お日様滞在記

 サバンナちほー。


 ここにはとある一軒の家が建てられている。


 家と言ってもとても立派なお屋敷とかそこまで大層なものではない、例えるならば部屋がいくつかあるだけの平屋のような建物を想像していただきたい。


 そしてこのとある家にはとある一家、一組の家族が住んでいる。


 今回ゴコクの帰りにシロとかばんはここに訪れた、二人はその家族とは非常に古くからの仲である。


「あ、二人ともいらっしゃい!揃ってどうしたの?わかった!デートの帰りでしょ?いつまでも仲良しでいいね~?」


 二人に向かいお日様みたいに明るい笑顔を向けた一人の女性、ブロンドにツンと立った大きな耳と縞模様のある尻尾、全体的に黄色が映える姿の彼女は薄ピンクのエプロンを付けてなにやら丁度洗濯物を干しているところだった。


 かばん同様その姿は昔と比べてすっかりと大人の女性になったが、やはりそれはフレンズ故の生きた年数に対し非常に若々しく見えるものである。


 二人ともそうして姿は昔と比べて変わったところもあるが、かばんと彼女の間には決して変わらず廃れることもない強固な絆があるのだ。


 そう彼女こそ!


「サーバルちゃんもいつも通り元気そうだね?近くに寄ったから少し会いたいな~って思って、忙しくなかった?」


「全然平気だよ!さぁ上がって上がって!アルパカが美味しい紅茶の葉をくれたんだ~!今用意するね?」


「サーバルちゃん、俺の鼻が正しければ何か作ってたんじゃないかな?例えばクッキーとか… 焼きすぎに注意してね?」


「うみゃあ~!?忘れてた~!?」


 彼女こそ!かつてサバンナちほーのトラブルメーカーとしてそれはもう幅広く名を轟かせていた有名フレンズサーバルキャットのサーバルさんその人である!

 

 現在はそんな彼女にも夫と息子がおり、サバンナの美人奥様としてフレンズ達からも女性として尊敬の眼差しを向けられている。


 本人曰く、やぶさかではない!


 それはそれとして…。


 サーバルとかばん、各々家庭を持ち生活を別のものとした二人だがその絆が消えることは決してないのである。


 なぜなら二人はサバンナコンビなのだから。



「はぁ~良かった… 丁度頃合いの焼き加減だったみたい!ありがとうシロちゃん!」


「ウィマダァム?火の扱いはもう少し気をつけてシルブプレ?」


「シルブ… なになに?よくわかんないけど次から気を付けるよ!」


 突然のエセフランス人にも動じない、そんなサバンナの太陽サーバルの元に二人が来たのは単なる顔出しではない、ゴコクの帰りにわざわざ寄ったのだから用があるのは寧ろサーバルではなくその息子…。


「あ、おじさんにおばさんこんにちは!」


「やぁサン、大きくなったね?」

「こんにちは、なんだかまたサーバルちゃんに似てきたね?」


 それはサーバルの息子、今13歳くらいになった頃だろう。


 サンと呼ばれているが正確には“サバンナ”という名である、母サーバルの壊滅的なネーミングセンスによりこの広大な土地サバンナと同じ名を付けられてしまった。


 だが、皆は愛称でサンと呼ぶので特段問題はない。


 そしてこの日二人はそのサンに会うために来たのである。


「あ!お母さんがお菓子焦がしてない日だ!これはラッキーですかねぇ!いいタイミングに来ましたねおじさん達!ツイてますよ!」


「あぁ俺が教えてあげたんだよ、焼きながら洗濯物干してたから」


「僕おじさんのこと前から尊敬してました」


「ありがとう、サンは将来大物になるよ」


 苦笑いのかばん、何か通じあっている男二人… そして「余計なこと言わないのー!」とムクれっ面のサーバル。

 

 ちなみに夫シンザキは出世したのでいろいろ任されてはひぃひぃ言いながら仕事をしている、かと言って家族仲は問題なくそれに伴い当然の如く夫婦仲も良好であり、大人の女性サーバルは疲れて帰ってきた夫を労うことを忘れない良妻である。


 シンザキも夜はどれだけ疲れていても嫁がその気なら男を見せる、やるときはやるのである。


 そんな二人の年頃の息子は楽観的なので「仲良しぃ… ですかねぇ?」としか思っていないので問題ない。



 さて本題に入ろう。



「実はサンに聞きたいことがあるんだよ」


「僕にですか?まさか仮面フレンズサバンナのオファーですか?任せてください、この日の為に設定をかんg…」


「違う、ごめん違うけど今度マーゲイさんに聞いとくから一回俺の話聞いて?」


 シンザキと交わった為かサンはサーバルとは別ベクトルに破天荒である。


 さておき、シロは例の夢… 異世界とけもワープについて心当たりはないかと彼に尋ねた、見立てが正しければ彼にも同じことが起きるはずなのだ。


「変な夢?」


「そう、例えば同じパークのはずなのに見たことのない建物が並んでいるとか、知り合いなのに自分の知ってるその人と別人のその人と会ったとか」


「ん~… 夢…」


 腕を組みウンウンと唸りながら遠い記憶探る少年と、いかにもわかりませんと言った独特の表情で遠い目をする母親は今日はゲートまで行きそうな顔をしている。


「あ!あれのことですかねぇ?」


「おや?あるのかい?」


 ポンと手を叩き何か思い出したサン、シロは少し驚いたのと期待通りだと感じた両方の気持ちでその話に耳を傾ける。


「5年ぐらい前ぇ… ですかねぇ?」







 その日、彼はいつものように起床した。


 母は朝食の時間だと彼を呼び、父はわたわたとメガネをズラしたまま仕事の準備をしていた… 昨晩も揺れていたので寝坊したのだろう。


 体を起こし、彼の頭にもある母と同じくツンと立った猫耳がピクピクと動く、合わせて布団から縞模様のついた尻尾がスルリと姿を現した。


 「ふぁ~…」


 とひとつ欠伸あくびをしてベッドを降りカーテンを開けると、今日も窓越しにサバンナちほーに輝く太陽の光が元気に少年を照らし付けている。


「おはようパパ!ママ!」


「おはようサン!」

「おはようサン、顔を洗いますかねぇ?」


 部屋を出て元気よく朝の挨拶をすると父も母もいつも通りそこにいて、挨拶を返してくれた。


 彼はその日の朝食も覚えている、食パンと目玉焼きだ… 父が慌てて仕事着を着て裏返しになっていたのすら覚えている。


 それからサンは慌てて家を出た父を他所にゆったりと優雅な朝食を楽しむ、が洗い物が進まないとそれを母に催促される。


 ここまでいつも通り、サンは朝食を済ませていつもの服であるブチ模様のついた黄色のオーバーオールを着た。


 いつもと違っていたのは。


「あ!シンザキちゃんお弁当忘れてるよぉ~!」


 父が慌てていた為かお弁当を忘れてしまったことである、そしてその時8才になって若干やぁ背伸びしたいお年頃だったサンは母にドヤ顔で言ってやったのだ。


「ママ、ボクがぁ届けてあげますかねぇ?」


「え、え~!大丈夫なの!?一人で行くんだよ!?」


 先日一人でカバにお菓子を届けてくるというミッションをクリアした為か彼は天狗になっていた、耳と同じくらい鼻を伸ばしていた。


 その日父は遊園地の復興計画についての仕事なので現場直行だということを知っていたサン、カバさんの水辺まで行った自分なら余裕だとぶっちゃけ距離というものを軽く見ていた。


 だがサーバルもサーバルで、これも息子の成長に繋がり経験として生きるなら信じてみるのが親というものではないか?といつかのクロユキとシラユキのおつかいの件を思い出すと、そのまま夫のお弁当を息子に託すことに決めた。


「いいサン?遊園地はあっちだよ?カバのとことは反対だからね?」


「大丈夫!知ってます!」


「サンだったらボスは喋ってくれないかなぁ?あ、ダメかぁ… サンもフレンズだと思われてるから… じゃあ困ったら誰でもいいけどフレンズを見付けたら道を聞くんだよ?できる?」


「ボク結構大人なので、どんなフレンズともスッとお話しできますね」


 サンは、楽観的である。


 シロとかばんの娘シラユキも大概だが、サンも母サーバルに似たのか更にケセラセラ精神が強い、根拠のない自信がまさに日輪の耀きのように溢れだしている。



 そうして彼は家を出た、「いってきまーす!」と元気に挨拶をして家を飛び出すとまっすぐに遊園地の方向へ向かった。


 サバンナちほーにいる間は順調であった。


 トムソンガゼルに会っては「今日も背中が頼もしいですねぇ!」とお世辞など言い放ち、サバンナシマウマに会っては「シマウマのお姉ちゃん!今日も凄い擬態ですねぇ!まるで本物のナメクジかと思いました!」とやはりお世辞を吐いて突き進んで行く。




 やがて、サバンナに終わりが近づいた頃だ、




「あれ?」



 

 見たことのないとこに彼は迷い混んでいた。




 沢山の綺麗な建物、フレンズもいればヒトもいる。


 仲良く並んで歩いたり引っ張り回されたりイチャイチャしていたりととにかく見たことのない場所で見たことがないくらい沢山のヒトやフレンズが入り交じる空間にいたのだ。


 通常、クロユキのように訳のわからない状況になれば混乱して不安になると泣き出してしまう子供が多いだろう、実際しっかり者のクロユキも年相応の子供のように泣いてるところを保護された。


 しかし、彼はサン… サーバルキャットのサバンナことサンである。




「凄い!遊園地がまるで絵本で読んだ街みたいになってますかねぇ!もうこんなにも直ってるなんて凄いですよパパ!パパはやっぱりすげぇや!ヒトもフレンズもこんなに沢山!」




 サンは、楽観的である。




 故にどう考えてもこの異常としか言えない状況においてもこの前向きな発想に至ることができた。


 冷静に考えればおかしいのだ。


 いつどのタイミングでここに来た?こんなにたくさんのヒトやフレンズは普段どこにいる?最後に遊園地に来たのはいつだ?その時から見てこんなにも様変わりする程の時間が空いたのか?更に言えばこれほど復興させるのに何年かかるのか?


 が…。


 サンは、楽観的である。


「こんなにたくさんヒトもフレンズもいるから誰かに聞けば迷うことはありませんね!」


 楽観的である…。


 見るもの全てが新しい、とても新鮮な気分になった彼は意気揚々と街を練り歩き、父を探すことにした。







 その頃、噴水のある広場で一人ボーッと佇む鳥のフレンズが一人。



 手に持つ食パンをちぎっては群がるハトに食べさせている、ハト達をボーッと眺めてはたまにニコりと笑いかけ、またパンをちぎり分け与える。


「あ~、平和だねぇ」


 前にもこんなことを呟いていた気がする。


 と彼女はハト達を眺めながら思った。


 ハトは平和の象徴と言われるほどだ、彼女がそうしてその言葉をつい呟いてしまうのだとしたら、それは研究者流に言えばフレンズになったことにより表れた特性なのかもしれない。


 そんな彼女、カワラバトのフレンズは恋をしている。


 厳密に言うとこれが本当の本当に恋愛感情なのかそれは定かではない、周りのフレンズや頭のいいヒトはそれを「勘違いだよ」と言うのかもしれない。


 しかし、彼女にとってそのトキメキは確かに恋なのだ。


「しいくいんさん今何してるかな?やっぱりお仕事かな?それともソラちゃんといるのかな?ここ何日か会ってないから顔くらい見たいなぁ…」


 平和だね。


 と呟いていたものの彼女の胸は今も担当飼育員のことで締め付けられている、目に映る世界は平和だが彼女の心中は穏やかではない。


 彼のことを思うとウキウキしたり暖かい気持ちにもなる、が同時に今まさにライバルが彼を一人占めしてるのだろうかとムカムカしたり不安になったりもする。


 空は晴天なのに、彼女の心はさながら曇天模様。


 ハリケーンとまでは言わないがモヤモヤとしてやや落ち着かないのは確かだ。


「お仕事だったら急に訪ねてお邪魔になるかもしれないし、でも気になるなぁ~… ひょっとしてソラちゃんとお出かけとかしてたり?私だってしいくいんさんの担当フレンズなのに~!」


 周りから見ればボーッとしてるかと思えばなにやら急にヤキモキとし始めた彼女は若干や情緒不安定に見えているかもしれない、しかし恋をしたときというのは乙女に限らず心のコントロールが利かずぐちゃぐちゃとするものなのである。


 とそこに、少年が一人…。


「ふぇぇ… パパはどこですかぁ?広すぎてわかりませんよぉ… 聞いても誰も知らないって言うし広すぎてどこを歩いてるかもわかんない、うぇぇ… ママぁ…」


 サン、彼が父親の捜索を開始して一時間が経過した時だ。


 彼はようやく自分がどのような状況に置かれているのか気付くことができた。


「パパぁ… どこにいるんですかねぇ?」


 迷子である。


 手荷物は父親のお弁当1つだけ、加えて彼はハーフフレンズという部分を除けば一般的な子供とそう変わらない、クロユキのように博識で状況判断力に秀でているだとかそんなことはないのだ。


 迷子、彼は正にTHE迷子である。


「ほえ?」


 そんな迷子に気付いたのが恋に悩めるカワラバト、彼を見たとき不思議に思った。



 男の子?フレンズ?子供?あれ?フレンズ?ほえ?


 

 彼はなんなのか?彼女は混乱した。


 ただあからさまに困ってる子を放っておくような薄情なフレンズではない、カワラバトこの時サンと対面し、話しかけたのだ。


「ぼく?どうかしたの?」


「あのボクぅ、迷子ぉ… ですかねぇ?お姉さんはだぁれ?」



 しかしこれが時を超えた出会いであることに、二人が気付くことはない。





クロスオーバー


猫シリーズ(気分屋)×私とソラのジャパリパーク滞在記(鏡)


コラボ先↓

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885481833

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