お日様滞在記②
「私はカワラバト、あなたのお名前は?」
「サバンナです、でもみんなサンって呼んでくれます」
さ、サバンナ?なんか凄そうな名前…。
ただ彼女はとんでもない名前だとも思わなかった、なぜなら彼女には固有名詞というものが存在せず種族名の“カワラバト”と呼ばれ、彼女自身も特に気に止めたことがないので自らそう名乗るからだ。
名前というもの自体が彼女にとって新鮮に映るのである。
しかしこの時なんとなく感じたのは…。
ソラちゃんはイエイヌだけど元がしいくいんさんのペットだからソラという名前がある、私にはない… このサバンナという名前もこの子の親がこの子だけを指し示す為に特別な想いを込めて付けているに違いない。
私とソラちゃんにはしいくいんさんと会ってからの時間だけじゃない、そういう部分でも差を感じてしまう。
いいなぁ?しいくいんさん私にも特別な名前付けてくれないかなぁ~?なんて…。
ボーッとサンを放って物思いに耽ってしまうカワラバト、急に黙り混んであらぬ方向に目を向けている彼女を見てサンは余計に不安な気持ちになってしまった。
「あ、あのカワラバトのお姉さん?どうしたんですかねぇ?」
「ほぇ?あ、ごめんごめん!えっと… サンくん!サンくんは迷子なんだね?パパとママは?」
うわ… 急に正気に戻りましたねぇ?ヤバい人に話しかけられたのかもしれなくて若干やぁ身の危険を感じているのでそういったところでボクぅ、逃げやすいように…。
スッ…。←後退りする音
「ごめんね?待って?もうボーッとしないから逃げる時の体勢とらないで?」
何かを察したカワラバトは一端サンを説得してなんとか事情を聞き出すことに成功した。
ご存じの通り彼は父親にお弁当を届けに来てよく知らないとこを歩き迷子に、それを聞き出すと彼女は微力ながらなにかできないかと考えた。
がしかしサンの言うことがいまいち把握できない、彼女はフレンズなので難しいことは知らないのだ。
遊園地復興計画?よくわからないけど工事現場の人かなにかなのかな?でもお耳と尻尾がある、フレンズの子供?フレンズの… 子供?ん~私だけで考えてもわからない、しいくいんさん助けてしいくいんさん…。
しいくいんさん!閃いた!
そう彼女は閃いた、自分だけで考えても仕方がない、ならばわかる人に頼ればいい。
「サンくん?お父さんを知ってそうな人を知ってるから一緒に行こう?」
「本当ですかねぇ?それは若干やぁ誘拐の気配を感じますね、そんなことしたら一年や二年は余裕で出てこれませんよ?」
「ゆ、誘拐なんてしないよ!大丈夫!しいくいんさんのとこに連れてってあげる、そしたらきっとお父さんにも会えるよ?」
確かに言葉の節々に誘拐犯の決まり文句ようなものを感じるが彼女にはもちろんそんなつもりはない、実際サンがこんな軽口を叩くのはさっきよりも不安が薄れた証拠でありカワラバトからそういう悪意を感じていないからでもある。
飼育員という単語は彼にとって聞きなれないものだが、フレンズに子供を誘拐するようなそこまで性根の腐った子はいない。(多分)
サンは、楽観的である。
故にカワラバトの言葉を信じてなんの躊躇いもなくその手を取った。
…
「わーい!飛んでますかねぇー!」
「あ、暴れないで?落としたくないの!」
サンを抱えその場から空高く舞い上がったカワラバト、彼女達が向かうのは彼女の担当飼育員の職員寮。
そこには彼女、カワラバトの担当飼育員と“もう一人”が住んでいる。
そのもう一人こそ彼女の恋のライバル。
\ピンポーン!/
「はいはーい!ってカワラバトちゃんかぁ、なーに?ご主人様なら仕事だよ?」
「あーやっぱりかぁ… どうしよう?ねぇソラちゃん?どこにいるか知らないかな?ちょっと用事があって」
出てきたのはソラ、イエイヌのフレンズである。
カワラバトの飼育員は当初このジャパリパークに飼い犬と旅行で訪れていた、その際このソラにいつ当たったのか不明だがサンドスターが当たっていたらしく、ある朝ソラはフレンズ化していた。
彼はいろいろ考えた結果仕事を辞めてジャパリパークでソラの為に飼育員になることを決意したのだ。
そしてソラの担当になってから程無くしてカワラバトの担当も掛け持ちになる。
当の彼には二人に対しその様な気はないのだが、なにやらソラとカワラバトはお互いに譲れぬ想いがあるらしくよくある三角関係というものが出来上がっているのだ。
モテる男は辛いのである、これも彼の人柄の良さだろう。←女難の相とも言う
「カワラバトちゃんさてはご主人さまをデートにでも誘いにきたね!?」
「ほぇ!?ち、違う違う!そうしたいのはやまやまだけど違うの!この子を見て?迷子みたいだから力を借りに来たんだよ!」
本音を言うとカワラバトはサンを口実に入ってはいけない彼の部屋に入れるのではないか?という期待があったりもした。
会いたい、でも会えない… 理由がなくちゃ会えないならなにか考えないと。
そんな時にスッと現れたのがこの太陽の子サバンナである、黒いボディーと真っ赤な目の仮面のヒーローとは違う。←リボルケイン!
「迷子?」
「あ、初めましてイヌのお姉さん!ボクはサバンナです、でもみんなは親しみを込めてサンと呼びますかねぇ?」
「サバンナ?サン?初めましてサン!わたしはイエイヌのソラだよ!お耳と尻尾があるってことはフレンズなの?」
「半分だけです!」
サンは迷子と聞いてキョトン顔のソラに元気良く丁寧な挨拶をした。
ソラもそんな元気な自己紹介に元気に返事をしたのだが、ただ彼が最後に言い放った「半分だけ」という言葉がどうにも引っ掛かった。
それはカワラバトも同じで、いろいろ複雑過ぎてとりあえず流していたが結局彼は何者なのだろう?と疑問が再浮上し始めていた。
「「半分だけ?」」
「ママがサーバルキャットなんです」
「えっとサンくん?それはつまり…」
シンザキスイッチ ON
「あ、サーバルはですねぇ?基本的にはアフリカのサバンナという地域で過ごしていまして…」
「「そうじゃなくて!」」
発作の様に始まった謎のサーバル解説を止めた二人が感じたのは彼の言葉に対する疑問、そしてしなくてはならない事実確認。
彼は、父親を探している…。
即ちヒトである。
カワラバトは彼の父親がパークで何かしらの仕事をしているのを察したのでここの職員であることをわかっている、それは事情を知ったソラも同じであり二人がその末に気付いたのはある1つの事実。
「ねぇソラちゃん?そういうことだよね?」
「そうだねカワラバトちゃん、そういうことだね!」
「いったいなんの話ですかねぇ?」
二人はまだ年端もいかないショターバルを左右で挟むように立ちその頭から生える耳をじっと凝視した。
「あの… な、なんですかねぇ…?」
「ソラちゃん見て?売店とかにある付け耳じゃない、本当に生えてる」
「一応触って確かめて見ようよ?」サワァ
「そうだね」サワァ
二人はがっつくのではなく、至極冷静に優しくその耳に触れた。
柔らかい肌触り、毛並みがフワフワとして気持ちがいい、そんな猫耳に触れる度サンはこう感じるのだ。
「な、なにするんですかぁ!くすぐったいからやめてください!」
「やっぱり!本物だよ!」
「フレンズの男の子だ!」
「当たり前じゃないですか!この耳は結構大きいので遠くの音も聞こえるようにぃ…」
この後も尻尾を触られたりして玄関先でもみくちゃにされていたサン、つまり二人が何を言いたいのかと言うとまさにサンの存在が1つの事実を裏付けているということである。
ご主人さまと! しいくいんさんと!
子供がつくれる!?
この日、恋する乙女二人に衝撃走る。
そもそもそんな事例がないというのはそんなことをした人がいないからなのかもしれないし、そもそもできないからなのかもしれないとそう思われていた。
希にオスのフレンズが… なんて都市伝説もないことはないがそれは都市伝説に過ぎない、故にフレンズは女性同士でありながらツガイを作ったりすることがあるのだがそれでは当然子は成せない。
だが、サンという存在が二人の前に現れた、突然現れた彼は自分をフレンズのハーフと言うのだ。
その証拠に彼は幼子でありながらフレンズの姿をしており、男の子である。
二人は衝撃事実に悶え苦しんだ、喜びで。
「もう!なんなんですかお姉さん達!パパのこと探してくれないならボク逃げさせてもらいますかねぇ!それっ!」
ピョンと飛び上がったサン、1メートルや2メートルは軽々とジャンプしてその場から離脱、着地するとまっすぐ走り出した。
「凄いジャンプ力ぅ!」
「感心してる場合じゃないよソラちゃん!また迷子になったら大変だよ!追いかけないと!」
カワラバト、イエイヌのソラは逃げ出したサンを追い掛ける。
「あ!狩りごっこですかねぇ?負けないぞー!」
しばらくの間。
うわーーー!うぇひひひひ!いひひひ!あははは!あははは!うぃひひひひ!あーはー!うぉー!
をお楽しみください。
…
「はぁ… はぁ… やっと捕まえた…」
「ほぇぇ… もう飛べない…」
「楽しかったぁ!ボク狩りごっこが大好きで!ソラ姉さんは足がとっても早いですね?簡単に追い付かれてしまいました!カワラ姉さんも飛んでる姿カッコよかったです!」
タフネス!子供はこと遊びになるとどこにその体力を隠していたのか?というくらい元気なのだ、恐らくかばんとサーバルを追い詰めたアライグマもこの原理であのフィジカルを発揮したのだろう。
何事も必死に取り組むとなんとかなるものなのだ。
「ソラ姉さん?」
「カワラ姉さん?」
「はい!二人とも一緒に遊んでくれる素敵なお姉さんですかねぇ!」
「お姉さん?わたしお姉さん?そぉお~?そんなに素敵ぃ~?」←尻尾フリフリ
「普段こんな風に子供と遊んだことなんてないからそう呼ばれるのは新鮮だねぇ?」←羽パタパタ
三人はかなりアクロバティックな狩りごっこでいつの間にか打ち解けていた、時に言葉を捨てて体で語り合うほうが早く正確に伝わることがあるのだろう、サンのようなタイプなら尚更にそうだろう。
「あ、そうだ!ご主人さまにサンのこと伝えないとだった!」
「そうだよ!しいくいんさんは今どこにいるの?」
なんだかんだ狩りごっこに夢中で忘れていたがサンは迷子である、父親を探さなくてはならない。
がしかしだ、当然“ここ”にサンの家族はいない、存在しないのだ、
サンは、楽観的である。
だがその楽観さ故に自分がただの迷子ではなく…。
時空の迷子になってしまったということに気付くことができなかった。
「動いたらお腹が空きましたねぇ…」
「ほぇ?そう言えばもうお昼だね?」
「サンもうそのお弁当食べちゃえば?」
「そうします!」←即決
背に腹は変えられない、サンは包みをほどいて二段に重なったお弁当を開けて食べてしまうことにした。
父は優しい、きっと空腹に苦しんだ我が子を思えばそれも許してくれるだろうと都合良く解釈してウキウキしながら蓋を開けてみた。
がそこには…。
パカッ
「お米!」
「ねぇねぇ!おかずはおかずは?」
「なんでソラちゃんが楽しみにしてるの?」
二段目パカッ
「お米!」
「「あ…」」←察し
その時、サンの脳裏に記憶が甦る…。
『うみゃー!?しょっぱーい!?お砂糖と間違えちゃったー!?』
…
『サーバルぅ僕のパジャマ知りませんかねぇ?』
『あ、干しっぱなしだ!とってくるね!… うみゃー!?雨だぁー!?』
…
『あらサン、良く来たわね?それを私に?わざわざありがとう、お使い偉いわね?早速いただきます… しょっぱ!?もう、味付けおかしいでしょ、サーバルのおっちょこちょいは相変わらずね』
相変わらずね…
相変わらずね…
相変わらずね…
…
「んもーっ!?ママぁー!?」
息子の母に対する悲痛な叫びがパークにこだまする。
「ほぇ… お母さん間違えちゃったんだね?」
「ドジだなぁ~カワラバトちゃんみたい!」
「ほぇ!?私確かにボーッとしてるかもしれないけどそんなにドジじゃないよ! …え、じゃないよね?」
不憫に思った二人は何か手はないかと考え、結局ソラがご主人から何かあったときようの為に持たされていたお金を使いおかずになるものを買いにいくことにした、子供には多すぎる二段の白米も三人でシェアすることで残すことなく食べることができたのである。
…
その頃、当の飼育員はミーティングの真っ最中であった。
ソラとカワラバト、二人の担当飼育員も勿論そこにいる、周りには眠そうにうつらうつらとしている者もいるなかで、彼は真面目に上司が話しているのを聞き時にメモも取っている。
「…っと~こんな感じなんだけどぉ?みんな何か質問とかある?」
ナウさんが一番ダルそうだなぁ…。
上司が話すのを見て、飼育員の
そんな生真面目な彼こそが例の二人の飼育員である、彼はまだこの仕事をして日が浅いがその生真面目さ故にしっかりと与えられた仕事をこなしてきている。
二人のフレンズに振り回されがちだが、それでもそんな担当フレンズからの信頼は厚い… むしろ厚すぎるくらいだ。
「ないなら終わるよ~?それでは皆さんこれからも担当の子にはしっかり気を配るように… っとぉ?なにかなぁ?はいこちら戸田井です」
なにやら緊急連絡らしい、彼女のインカムに直接連絡が入ったということはフレンズが何かしでかしたのかもしれない、飼育員一同「ん?」と眉をしかめた。
「了解、とりあえず担当向かわせますんで… キョウくん!緊急事態だよ!」
「え!?」
彼もまさか自分ではあるまいと思っていた、前に飼育員寮の部屋を二人がメチャクチャにしたことがあったがそれ以来あまり目立った問題は起きていない、だから大丈夫だと思っていた。
がしかし現実はそう甘くはなかった。
「君のとこのソラちゃんとカワラバトちゃんがサーバルキャットのコスプレをした少年を追いかけ回していると報告があったよ!場所は君の寮の側だね」
「あぁもうなぜそんなことに… すぐに行ってきます!お先に失礼します!」
「はいはぁ~い、いってらっしゃ~い?気を付けてね~?後で報告書ヨロシク~?」
事務所を出ると、キョウは急ぎ二人の元へ走った。
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