過去と夢③

「ごめんなさい先生、辛いことを聞いてしまって…」


「大丈夫よ、気にしないで?それにあの時の事を忘れる訳にはいかない… たまにこうして声に出して話してみるのも悪くないわ?泣くとスッキリするし、これもデトックス効果かしら?」


 強がっている…。


 そんなものは見ていれば相当に鈍いやつでも分かることだ、頭が良くて達観とした先生だって人間で女性なのだから、こうして弱い部分をさらけ出すこともあるだろう。


 そう… 先生だって人間だ。


「さてと… 話した通りType2はもう存在しないわ?サルベージして回収することもできないと思う、なぜならそれはセルリアンが体内に取り込んだ状態で海に沈んだから… つまり海底でセルリアンだったものを見付けても硬い岩に囲まれて回収できないし、どの辺に取り込まれてるかもわからない… 設計図も記録も無い、復元もできないしできたとしてもそんなことは私がさせない」


 あっさりと言って見せているが、なんだかまるで「オモチャじゃないんだぞ?」と言われてる気分だ、手に入れようなんて思うな?って言っているんだろうとそう感じる


「さぁユウキくん?私は話したわ?次はあなたが話して? …存在したことすら抹消されたType2の事をどうやって知ったのかしら?ナリユキくんから聞いたわけではなさそうだし、どこでどうやって?そしてどこまで知っているの?」


「…」


 少し渋っているのは、別に隠しているわけではない。

 

 確かにここまで話してもらって俺が何も話さないというのはフェアじゃない、というか元よりこの事を相談しに来たという理由もあるので寧ろ聞いていただきたいとすら思っている。


 ただ、話すことを前提としてやはり2~3質問しておきたい。


「わかりました、これから俺が話す事に関してもう少し聞いておきたいんですがいいですか?」


「構わないわ」


「ありがとうございます、突拍子もないんですが…」


 彼について聞こう、あの彼だ…。

 

「先生に弟はいますか?血の繋がらない戸籍上の弟、名前は…」


 シキ… いや違う、彼には俺と同じように本当の名前がある、向こうでは先生からもらったと聞いた。


「リネン」


「リネン… 弟…?」


 俺の世界にはいない、そう思い込んでいたがそうとは限らない。

 単にパークに来ていないだけだという可能性がある、なぜって彼は純度100%の人間なんだから。


「リネン?シキさんじゃなかったですか?」


 キョトンとしながら俺を見る妻は気になったのか思わず尋ねてきたようだ。


 話していなかったので当然だろう、シキだリネンだと名前が入り乱れている。


「彼の本名さ、シキというのはパークに来てから呼ばれ始めたんだよ、俺の“シロ”と同じ感じ」


「あ、なるほど…」


 因果なものだ。


 彼の場合遭難だが、こうして俺も同じようにパークに上陸して呼び名を与えられている。


 そして恋をした…。


 やっていることは俺とそう変わらない、パークにきて居場所を作り力を付けて恋をして、そして守る。


 俺の場合永住しているが、彼の場合はどうなんだろうか?今後の関係に関して俺が口出しすることではないが、あまり彼女を悲しませるんじゃないぞ?アイドルはどんなに辛いことがあってもファンの前では笑っていなくてはならないのだから。


 とそこで理解が追い付いていなさそうだった先生が答えた。


「ごめんなさい、誰から聞いたのかしら?私には弟はいないわね…」


「そうですか…」


 ということは、こっちで彼は完全なる赤の他人ということか?


「でも従兄弟がいるわ」


「従兄弟?」


 一度ミライさんから聞いたことがある、ナナさんだったか?先生は天涯孤独と思いきや、身内が完全に消えたわけではないと。


 しかし、この流れだと“従姉妹”ではなく“従兄弟”?


「ナナってパークで飼育員をやっていた子がいてね?その子は私の従姉妹に当たるんだけど、その子には血の繋がらない弟がいるのよ?私は会ったことないんだけど、事故か何かで孤児になっていたところを引き取ったんだったかしら?」


 まさか…?


「その彼の名前は?」


「確か、リネンだったはず」


「なるほど… そうなってるのか」


「今日のユウキくんは不思議なことを言うのね?」


 つまり彼はいるのか?いるけど、パークには来ない。

 普通に学校に行って普通に就職して普通に暮らしているんだ。


 違いが出る理由はパークの隔離閉鎖とか家庭環境の違いとか園長の生死だとか、それとももっと簡単で根本的なものなのか。


 とにかくいろいろ理由があってこうなっているんだろう。


 わかった、それじゃあそろそろ本題に入ろう、先生なら俺に起きた出来事を解明してくれるかも。


「それじゃあ先生聞いてください、実は俺は異世界に行ったことがあります」


「それこそ突拍子もないけど… なるほど、色々知ってる理由にはなるわね?」


「信じてくれるんですね?」


「疑う余地はないわ、Type2の件はそれくらいでないと知り得ないもの」


 そして俺は例の夢に関し、先生に話を聞いてもらった。


 ある日スザク様の元で瞑想をしていると妙な感覚を感じ一度目を開いた。


 目の前にはスザク様の代わりに見たことのないセルリアンがいて、俺は結構な数に囲まれながらもそいつらを必死に蹴散らしていた。


 その時現れた三人の戦士こそType2の使用者、三人は「シキ」「グレープ」「レイバル」と名乗り、それぞれに合ったType2を使用していた。


「一人は人間のシキ… いやリネンですね、彼が使っていたのが先生の言ってた試作品だと思います」


「もう二人はフレンズね?グレープにレイバルか… レイバルは昔ミライに付いていたサーバルちゃんのことね?」


「あのすいません、そのType2?ってフレンズは使えないはずじゃ?どうして残りの二人はフレンズなのに使えるんですか?」


 妻の疑問は最もだ、そもそも人間が戦う為の道具なのでフレンズに使わせるのはお門違いと言うものだろう、園長だってそういう理由で先生から取り上げて自分が戦ったんだ。


 なんでも当の本人達によると自ら志願して戦闘員として名乗り出たらしい「守れる力が欲しい」と懇願した結果、二人には丁度開発中だった改良型を使わせることになったとか。


「大きく違っているのはType2が当たり前に使われていることね」


「その3つしかないと言っていました、もしかすると公に使っていいものでもないのかもしれません、ただ例の異変は共通して起きているし戦うためには仕方なかったのかもしれません」


「フレンズでも使えるType2… あの時それがあれば…」


 やはり園長の事を悔やんでいるのか、先生にしては珍しくあからさまに後悔したような顔をしていた、だが何年も前である以上悔やんでも仕方がない。


 そんな事を言っては、そもそも例の異変を食い止めることができれば俺は海の向こうであんな目に遭うこともなく、パークで普通に妊娠した母から産まれ父と三人で幸せに暮らすことができたかもしれない、サーバルちゃんの息子サンを見てくれればわかるようにハーフでもパークで産まれ育てば例の体質にはならないだろう。


 その当時フレンズとヒトが協力してセルリアンを倒すなりしていれば… その為のType2だったはずだ。



 だから、たらればな話なんてしても仕方がないんだ。


 まぁ先生の気持ちもよくわかるが、それでもやはり仕方がないことだ。


「1ついいですか?カコさん?」


「どうしたの?」 


 妻にも思うところがあったのか、先生に何か聞きたいことがあるらしく控えめに尋ねていた、恐らく俺や先生が考えているような重たい話ではないだろう。


 彼女は尋ねた。


「カコさんは結局フレンズになったんですか?でもなんだか僕とも少し違う感じがしますし、かといってシロさんみたいに半分だけフレンズというわけでもありません、そもそも飲食にサンドスターを加えたからといってフレンズになれるものなんですか?」


 あまり気にしたことがなかったが… 確かに先生はどういう体になってしまったのだろう?クロの目によると外見は人間で体内にサンドスターがみなぎっているらしい、例えば他のフレンズはけものプラズムで肉体が構成されているために反転したクロの目にはそういう形の輝きが見える、俺は肉体に対し全身を薄く覆うような輝きと体内に核みたいなものが見えると言われたが先生は違う、外見は本当にただのヒトなのだ。


「そうね、厳密には私がフレンズになったわけではない… と言っておきましょうか?」


「どういうことですか?でもカコさんはサンドスターを失うと今の自分を保てないって… それはフレンズになったからというわけではないんですか?」


「なんて説明したらいいかしら… うん、見た方が早いわね」



 なに?見た方が早いだって…?何言ってるんですか先生!レディがそんな恥じらいもなく!落ち着いてください!


 俺の脳裏には一枚一枚服を脱いでいく先生というヤバそう(意味深)なイメージが過る… 待て、期待とかでなくてだな?


「よいしょ…っと」白衣バサァ


「え、え?先生?まさかマジなんですか?」


「マジ…って、えぇ?確かめるにはこれが一番手っ取り早いから」


「え、えー!?俺出ていったほうが!?」


 なんでそんなキョトン顔なの!?なんで恥じらいもなくそんなことできるの!?長い年月が先生から羞恥心を消し去ってしまったの!?ねぇかばんちゃんさん!あーたも何か言ってあげなさいよ!


「あ、お手伝いしますか?」


「ううん、大丈夫よ?すぐ済むから」


 何言ってるんですかかばんちゃんさん!まずいですよ!なんで今日はそういうの止めないの!?いいの!?え… いいの!?



 とあたふたして目を隠している俺。←指の間解放


「ユウキくんどうしたの?」


 とか言ってくるけどあなたがどうしたの?あれですか?ナリユキくんの息子に見られたってノーカンよってことですか?ユウキくんはそうは思いません、何か良くないと思うんです… 説明はつきません。


 と思っているとだ。


「ん… よしっと、それじゃあ二人とも?これを見てくれる?」


 えぇ…?何が起きたの?


 おもむろに腕を捲り注射器を刺すと血液を少量採取した先生、さっと消毒して止血をするとその血液を顕微鏡に掛けた。


 あ、あぁ… そういう。←把握


 残念がってない、納得してテンションが戻っただけだ。


「シロさん今エッチなこと考えてましたよね?そうでしょ?」


「なんのことかな?」


「とぼけてもわかるんですよ~?」ツネリ


「イダダダダダ!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」


 くそ!ちゃんと説明しない先生が悪いんだ!←逆恨み







「私がフレンズになったわけではない、でも私はサンドスターによって生かされているようなもの、現に心の病から立ち直る意外にもこの若く歳をとらない体… これはサンドスターが私の細胞1つ1つを活性化しているから起きる現象だと思ってる、そしてこうなったそもそもの原因は私が女王に色々なものを奪われた時が切っ掛けだと思ってるわ」


 先生の説明を聞きながら妻が先に顕微鏡を覗いている、なにやら驚いている様子…。


「サンドスターを牛乳と混ぜたりして飲んでいる時に何か不思議な感覚を感じたわ?それが体内でサンドスターを生成している感覚だと気付くのに時間はかからなかった… そして同時にこう感じたの、体内に無数の命を感じると…」


 目を丸くして俺を見る妻は「何も言わずに見てください」と顕微鏡から離れた、言われた通り覗いてみるとそこには驚愕の光景が広がっていた。


「なんだこれ…」


 ハッキリとはわからないが、なんかそう… 本来ヘモグロビンだとか血小板だとか?ああいうのってコロコロした形してるだろう?これはそうじゃない。


「サンドスターを体内に取り込むことで起きた私の体の異変の正体はそれよ?」


「あのえっと… なんですかこれ?」


「昔、サンドスターはどれだけ小さな命までフレンズ化させるのか?という研究テーマを掲げている研究者がいたわ?結果を出せずに退職したけど、その研究者は言っていた… “サンドスターを細かく加工する技術があれば魚や昆虫、さらには微生物だって、生き物ならばなんでもフレンズになる可能性は十分にある”と…」


 つまりそういうことである。


 なんと顕微鏡には確かにヒトのような形をした謎の生き物が写し出され、俺と妻の目にその姿をさらけ出している。


 つまり先生はこう言いたいのだ。


「“ミクロフレンズ”… と仮に彼は名付けていたわ?」


「つまり先生は…」

「フレンズになったのではなくて…」


「言うなればそうね?多くのフレンズと共生している… といったところかしら?」


「「…」」


 あんぐりと口を開きお互いの目を見た、この時俺は口に出さずとも妻と思考がリンクした気がした。


 OK!理解!その件に関して一言言わせてほしいんだ?いくよかばんちゃん?せーので言おうね?せーの!



「「おったまげぇーッ!?!?!?」」

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