過去と夢④

 前回までのあらすじ


 あっちで起きたことがこっちで大した問題でなかったり、こっちで起きた救い用のない事実が向こうで救われていたりする。


 それが平行世界。


 そんな可能性の数だけいろんな世界があり、俺はそこの1つへ行ったことになる。


 そんなことよりカコ先生の体内では細胞が働いていた、カコ先生の体では人体の不思議展が開かれていたのである。


 あのねあのね!生き物っていろんな命と共存してるんだよ!人体だっていろんな菌やよくわからない物で構成されているんだよ!人体1つに大きな世界!大きいのはそのたわわに実った果実だけじゃなかったんだね!







 結論を言うとだ。


 フレンズというよりはフレンズの家になったというか… ようこそカコパークへって感じの状況なのか。


 まず女王に襲われてその姿と研究に対する情熱、生きる活力や目的、先生にとっていろんな大事な物を奪われてしまうことから始まった。


 先生が言うにはこの時からすでに肉体は変化していて、サンドスターに適合した状態になったとか。


「受け入れ体制が整ったとでも言っておきましょうか?サンドスターというものを女王に襲われた時に細胞一つ一つが知り理解した、それにより体に入れた際に優先して吸収、そしてそれを繰り返すことで今のような状況になったというわけ」


 自分の体の異変や前向きになった心の変化にいち早く気付いた先生はすぐにミクロフレンズの存在に気付いた、彼女達と話すことはできないがなにかこう目に見えない繋がりを感じることができたそうだ。


「私が食べた物、そして見て聞いて感じた時に溢れる感情、嬉しいとか楽しいとか悲しいとかそういう形のないものもそのまま彼女達の栄養となり、そうすることで彼女達は細胞らしく私の体に必要な栄養素を作り運んでくれるの、そして共に生まれるサンドスターは体内を循環していて、更にそれを操るようにできたのが…」


 そう、それがサンドスターコントロール。


 ある日先生は己の体内に感じるサンドスターを効率良く循環させることはできないのかと考えた、フレンズは戦う際サンドスターを消費して敵に挑む、切り裂く爪や噛み砕く牙、高いジャンプに強い腕力、速い動きも飛ぶための羽も泳ぐための動きもすべてサンドスター由来のものだ。


 元動物のスキルをヒトの姿で自由に使うためにサンドスターが手助けをする、補助ブースターみたいな感じだろうか?


 つまり先生は、自分にも同じようにサンドスターが体内を駆け巡っているのだから、理論上みんなと同じように何かしらのスキルに生かせるはずだと考えた。


 そして何年も試すうちにいつの間にかフレンズよりも器用にサンドスターを操るようになっていた先生は循環だけでなく排出、そして俺がよく使う具現化、それらを体得することで細胞はさらに活性化を続ける。

 そうして新たに生まれ変わったのがご存知我らが究極生命体カコ先生なのである… 先生が彼女達との共存を望みパークから離れない限りはその若さは保たれるだろう。


 逆に言えば、終わらせたいならパークを出ればいい。


 サンドスターを失ったその時どうなるのか、止まっていた時間が一気に流れこんで一瞬で老け込み老衰するのか、あるいは見た目はそのままに心の輝きだけが失われていき精神が先に朽ちるのか。


 それは先生にもわからない。


「ユウキくんの自由に操れるサンドスターの手があるでしょ?もちろん私もできる」


「俺の十八番が!」


「しかも両手」


「あぁぁ~っ!?!?!?」←悔しい


 そう言って先生の手と同じような美しい女性の手を模したサンドスターの手がスゥッと両手共にその場に現れると、とても丁寧な手際でお茶のおかわりを自ら用意していた。


 精密動作性もかなりのもののようだ。


「もっとも、あなたやクロユキくんみたいに戦いに使うのは難しいのだけどね?二人みたいに大きく硬質化したものを発現させるのには向いていないみたい… 頑丈な壁くらいなら作れるけどね」


 慰めなんかいらねぇや… と言いたいとこだがそれは置いといて、つまり向き不向きがあるんだろう、俺だって壁くらい作れるけどね?しかもちゃんと両手でできるから?


「まぁ、壁くらいなら余計なイメージがいらないから手放しでもいけるわ?そうでしょユウキくん?」


「ンァアァァァァァァッ!!!!」←敗北


「し、シロさん?僕はシロさんのすごいとこたくさん知ってますから!」


 師匠といい姉さんといい先生といい、ついでにスザク様も… 越えられない壁の数々だぜやれやれ。

 

 俺はあなた達に一生勝てないフレンズなんだね?でもそんな俺を凄いと褒めてくれて優しい言葉を掛けてくれるのは君だけだよかばんちゃん?俺も君のいいところ沢山知ってるよ?まずそういうとこだよ本当好き。


「ま、まぁユウキくん?年の功というやつよ?あなたもこの歳になればできるわ?」


「慰めなんかいらねーや、俺ぁもうアラフォーだからよぉ?」←拗ねた


「そういうとこって本当にナリユキくんと… まぁいいわ、ごめんなさいね?それじゃ私の体のことはこの辺にしときましょう?そういう理由でType2は使えなかった… 今度は私から質問していいかしら?」


 俺が拗ねるので先生は話題を変え異世界について話すこととなった、例の世界… シキくん達がいた世界の他にはどのような世界があるのか?他に体験していないのか?とこのような質問が飛んできた。


 答えはこうだ。


「実は俺が異世界旅行したのはその一回だけじゃありません」


「え?そうなんですか?」


「そこはどういう世界だったのかしら?」


 これ以上驚かないぞって顔をしてた二人だったが、やっぱり少し度肝を抜かれた表情をしていた。


 ただ残念、俺はそこのことをほとんど覚えていない。


「不思議ですね?片方は思い出せるのに?」


「それもずいぶん前のことさ?今になって急に思い出したんだ… 思い出せた方ですら10年以上前のことだし、もう片方の覚えてない方は確かパークにきて一年も経ってない時だったと思う」


「なるほど、他にも情報が欲しい… なにかないかしら?」


「そう、それで聞いてほしいのがですね?」


 何も俺だけが変なところに放り投げられたわけではない、実例がもう2つある。


 勿論それは子供たちのことだ、クロもユキも似たような体験をしていると話していた。


「あの二人も似たような経験を?」


「小さい頃みた不思議な夢かと思ってました… でもシロさんの話を聞くとあながちそうでもないみたいですね?」


「うん、だけどね?聞いたところ二人に違いがあるんだ」


 そうところがどっこい似ているようでまるで違うのだ。


 まずクロ、アイツが行ったのは過去の世界でありハッキリと証明は出来ないが俺達の生きるこの世界とはまっすぐに繋がっている。


 もしかしたら少しずれた別の世界なのかもしれないが、クロのあったトキちゃんもツチノコちゃんも飼育員のお姉さんもその昔確実にパークには存在していたし、口調は少しずつ変わってもその時の長も図書館で偉そうにふんぞり返っていたに違いないのである。


 訳のわからん状態でそこが昔のパークだと気付けたのはさすが我が息子と誇っている。


 次にユキ、これがまた聞くと面白いことになっている。


 ユキが行ったところには姉さんがいた、何でも娘がいて父親は師匠らしい、意味がわからん… 攻めはどっちなんだ?

 ただ俺の知ってる姉さん達にそんな既成事実はない、それに俺に姪っ子がいるとしたら既に会ってるはずだ。

 何が言いたいかと言うと、つまりユキは時代としては俺達の軸とそう変わらないところに行ってしまったということだ。


 極めつけにはあれ、“けもマ”。


 博士達は俺が来る前に一度だけ開いたことがあると言っていた、だがユキの話では主催者は平原の王二人… 更には大流行ときた。


 博士達はまるで流行らなかったのでその一度しか開いていないのに、ユキは毎日開かれてると例の娘から聞いたそうだ。


 即ちクロは過去へ行ったのに対し、ユキは良く似た別の世界に行っていた可能性が高い。


 縦軸と横軸に動いたとでも言っておこう。


 ちなみに俺の場合は両方、シキくん達のいたところは近いようで古い時代だった、証拠に先生達はまだ若かった。


「不思議ね?かばんちゃんはどう?そんな経験ある?」


「僕はありません… と言いたいところですが、もしかしたら忘れているだけかもしれません」


「ありえるね?俺もクロもユキも、まだ思い出せていない記憶があるかもしれない」


 そうだ誰にでもあり得る、先生だって父さんだってそうだ… 当時ユキのなかにいたはずの母さんはなぜか覚えていないようだったけど、実質ユキの時に同行しているはずだ。


 誰にでも… そう確信めいたものを俺は感じていたのだけど、どうやら先生には違う見解があるらしく飽くまで仮説としてそれを話始めた。


「1つ聞きたいのだけど、ユウキくんはそこでよく知る人に会ってるのね?例えばかばんちゃんや、他のフレンズ達」


「はい、同じようにサーバルちゃんもいたし博士達もいました、それからPPPも俺のよく知るPPPで、シキ… リネンくんはそのPPPのジェーンちゃんと恋仲でした」


「ふむ、時間軸のズレもあるけれど… シラユキちゃんもライオンさんに会っている、これはひょっとして…?」


 何に気付いたと言うのか、実はこういうことはサンドスターの関係で頻繁にあってみんな忘れているだけ、というわけではないのだろうか?たまたま俺達が思い出しているだけで… ん?待て、たまたま俺達だけが?


 俺達家族だけ…?


 待てよ?まさか?


「じゃあ会ってないのね?ユウキくん自身には?」


「意識はしてたけど、俺の場合は居たとしたらまだほんの子供だと思います、それにあぁして園長やミライさん、先生も若くして存在していたということは父さんと母さんは出会っていない可能性があります、事実ホワイトライオンのフレンズも父さんとおぼしき研究員もそこにはいなかった」


「カコさん、つまりそれって…」


「気付いたかしら?少し残酷というか… いや当たり前といえばそうなのだけどそんな悲しい可能性に」


 自分で言っていて俺にもわかった。


 俺がいない変わりにシキくんがいた、そしてユキとクロがいない変わりに姉さんには娘がいた、クロの場合はまだすべてが不確定だったが…。


「ユウキくんも気付いたみたいね?」


「はい」


 つまり先生が言いたいこととは…。


「ユウキくん、それから子供達… 共通点は1つ、異世界に対して“イレギュラー”な存在であるということよ、単刀直入に言うとあなた達三人は他の世界には存在しないの、私やかばんちゃんがいたのにあなた達はいない

 そもそも同じ人物のいる世界には入れないのか、それともあなた達自身が杞憂希な存在なのか… 私はそう仮定する」


 そう、故にシキくんの世界には俺の存在が言い伝えや本、物語としてパークに残っている、つまり彼らにとって俺は飽くまでフィクションの存在。


 ユキもそう、どの時点なのか不明ではあるがその時点で俺がいないということは俺はかばんちゃんとは会えない、そもそも俺は生まれていない可能性が高い。


 つまりユキもクロもけもマとかやってる世界には生まれない。


 クロの場合は不明だが、単なる縦軸の移動ではなくすぐ隣の軸のずっと昔に行ったとしたら?そこでは父と母が出会わないか、仲良くならなくても何も問題のない世界かもしれない… だからつまりそこでも俺はいないし誕生しない。


 なんか、少し複雑なのは確かだ… だってかばんちゃんは沢山いるのに俺は一人ってことで、それはどっかでかばんちゃんが別の男とチチクリ合ってるところがあるってことだろ?もうやだ死ぬわ俺吐きそう。


 なんて気持ちを察したのか先生は気を使うようにこの話題を逸らした。


「例えば、ナリユキくん達の馴れ初めは知ってるかしら?」


「「そりゃもう」」


「そ、そう… コホン!それで、ナリユキくんがもし出会ったとき渡していたのがジャパマンだった場合、恐らく二人の関係はあそこまで進展しない、たまたま時間帯がズレてユキちゃんを発見できなかったり、その日ナリユキくんが足を運んだ場所が雪山とか全然違うとこでもダメだと私は思う

 運命の赤い糸みたいなものが存在してどの世界でも必ず結ばれるというのも素敵だけど、決まった1つの世界でしか結ばれない奇跡的な出会いというのも素敵だと思わない?ユウキくんもクロユキくんもシラユキちゃんもそんな奇跡の1つ… そう考えればイレギュラーなんかじゃなく、特別なものに見えてくるわ?」


 確かに… そんな奇跡的な確率でかばんちゃんと会えて夫婦になれたのだとしたら、多少の苦労はしてきた甲斐がある、まったく粋なことを仰るのね先生は?


「シロさん?」


「ん?」


「シロさんの奥さんは僕ですよ?いいですか?他の僕に惑わされないでくださいね?“僕”が!シロさんの奥さんです、かばんという人物が複数いたとしても僕は1人だけです、わかってくれますか?ちょっと耳触りますね?」


 アンもぉかばんちゃんさんったら?///あちしったら泣きそうだわん?あ、いや泣きそうだニャン?


 まったくもってその通りだ!でも今耳触るのはやめてね?先生が見てるしわりと真剣な話してるから、ニャンニャンは後でたっぷりしておくれ?


「勿論だよ~?数あるかばんちゃんの中でもトップオブかばんちゃんである君こそが俺の奥さんだとも」←尻尾フリフリ←ニギィ!←!?


 なんて油断していると嬉しそうに揺らしていた尻尾をグッと掴まれてしまった私、シロです。


 アン… お、オラかばんちゃんに尻尾掴まれっと力抜けちまうんだぁ!りきがでねぇ!前の尻尾じゃねぇぞ!おどれぇたなぁ?どっちにしてもこうなっちまうんかぁ?


「…」グググ


 あれ…?痛い!痛いよ!?つ、強ぉーい!?もそっと優しくしてくれないかなぁ?お願いお願い!イダダダダダダ!けものプラズムこら!なんで痛覚つけた!


「だから… “月が綺麗”だなんて“僕”意外に言わないでくださいね~?」グググ


「あぁその節は大変失礼いたしましたぁん!?あんまりかばんちゃんに会えなかったからちょっと寂しくなっちゃって君を重ねて言ってしまっただけなのんァァァァァアアアアア!?!?!?許してくださいなんでもしますからぁん!?!?!?」





 さてと、とりあえず先生の理論を推しておこうか?つまり… けもワープとでも呼ぼうか?けもワープは俺みたいに微妙な存在がパーク内にいないと起きない不思議現象ということか、俺と子供達と… だとしたらこれから産まれる孫も該当するのかな?


「あの先生?そういえば孫ができまして」


「ナリユキくんから聞いてるわ?おめでとう!安定したらまたいらっしゃい?助手さんにもよろしく言っておいて?」


「はいそれで、先生の仮説で行くとお腹にいる子供にもそれが起こることもありえますよね?その場合どうなると思います?」


 まさかお腹の子だけ転移するのか?そんなこと残酷すぎる、だがユキと一緒に母さんが転移したとすればお腹の子は母親も連れていくはずだ、なぜなら母さんを置き去りにしたらその瞬間サンドスター体の母は飛散しているはず。


「そうね、転移の方法に寄るけれど… 恐らく母親ごと転移すると思うわ?理由はへその緒で繋がってるだとかそもそも母親の中にいるからだとかというのもあるし、転移の際歪みのようなものが空間に現れるのだとすれば近くにいる人をそのまま巻き込んで向こうに行ってしまうと考えられるからよ?

 だからもし、仮にかばんちゃんが転移するとしたら子供を抱っこしてたときとか妊娠中だとかという可能性も考えられる、そういう場合であれば向こうにいる自分に会うということも特例的にありうるわね?」


 なるほど、ならあながち俺と子供達だけのこととは限らないな?かばんちゃんもだし助手にも可能性が出始めた、そしてもし例の件が当たっているのならスナネコちゃんも…。


 もしかしたらツチノコちゃんもか?


「該当者が増えますね?ひょっとするとサーバルちゃんのとこの…」


「サンか、確かに必ずしもシンザキさんが彼女の前に現れて結婚するとは限らないからね?サンも杞憂希な存在だ」


「ねぇ?話の途中で申し訳ないのだけどちょっといいかしら二人とも?」


「「はい?」」


 なんだか呆れ返ったような顔でこちらを見る先生、そんな顔をして何がおかしいのか?といわんばかりの堂々たる姿勢で先生の方を向き直す俺達夫婦、そんな俺達に先生は小さく溜め息をついて言った。


「急に“それ”は流石に落ち着かないからまったく話が入ってこないのだけど、どうしても続けるの?」


「はい、こればかりは譲れませんね」

「ごめんなさいカコさん、どうか気にしないでください…」


「なんかかばんちゃんもユウキくんに似てきたわね…」


 気になるのわかりますよ?そりゃ目の前に座る人が嫁さん膝に乗せてお姫様抱っこしてたら落ち着かないですよね?でもダメなんですわ?何でもするって言ったばっかりだから本当、これだけは本当に多目に見てもらわないと?←デレデレ


 そんな愛する妻の「今日は僕がいいと言うまでお姫様抱っこ」という命を受けた俺は話を終えた後、そのまま港まで歩いた。


 しかし流石先生だ、すぐに進展があった。


 さて今度はどんな話が飛び出してくるのかな?サンにも一応尋ねておかないとな?何か聞けるかもしれない。


「このままサーバルちゃんのとこに行きませんか?なんだか僕も気になってしまって」


「このまま?」


「このままです」




 勿論構いませんよー?我が妃の仰せの通りにしますとも?

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