お日様滞在記③

 キョウは現場に向かう途中、急ぎつつも少し考えることがあった。


 

 サーバルキャットのコスプレをした少年?



 上司がオーバーに表現しただけなのか、それとも伝わってきた言葉をそのまま自分に伝えてきたのか…。


 それを知るのは伝えてきた上司だけなのでキョウには判断がつかないところではある。


 例えば売店なんかにはいろんな動物の猫耳や犬耳、あとは鳥フレンズのような付け羽というのも置いてあれば付け尻尾もある。


 記念のTシャツにパーカーなどお土産用に様々なフレンズをモチーフにした衣服もあることはあるが、コスプレ衣装というのはさすがに通常の売店には売っていない。


 その筋のというか、コアな店に行けばあるが当たり前みたいにたくさんの店舗があるわけではないし、それにお客様は皆フレンズに会いにきているのだ、自らがフレンズの格好をしても仕方がない。


 尤もコアなフレンズ好きがなりきってパークを徘徊しているのもチラホラ見えるが、とにかくコスプレ衣装で歩く子供というのはパークでもやや不自然だ。


 ただそれもこれもただの彼の先入観であり、キョウが知らないだけで子供用の着ぐるみパジャマみたいなものは簡単に手に入るのかもしれない。


 コスプレと言っても幅広い、耳を付けただけでそう呼ぶ人もいるだろう。






「着いた、またボロボロには… なっていない、よかった!」


 キョウが自分の寮に着いた。


 二人はどこにいった?と見回してみると建物のすぐそばにベンチがあるのだがそこにいた、普通にいた。


 ソラとカワラバトはなにやらボーッと並んで座り込んでいる。


「二人ともどうしたんだろう?ずいぶんおとなしいけど…」


 二人ならこの距離でこっちに気付いてもおかしくはないのだが、なぜかベンチに並んで座りボーッとしているだけだ、ピタリとくっついてるわけではなく真ん中にはもう一人座れるくらいのスペースを開けている、ケンカしてたわけでもなさそうだしとキョウはその姿を不思議に思った。


 ただ、並んで座るなんて思ってたより仲が良さそうだと嬉しくも感じていた。


「おーい?二人とも?どうしたんだボーッとして?」


「「あ…」」


 ハッと表情が変わり二人はすぐにキョウに目を向けた、目の前にいたのに話しかけられるまで気付かなかったようだ。


「ご主人さま!」

「しいくいんさん!」


「ボーッとしてどうしたんだい?緊急連絡を受けて急いで帰ってきたんだけど」


「「きんきゅーれんらく?」」


 なんの話だかまるでわかっていない様子なので、ご丁寧に主犯である二人の罪状を説明していくキョウ、怒鳴り付けるでもなく本当にただ普段話すのとそう変わらない口調で優しく伝えていった。


「…ということなんだ?驚いたよ、二人とも心当たりあるだろう?サーバルキャットのコスプレをした男の子」


「サーバルキャット?」

「コスプレ?」


 カワラバトはいつものことだが、ソラまで「ほぇ?」の顔をしているのがキョウにとっては少々意外だった。

 

 この二人はわざわざこのタイミングで嘘をつくような子達ではない、言い訳くらいならするかもしれないがまるで知らないというのはあまりに不自然、問い詰めるつもりでもないがキョウは話を続けた。


「二人が少年を追いかけ回してると言うし、しかもその子はコスプレしてるとか訳のわからないことも言われるし… でもそうして目撃者もいるし今もこうして二人でいるのだからいたんだろう?その例のサーバルキャットの子が?どこに行ったのかわかるかな?もう親御さんが連れていってしまったかな?一言謝罪くらいいれないと…」


「ほぇ?誰のこと?」


「わたしも知らないよ?」


「えぇ?おかしいなぁ…」


 確かに連絡を受けた、ミーティング中眠かったわけではないので寝惚けて聞き間違えたわけではないだろう。


 そう彼は確かに聞いたのだ、ただ二人が嘘を言っているようには見えない


 何かこの件に関する真相があるはず



「何かあっただろう?ほら、じゃあ二人はなぜ今一緒にいるのかな?」


「えっとね?カワラバトちゃんがうちに来て… なんで来たんだっけ?」


「ほぇ?えーっと… 何か用事があったんだけど、しいくいんさんに聞きたいことがあってそれで…」


「聞きたいこと?」


 なんだろうか?なぜか二人の記憶が曖昧としているように見える、そんな風にキョウは疑問を感じつつ同時に不安に思った


「大丈夫?なんだか様子が変だよ?二人とも何かよくないことがあったんじゃ… まさかセルリアンか!?」


「違うよ?セルリアンなんて出てない… 出てないよね?」


「うん、平和だね? …あ、そうだ迷子!迷子のことで来たんだっけ?」


「迷子?もしかしてその子が例のサーバルの子かな?」


 なぜか要領を得ない、やはり新種のセルリアンが出てここ数時間ほどの記憶を奪ったのではないだろうか?とそんな不安が彼を襲う、だが彼がそのように心配性になるのも無理はない。


 以前ソラがセルリアンの被害に逢い心にある大事な物を奪われてしまったことがある、その時はたまたま自力で取り戻すことができたので助かったが、下手をすればソラは輝きを失い消えていたのだ。

 それにソラだけではない、一歩間違えればカワラバトも失うことになったのだから。


 ただ、その時たまたま来てくれて迅速に対応してくれたハクトウワシにはキョウも感謝してもしきれないことだろう。


「そう迷子!しいくいんさんに迷子がいるから助けてもらおうとしておうちにきて!それでソラちゃんと一緒に… あれ?」


「あ、そうだった!ご主人さまはお仕事だったから丁度なんとかして伝えようとしてて!でも… あれれ?あの子がいないよ?」


 あの子、キョウにとっては例のコスプレ少年のことである。


 ただキョウが例の彼の特徴を聞いても二人は「わからない」と答えるのだ、これでは埒があかない。


 迷子だとしたらどこへ行ったのか?またどこかで迷子になってしまっているのだとしたらすぐに助けてあげなくてはならない。


 キョウは考えた。



 うーん… もし本当に迷子なら親御さんが届け出を出しているかも?なら、本部に直接聞いて見ればいいんじゃないか?よしっ。



 そう思い立つと、インカムのスイッチを入れて上司に連絡を取った。


「あーこちらキョウです、聞こえますか? …あ、はいとりあえず異常無しです、それでですね? …はい、その子なんですが迷子届けは出ていませんか? …はい迷子、え?黒髪のクセっ毛かって?いやわかりませんがサーバルキャットのコスプレならブロンドかと、その子も迷子ですか? …えぇ知らないんですか?じゃあなんで聞いたんですか? …そうですか、それじゃあ迷子は今いないと、了解です …はい、失礼します」


 結論、今パークには迷子はいない。


 あるいはそもそも迷子届けが出されていないのか自力で親の元へ帰ったのか。


 どうやら二人はこれ以上なにも知らないみたいだし、とりあえず何事もなかったということでこの件は終わりということになった


「ところで…」


 キョウは、それとは別件で何か気になる物を見付けてソラの服をじっと見ていた。


「ソラ、買い食いしたな?」


「え?なんでわかったの?」


「服にご飯粒を落としてるからだよ」


 そのご飯粒こそ、まさにサンがいたことを裏付ける証拠になる。


 しかしそれにソラやカワラバトが気付くことはないし、もちろんキョウがそれによってサンの存在に気付くこともない。


 彼はすでにここにはいない、さんざん引っ掻き回してから元いた場所へ帰ったのだ。


 彼のいるべき世界へ。


「あのしいくいんさん?」


「ん?なんだい?」


「是非私のことをカワラちゃんと呼ぶなんてどうかな? …なんて///」


「あぁえっと… 考えておくよ」


 急にどうしたんだ、でも名前とか軽はずみに与えていいんだろうか?ソラは元々付けてたからいいとして、飼育員と担当のフレンズという間柄でそこまで肩入れしてもいいものか?う~ん、この件は追々だな…。








「サン?サン?起きますかねぇ?」


「ん、んん… パパ?」


「ダメですかねぇこんなところで眠っては、それにしても一人でこんなところまで?よく頑張りぃましたねぇ?もしかしてそのお弁当を届けにわざわざ?」


 サンはたくさん動いてたくさん食べた後だったためかいつの間にかベンチで眠ってしまった。

 だが目を覚ますとそこは目的地である遊園地、しかもあれほど会いたがっていた父がわざわざ起こしてくれたのだ。


「あれ?ボクいつの間に遊園地に着いたんですかねぇ?まぁいいや!そうです!これで遊園地にも余裕で来ることができますね!」


「凄い凄い、息子の成長が眩しい… ところでそれ食べてもぉいいですかねぇ?」


 お弁当箱を指差す父シンザキ、しかしお察しの通りそのお弁当箱にはなにもない、空である。

 夢も希望もありはしない、あるのはサンが二人のお姉さんとお弁当をシェアしたという思い出だけである。


「ごめんパパ、もぅ食べてぇ… しまいましたねぇ」


 時間は丁度昼時、父シンザキは空腹に苦しんでいた。


 だが先ほど2対1の狩りごっこのあとで気持ちの良い空腹に襲われていたサンはそれを食べてしまっている、即ちシンザキの弁当は結局ない… 空虚、無である。


「お腹ぁ、空いてたんですか?仕方ないですねぇサンは」


「はい、でもどっちもお米ぇでしたねぇ」


「ええ… 一昨日もそうでしたねぇ?ところでサンはよくおかずも無しにそんなにたくさん食べれましたねぇ?」


 ん?とサン自身も少し疑問には思った、しかし無いものはない、食べたのも覚えている。

  

「ボク成長期なので、一段や二段は余裕で食べてしまいますね」


「まぁそうですかねぇ?男の子はぁそれくらいでないと」


 これも全部成長期ってやつの仕業なんだ。


 サンはそうして結果だけを父に突きつけた。

 

 ただシンザキはそういう性格なので特に怒ったりはしない… のだが、その日帰ったあと何か納得いかなかったのかあっさりとサンが自分の弁当を食べたことをサーバルにバラし、そしてそれが二段ご飯だったので今度からは気を付けようということに関しても注意喚起を促しておいた。


 だがその次の週、サーバルはおかず二段弁当という荒業を見せた。


 





「とまぁそのように?僕は遊園地だと思っていたその不思議な街で迷子になったところを?カワラ姉さんとソラ姉さんに助けられた… とそういうわけですね?あ、でもよく考えたら一緒に遊んだだけですかねぇ?」


 そう特段何か助けてもらったわけではない… いやお弁当に関しては助けられた、サンはその点をしっかりと覚えておかなくてはならない、食に関してはしっかりと感謝をしよう。


「サン、ちなみにそれいつ思い出したのかな?それともずっと覚えてた?」


「今です、シロのおじさんに聞かれて考えてたらそういえばって感じで思い出しました、でも不思議ですねぇ?夢だったんですかねぇ?ちなみにソラ姉さんは可愛い系でカワラ姉さんは美人系でした!僕としてはぁカワラ姉さんとのんびり過ごすのも悪くないと思いますが、ソラ姉さんは活発なので一緒に遊ぶならソラ姉さんの方が楽しめそうですかねぇ!」


 サンは、やはり楽観的である。


 故にどこで身につけたのかなにやらPLAYBOYなことを包み隠さず言い始めた太陽少年13歳。

 

 色を知る歳か?この件について母サーバル曰く…。


「最近女の子への興味が凄いみたいで、発情期かなぁ~?」


 いいえお母さん?それは思春期というやつですよ?しかしこの親子、性格が楽観的すぎるためか基本オープンなのである。


 シロ一家は割りと気を使ったものだ、シロはあまり刺激してはいけないと触れないようにしていた、特にシラユキのことには気を付けていた… かばんは「男の子だもんね…」とクロユキが自室や地下室で何かしていた痕跡を見付けたとしても黙認していたし誰にも話さなかった。


 いや思春期とはある意味発情期なのかもしれない。


 そんなサン、彼にも弱味がある。


「いやぁ、サバンナちほーにいるフレンズさんたちとはまた別の魅力がありましたねぇ?おじさんも気になるでしょ?」


「ちょっとね?」


「…」ジト


「ヒェ… まったく気にならんな?おじさんは愛妻家だから!」


 シロが追い詰められたその時、サーバルが唐突にドアを開けて叫んだ。


「あ!いらっしゃい“ノゾミちゃん!”今日は一人?すっごーい!よく来たね?サンならそこで別の女の子の話をしてるよー?」


「あぁちょっと待って!?なんで言うんですかねぇ!?基本的にはそう言うのお節介って言うんだよお母さん!?」


 ノゾミちゃん。

 ゲンキの娘でサンより一つ上のお姉さんである、ゲンキの職業柄家族ぐるみでの付き合いがあり、歳の近いサンとはすぐに仲良くなった。


 ちなみにサンはこの子にホの字である。


「ノゾミちゃん!よ、よく来ましたかねぇ?いやぁシロのおじさんが女の子の話大好きでで… ってあれ?」


 すぐに玄関先に顔を出したサンは言い訳をあれこれ並べていたがすぐにその光景に目を疑った。


「どこにぃ… いるんですかねぇ?」


 愛しの君はそこにはいない、ではどこか?


「嘘でしたぁ~!変なお話ばっかりしてるからだよ~?」


「ひどいですねぇ?こんなひどい母親がほかにいますかねぇ?」


「サンだって余計なこといっぱい言ってママに意地悪するからだよ!そのうち本当に都合の悪いことになるんだからね!シロちゃんみたいに!」


 そう、サーバルの嘘である。


 ロッジでジャパリマンを誤魔化していた彼女もずいぶん嘘が上手くなったものだ。



「なんで今俺にまで飛び火したんですかねぇ?」


「普段の行いですよ~?」


「俺そんなに悪いことしてきたかな…?」



 パークではしばしば男性が苦労する傾向にあるのだ、向こうのキョウくんにも是非頑張っていただきたい。





クロスオーバー


猫シリーズ(気分屋)×私とソラのジャパリパーク滞在記(鏡)


コラボ先↓

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885481833

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