はどう? …本当に?やったぜ!ありがとう! …え?ユキが行くんだ? …伝えること?えーっとね、じゃあ普通にありがとうとちゃんと避妊しろよ?って …ハハハハ!いや僕は結婚してるからセーフ …ん、パパ?わかった、代わるね?それじゃ」


 シラユキとアサヒが例の温泉旅館に行く少し前のことだ、クロユキはその件の進展についてナリユキに尋ねようと連絡をとっていた。


 実は改良を加えたラッキービーストは海の向こうにいる特定の数人に限るが連絡が取れるようになっている、その機能を使いナリユキと元飼育員ナウのことについて尋ねていたのだ。


「パパ?じいちゃんが代わってくれって」


「ん… わかった、ラッキー貸してくれるか?」


「うん、はいどーぞ?」 


 腕時計型ラッキーを取り外し、父シロにそれを預けた。

 シロはそれを腕には巻かず手に持ったまま外に出てナリユキと会話する様子、クロユキはその時それを見てわざわざ離れる必要があるのか?と少し妙には思ったが、静かなとこで話したいだけだろうと特に気に止めないことにした。


 

 ナウさん、ナウお姉さん… 歳みたいだけど元気にしてるかな?結婚できたのかな?なんか男運なさそうだったし、恋愛で失敗すること多そう。←偏見

 じいちゃんより歳上ってことはもう本当におばあちゃんだ、僕の周りは見た目だけでは歳の取り具合が分かりにくい人ばかりだからどんなになっているのかな?病気で寝たきりとか、足腰が弱くなって杖ついたり車椅子乗ってたりするのかな?

 あまり老体にムチを打つのは良くないし、やはりここは覚悟を決めて僕が行くべきだろうか?お礼を言うのは僕なんだし、でもミミも心配だしなぁ。


 どんなおばあちゃんになってるのかなぁ?







 カンコン!カンコン!カンコン!カンコン!カカンカン!コカコンカッ…


「せぃっ!」カァンッ!


「ウワァァァァ!?勝てなぁい!?」


 時は突如として卓球バトルになった温泉旅館、しかしアサヒは謎のおばあさんに一方的に敗北していた、ワンサイドゲームというやつだ。


「嘘でしょ!?強すぎる!?」


「まだまだだねぇ?でもスジはいいよぉお兄さん?まだやるかい?」


「くそ!しかもスリッパに負けるなんて!」


 始まる寸前はそう、ご老人に負けるほど自分は弱くはないぜどれどれ軽く相手してやりますか?とシラユキに爽やかスマイルを向けながら彼は言った。


「勝利の栄光を君に」キラァ☆


 だが結果はこの通り、スリッパでナメプされた上に惨敗という逆に清々しい結果となったのだ。

 

「残念だったねぇ?勝利の栄光とやらは彼女にはプレゼントできなかったねぇ?」


「やめておばあさん!それ言わないで!?」


「アッくん!次は私がやるよ!」


 このおばあさんは只者ではない、ナメてかかるとアサヒのように一方的な試合で悔しい思いをするだろう、そうあのアサヒのように!


「彼女さん、彼氏の敵討ちかい?アタシゃいつでも相手してやるよぉ?暇だからねぇ!」


「ユキ、あの人普通じゃない!きっと元オリンピック選手とかだ!」


「任せてアッくん!勝利の栄光を君に!」


「それやめて!」


 今後アサヒがその赤い彗星の人が言ってそうなセリフを言うことはないだろう。


 さておき、両者卓球台を挟み睨み合う。


 いつでも始めろと言わんばかりにサーブをシラユキに譲り不適な笑みを浮かべるその老婆、その目にはとても老人とは思えないギラギラとしたものが見える。


 アサヒとて弱いわけではないのにこの様である、シラユキは決して油断せず一切の手を抜かないことをこの時決めた。



 私はフレンズ化はしない、すれば勝てるだろうけど無闇にするものではない… というか浴衣でそんなことしたらおはだけしちゃうのでてきない。


 でもさすがにアッくんとの試合を見て手を抜いて勝てる相手ではないことくらいわかる。


 だからせめて…。


 

 スッと玉を浮かしサーブに入るシラユキ、彼女は当然ヒトの姿だが、その状態の出せる全力を使い…。


 カァンッ!←高速サーブ


「ハッ!?(早い!?)」


 その瞬間、余裕を見せながらスリッパを使っていたおばあさんだったが、シラユキの高速スピン付きサーブにそのスリッパをついに落とした。

 唖然とするアサヒとおばあさん、そこでシラユキはアサヒの代わりに嘲笑うかのようなセリフを吐き捨てた。


「あらあらおばあちゃん?ちゃんとラケット使わないと危ないよ?それとも老眼じゃ速すぎて見えなかったかな?」


「やるねぇお嬢ちゃん?名を聞こうか?」


「シラユキ… 皆はユキと呼ぶ」キリッ


「良い名じゃ、アタシはナウ!戸田井とだい 奈羽なうだぁ!」カァンッ!





 勝負は過激化した、その時のことを後にアサヒはこう語る。



 いやぁ驚きましたよ?あの人が俺達の探してたナウさんって人だったんですから?まぁそこまではいいんですけど、それよりもあの人70過ぎなんですよ?おかしいでしょあの身のこなしは…?

 その時フレンズ化してないとしてもユキの運動能力に着いてくる老人なんて俺は初めて見ました、だって高校の時ユキは陸上部より足が早かったし空手部よりも強かったですから?スポーツと呼ばれるものをルールさえ理解すればほとんどの場合ユキには誰も勝てません、チーム戦でもフォローが上手いです、さすがはホワイトライオンの血筋という感じですよね?

 でもあのおばあさん、もう一度言いますけど70歳を過ぎてるんですよ?なのにその気になったユキと卓球とは言えラリーを繰り返してるんです、しかも何度も点も取ってました、そんなことってあります?おばあちゃんの知恵袋ってやつですかね?経験を生かした勘で先読みしてのかもしれません。


 えぇ、お互い互角って感じでしたね?でもさすがに歳には敵わない、このままじゃおばあさんが持久戦で負けるってところでしたが、その時あのおばあさんは戦法を変えてきました。

 スピンやカーブを巧みに使い翻弄し始めたんですよ?ユキもあのトリッキーな戦法には舌を巻いてましたね、あれこそまさに年の功ですよ、相手の苦手な部分を攻めるんです。

 ユキはまっすぐ行くタイプですから?あぁいうめんどくさい戦法には昔から弱いです。


  でも難しい戦局でしたね?おばあさんのスタミナが切れるかユキがテクニック負けをしてしまうか。

 ただしその時です、熱くなってきてしまったのかユキの悪いクセが出ましてね?


 そうです、野生解放です。


 ほんの一瞬でしたがフレンズ化して強烈なスマッシュをかますつもりだったんでしょう、お父さんのシロさんがそんな性格だったとか?

 捉えきれないほどのスピードとパワーならどうだ?と考えてのことなのかもしれませんがそれいけません、俺はいろいろとまずいと思って止めようとしました。


 



 カンカカンカンコンコンコンコンカンコンカンコンコン!←高速ラリー


「これならどうだぁー!」


「っ!?」


 この時、ナウも見逃していなかった。

 

 シラユキの耳と尻尾を…。(胸も)


「ユキよせ!」


 瞬間アサヒは熱くなるシラユキに飛び付きその体を押さえつけた、そうしてそのままスマッシュは打たれることなく二人で床に倒れ込む


「お嬢ちゃん… 君はもしかして?」


 転んだシラユキを見てぎょっとしていたナウ、その姿が懐かしく思えたのだろうか?なぜなら彼女の前職はパークの飼育員、解放しフレンズの姿を見せたシラユキを呆然と眺めそこに立ちすくしていた。



 疑問に感じたことだろう「フレンズ?パークの外で?」と…。



 するとその時だ。


「あぁお義母さん!またお客さんにちょっかいだして!」


 女将さん登場、ナウおばあさんは正気に戻り言い訳タイムに入った。


「お、おぉ?なんのことかな?」


「しらばっくれても無駄ですよ!もぉ~!おとなしくしててくださいよ大女将なんですから!ホントに元気なんだから!」


「えぇい!僕は大女将だぞ!偉いんだぞ!好きにさせとくれ!ちゃんと許可とってやってたんだからねぇ!」


「開き直らないでください!動揺して昔のクセが出てますよ!まったくもう… お、お客様?お食事の用意がそろそろできますのでお部屋でお待ちください?それでは失礼しまーす… さぁお義母さんもいきますよ!」


 それはもうとんでもなく不服そうな顔で女将に連れていかれた大女将、そう彼女は偉い… しかし偉くなりすぎたのだ、なまじ立場ある人間になってしまったためにこうして大してやることもなくどっしりと構え難しいことの是非を決めたりするだけの状態になってしまった。


 大女将ナウは暇だった、現場で働くことに慣れていた彼女はとにかくその立場が暇で仕方なかったのだ。


「連れていかれたみたいだ… ユキごめん大丈夫?怪我してない?でもダメだよあんなに熱くなって?相手は凄い動きしてもおばあさんだよ?」


「だ、大丈夫… 大丈夫だから…」


 少し震えたような声で返事をしたシラユキ、もしかすると悔しいのかもしれない、決着を着けることもできず後半は押され始めていたからあのまま負けていたのかも… だから声に悔しさが滲み出てしまった、アサヒはそう思っていたが。


「ねぇアッくん?もう大丈夫だからぁ… は、離してぇ?///」


「え… あ、あぁ!?」


 その時のことをアサヒはこう語る。

 

 え?どうしたのかって?俺ユキの背中から飛び付いて押さえ込んでたんですけどね?その時両手がですね?何て言うか、その… 下品なんですが…。


 胸を、鷲掴みしてましてね?


 彼女から耳と尻尾が消えて慎ましくなるまで揉んでしまいました、浴衣越しっていうのがもうたまりませんね。←素直


「ごめん!ごめんね!?事故だから!これ事故だから!」


「いいよ大丈夫、アッくんだから… でもズルいよいきなりこんなことするなんて…」


 狩りをする獅子の顔が一変、その気になったメスの顔になっていた。


 例えばこんなことを考えたことはないだろうか?相手の両親と話している時、彼女は澄ました顔してるけど夜は子猫みたいになるということをご両親はご存知でない、その顔は自分だけが知っていて何か背徳感のようなものを感じ、ご両親とのお話し中それを思い出すと妙に興奮してくる。


 なんとなくアサヒは今そんな気分だった。


 もっとも今はシラユキの両親がいるわけではないのだが、シラユキが不意にそんな表情を見せたものだからつい…。


 まぁ要約するとムラムラしたということなのである。

 

「本当にごめん、とりあえず部屋に戻ろう?そろそろ夕食の用意ができるってさ?」


「戻ってどうする気?」


「続きを… いやご飯を待つんだよ」


 これは長い夜になりそうだなぁと内心荒ぶっている自分の心を落ち着かせ、期待を胸に二人は部屋に戻っていった。


 そんなアサヒの右手にはレトルトカレーの入ったビニール袋、左腕にはグッとしがみつくシラユキ。



 今夜は揺れそうだ。







 夕食は豪華だった、なにやら高そうなお肉やお刺身、新鮮な旬野菜の天ぷらや暖かいお鍋。

 二人はそれらを美味しく頂くと特にやることもなくテレビなど見てくつろいでいた。


 しかし、若い頃と言うのは一度その気になると収まりがつかないものである。


「ねぇアッくん?」


「ん?」


「くっついてもいい?」


「いいよ、おいで?」


 そもそも離れて座ってなどいないのだが、元々近かった距離をさらに縮め肩同士が触れ合う、薄く寝間着として使う浴衣はそれだけで二人の体温を伝えることができる。


「テレビ、つまんないね?」


「消そうか?」


「うん…」


 プツンと切れた画面には何も映らないが、真っ暗な液晶が鏡のようになり肩を寄せ合う二人を写し出す。


 隣には最愛の人、そして正面にはその人と仲睦まじくする自分がうっすらと目に入る。


 部屋は、音もなく互いの息遣いがわかるほどに静か。


 やがてシラユキのほうから子猫のようにスリスリと頭を擦り付け、手は彼の手に重ね合わせ指を絡ませる。


「二人きりだよ?」


「そうだね?」


「このまま朝までだよ?」


「初めてだね?」


「もぅ、意地悪… こういうの女の子から言わせちゃいけないんだよ?」


 身を乗りだして下から覗き込むように彼の顔を見ていた、目は潤んで顔は耳まで真っ赤になっている彼女。


「でも、男はたまに女の子側から誘われるとグッとくるもんなんだよ?」


「そういうもの?」


「そういうもの」


 そんな彼女の白くふわりとした髪をゆっくりと撫でながら、徐々に抱き寄せるようにして肩に手を置く。


 強くはなくポンと添える程度の力しか掛けないが、それが返って彼女を驚かせたのかピクンと少し肩が跳ねる、薄っぺらな浴衣越しに熱くなった体温がその手の平に伝わってくる。


 彼女は更に恥ずかしくなったのか今度は目を逸らしてしまい、ギュッと彼の浴衣の裾を掴んだ。

 

 その時シラユキは覚悟を決めたのか、勇気を振り絞り彼に言う。



「お布団… 行こうよ?」



 小さく言い残すと彼女自身もまた小さく縮こまり大好きな彼の胸に顔を埋め「ん~」とゴシゴシ頭を擦り付けた、自分から誘いをかけるなんて恥ずかしくて仕方ないのだろう。


 シラユキは初めてのことにそれ以上顔を見れず、ただ小さくなって彼の懐にうずくまった。



 がそれがアサヒには堪らないのだ。


 

 普段なら彼が我慢できずにちょっかいを出してそういう雰囲気に持っていっただろう、しかし今回は珍しくシラユキから雰囲気を作ってきたのだ。


 いつもは自分だけの独り善がりではと不安になることもあるのだが、誘いの言葉を相手から聞けばお互い同じ気持ちなんだと感じ安心できる。


 “お布団に行こう”だなんて言葉は彼の男を刺激するのに十分すぎる効果を発揮させているが、アサヒはついそんな可愛いシラユキにもっと意地悪をしたくなった。


「まだ寝るには早いんじゃない?」


「ん~!わかってるくせにぃ!」


「どうしたいのさ?聞かせてよ?」


「アッくんのバカぁ…」


 少し意地悪過ぎたかな?と反省しつつも、反応があまりにも可愛いもので少し調子に乗っていた。


 しかし限界なのはむしろ彼の方、ちゃんと求めてくれるんだなと心が溢れるほど満たされてきた。


「“仲良し”しよう?」


 その言葉が彼女の限界、さすがに直接的な言葉では言えなかった。

 だがそっと囁くようなその言葉が彼の耳に吸い込まれると、とうとう耐えられなくなり…。



 彼女の唇を少し乱暴に奪った。



 はだけた浴衣から覗く白い太股の辺り、そこにいやらしく手を添えてそっと撫でながらもう片方の腕は彼女をしっかりと抱き寄せた。


「ハァ… グッときた?」


「きた」


「もう意地悪しないでね?」


「もうできないよ」


 彼の唇を受け入れ一度離れると、とろんとした表情でもう一度ねだるような言葉を語りかける。


 やがて肩もはだけていき白く張りツヤのある肌がどんどん露となっていく、紅潮して熱くなった首筋にキスを浴びせ手はとうとう直接彼女の柔肌を撫で始める。


「アッくん?お布団行かないと…」


「ゴメン、止まんなくて」


「もぉ」


 布団が敷かれているのは開いている襖の向こう、すぐそこだがその気になった若い二人にとってそれは長い距離である。


「好きっ」


「もっと好きだ」


「大好きっ」


「もっと大好きだ」




「「愛してる」」



 若い二人の舌が絡み合い、静かな一室にはその音と艶っぽい声が漏れ始めていた。











ガラガラ ストン


「失礼致しますお客様、先ほどご迷惑お掛けしましたのでお酒のサービスなど… っとぉ~っとっとぉ~?」


「え…?」

「ハァ… あ…」


 現れたのは大女将、向かい合うは着衣が乱れ床に押し倒されたシラユキと上に覆い被さるアサヒ。


 三人はしっかりと目が合った。


「え~… 失礼しました、ではではごゆるりと」←撤退


「「待って待って待って!?」」


 この時、一瞬で我に返った二人はその時ここにきた本来の目的を思い出したのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る