楽園に猫一人⑦

「エンジン全開だぁーッ!」

「うみゃみゃみゃみゃー!」


「ふン、話にナラんな…」


 二人の攻撃は激しい炎に阻まれ届かない、先程からこれの繰り返しだった。


「「アーチャチャチャチャ~ウ!?」」


「オマエ、数十年前ワタシの邪魔をシタサーバルキャットだナ?最早けもハーモニーなどトイうツマラン茶番はワタシには通じン、何が来ヨウと焼キ払イ、新タに世界を再生スル」


 グレープとレイバルはまさに手も足も出ない状態、しかし諦めなかった… 通じないからなんだと言うのか、あんなものを野放しにするような二人ではない。


「みゃー!あの火をなんとかしないとどうにもならないよ!」


「何か、何か封じる方法があるはずなんだ!くそ!僕の鳥頭じゃわからん!シキ君はまだか!」


 打つ手なしの二人に女王はやれやれと呆れたような態度をとり、とうとう本格的な攻撃に移り始めた。


「いい加減ニしロ、オマエたちに用はナイ… まだ立チ向カウと言うノナラ我が炎の餌食にナルガいい」


 紅の体から渦を巻くように吹き出した炎は容赦なく二人に襲いかかろうとしていた。








『セット…』


 それだけ言い残すと沈黙するType2、うんともすんとも言わずシキとシロの二人もただそれを眺めるしかできなかった。


「あれ?おーい?どうしたType2?」


「失敗かな?足りなかったのか?それともそもそも四神は使えなかったとか?」


「そんな!?おいしっかりしろ!スザクの力が必要なんだ!パークの危機なんだよ!目ぇ覚ませこのポンコt…」

『sssssssssセットtttt スザ… スザスザスザスザク!スザクスザザザザザザザスザク!』


「「へぇあっ!?」」


 Type2の奇声に驚いた二人は思わず肩が跳ねた、こんなことは共に戦ってきたシキにも初めてのことだった。


「Type2!?どうした!?」


『Over Load! Over Load! Over Load! Over Load! Over Load! Over Load! Over Load!』


「なんかヤバそうな感じ…」


「大丈夫かおい!?聞こえるかType2!?ってうわわわなんだなんだ!?」


 既に装着されていたアーマーがガシャンガシャンガキガキガキ!と変形を始め真っ赤な色の装甲に、そして左右にはアフターバーナーのような物が、さらに右腕の甲からはブレード飛び出した。


 そしてやがてその左右についたアフターバーナーからは…。


 ブボォ!!!


「「わぁぁぁぁ!?!?!?」」


 高出力の炎が吹き出しまるで翼を形成しているような姿となった。


「なにこれー!?なにこれ助けてシロさぁん!?!?!?」


「落ち着け!落ち着け!よし一旦落ち着け!落ち着け落ち着け落ち着け!」


「アンタも落ち着け!?」


 テンパった二人、シキはこれまでにないタイプのやばみを感じその溢れ出る己の力にただ困惑していた、そしてシロはなんか自分の使ってた炎と違うとか思って判断力を欠いていた。


「Type2!一旦ストップ!炎を止めろ!」


『上空に高エネルギー反応を確認!排除を最優先します!近づくヤツァ焼き払ってやりますよ!フゥーーー↑↑↑!!!』


「何なんだよこいつ!?なんでこんなテンションぶち上がってんたよ!?」


 明らかに普段とテンションが違うType2に困惑した二人を他所に暴走は続けられる、やがて炎の翼は大きくなりシキの体は宙に浮き始めた。


『レッツらゴー!ゴー!何でも焼ける!フレ!フレ!わたしぃーぁ!!!』


「バカなに言ってんだこのポンコツ!?うわぁぁ!?飛んだぁー!?降ろせぇ!?」


「うわまずい!?シキ君!なんとかコントロールしろ!」


「そう言われましてもぉー!?」


 シキの足に掴まりシロも空へ、孟スピードで一気に飛び上がり瞬く間に山頂へ辿り着くことになった。


 そして奇しくもその暴走は…。


「まずい、あれをくらったらペンギンとサーバルキャットの丸焼き確定だ!」


「どうするの!?あんなに大きいの避けきれないよ!?」


 女王と戦う二人に迫る巨大な炎を。


「「イヤァァァァア!?!?!?」」


 バァァァァァァンッッッ!!!!!

  

 その炎の翼を使い相殺することに成功したのであった。


「シキ君!?それなに!?」


「なんで燃えてるの!?」


「話はあと!二人は下がって!」


 グレープとレイバルは察した、これは何か諸刃の剣のようなものを使っていると。


 しかし今は頼るしかない、女王に自分達の力が通じない今シキの力に頼りきるしかないのだ。


 二人は悔しさの溢れる表情をしつつもシキに願いを託し戦線を離脱した。









 シロさんが落ちた!?けど途中でグレープさんが掴まえてくれたみたいだ、一安心。


 しかしどうするか?


 シロさんは落ちる寸前言っていた、炎は心で制御する… そして敵意を向けたものだけを焼き払う。


「それほど大きな浄化の炎ならきっと君に答えてくれる!恐れるな!共に戦ってくれって素直に頼むんだ!」


 そう言っていた…。


「なンだオマエは?ナゼその炎を使エル?」


「お前を倒す為の奥の手だ!よし… 炎よ!俺に力を貸してくれ!ついでにType2は普通にしゃべらせてくれ!」


 そんな俺の心、言葉に反応するように炎は落ち着きを取り戻しType2も正気を取り戻していく、力を貸してくれたようだ。


『ハッ!?私は一体何を?』


「戻ったな?いいからアイツを倒すぞ!」


『釈然としませんが了解、ですが状態はoverload… 長くは維持できないと思われます、さっさとやりましょう』


「よし行くぞ!」


 右腕のブレードには炎を纏い敵にまっすぐ突っ込んでいく、これが只の炎でないのは見れば分かる、キラキラと光が見える。


「来ルがイイ、機械デ作った紛い物デ勝てルと思ウナ?」


「紛い物はどっちかな!」


 女王の出す炎をブレードで切り裂き活路を開く、すごいパワーだ… これが神の力?同じ浄化の炎でもこれなら太刀打ちできる!


「チッ… 小癪な!」


 接近戦に持ち込み一気に畳み掛ける、ヤツの出す触手もこのブレードの前では無意味。

 切り落とした箇所から浄化が進んでいるようだ、女王は焦っている。


「どうやら、浄化の力を使いこなせないみたいだな!それは当たり前だ!再現したところでお前はセルリアンなんだから!」


 斬ッ!


 腕を切り裂いてやったぞ!ざまぁみろ!そいつはシロさんの右腕の分だ!

 

「オマエの力も付け焼き刃に過ぎントいうコトを教えてやロウ」


 切った筈の腕から炎の竜?蛇?とにかくパックンフラワーみたいな触手を伸ばしてきた、だったらこっちも必殺技で相手をするまでだ!四神スザクと言えば…!


「負けるか!必殺!“古湖海原ココウナバラ浄炎斬ジョウエンザン”」


 そう、この技はまさに湖や海を割るかの如く… 浄化の業火を纏いし炎の大剣を相手にお見舞いするのだ!


『は?ダサ… ラヴァーンスラッシュ!finish!』


「はぁ!?なんだよ!せっかく考えたのにっ… さぁッ!!!」



 斬ッッッ!!!!!



 決まった!

 炎の剣は見事女王の体を炎ごと切り裂いた、傷口からサンドスターロウを出しながら落下していく、さぁ追い詰めたぞ!


「オノレぇぇぇエエエ!!!!!!」


「しぶといヤツだな!このままトドメだ!って… あれ?おいどうした?出力が!」


 アフターバーナーから吹き出していた炎の翼はまるで調子の悪い自動車のエンジンみたいにつんのめったみたいな吹き出し方をしている。


 プスン…!プスン…!プスン…


 やがて炎は消え、俺はまっ逆さまに地面に向かい落下し始めた。


「ヤバい!Type2!頼むからしっかりしろ!飛ぶぞ!」 

『Over Load! Over Load! Over Load! 』


 無茶したツケが回ったか!

 万事休す… シロさんの次は自分が落ちていくなんて!


「ヒトの子ヨ?どウヤらオマエも限界の様ダな?」


「くそ…!」


「ワタシは終ラナい!オマエの輝きヲ奪って更に強くナッテヤる!」


「何を!?ぐぁっ!?」


 女王の触手が俺の体に噛みついてくる、装甲が砕かれる!?スザクの装甲が!?


 ここまでか…!

 



 ズシャ!




 でもその時、女王の腹から腕が飛び出した、誰かが背中から女王に攻撃を加えたんだ。


 そしてそれは力強く、爪の鋭い左腕だった。


「なんダと!?ユウキ!こノ死に損ないメ!マダこのワタシに牙を剥クカ!」


「レンタル期間は終了だ、力を返してもらうぞ!ついでに延滞金も払え!」


 シロさん!

 

 サンドスターコントロールで一瞬だけ足場を作り空を跳んで来たようだ、器用な人だな本当に…。

 突き刺した腕が力を吸収していくのが分かる、見る見る女王は体の色を失い縮んでいく… これで作戦成功かな?


「おしっ!右腕の分も… しっかり取り返したぞ!」


 サンドスターが集まるとバンッ!と肩から先に失ったはずの右腕を出現させた、サンドスターコントロールって本当に便利だなって思った。


 そしてソラマメみたいな形の小さなセルリアンに戻った女王を足場にしてシロさんは俺を抱えて全身から炎を放った。


「しっかりしろ?トドメをさすぞ!」


「りょ、了解!起きろType2!根性見せるぞ!」

『まっ… たく!無茶させてくれますね!』


「こういうときはあれだろ?」

「決まってるでしょ!」


 そうこんなとき、トドメはやっぱりあれに決まってる。




「『「キックだぁぁぁ!!!!!」』」




 シロさんと俺の炎のブースト、そして落下の勢いで流れ星みたいになっていっきに女王を蹴り崩す。


「!!!!!!」


 最早喋る術を持たない女王に俺とシロさんのダブルキックが炸裂し、やがて地面へ。


 ズドォォンッ!!!!!

 

 土煙が上がりクレーターのような物ができた、そしてそこには女王の姿はない。


 弾け飛んだサンドスターだけがその場に飛び散っていた、即ち…。





 俺達は勝ったんだ。









「やったねシキ君?さっきのなに?」


「いや、色々あって… 二人とも怪我は?」


「ほんのちょっと火傷したけど、へーきへーき!これくらい舐めとけば治るよ!」


 戦いが終わり、俺達は山を降りることにした… しかし強敵だった、女王ってだけあってやはり伊達ではない。


 ここにいる女王にもちゃんと挨拶しておこう、騒がしたしセーバルさんにも謝っとかないと。


 ところで…。


「シロさんは?」


「野暮だなぁ」


「あの子のとこに決まってるじゃん?さっき火の玉みたいになって山から飛び降りてたよ?」


 え?炎その物にもなれるの?やっぱり白炎の獅子は各が違ったようだ。


 俺達も降りないと… でもサンドスターも空っぽでバグっちゃったType2じゃ装着は無理だ、修理が必要。


 ついでにジェーンさんにたっぷりと甘えたい、英気を養わなくては!


 帰りはグレープさんのバイクで送ってもらうことにした。










 山の麓では…。


 彼女が変わらず穏やかな顔で眠っていた、サンドスターも戻ったしこれで万事解決だ、彼女も直に目を覚ますだろう。


「んん… あれ?ここどこ?」


 と丁度良く眠り姫が目を覚ましたようだ。


「起きた?具合はどう?」


「シロさん… シロさんが助けてくれたんですか?」


「さぁ?なんのことやら…」


 さっきまでつい取り乱していたが、やはり必要以上の干渉はまずいだろう… 俺はいつまでここにいるんだ?予想ではそろそろ時間がくるはず。


 なんて思ってると、彼女は全部わかってたみたいに言った。


「やっぱり…」


「ん…?」


「やっぱり、本当は凄く優しい人だったんですね?」


 なんでそう思うの?って俺は聞いたんだ、そしたら彼女は「なんとなく」って答えた… 無意識で優しくしてしまったんだろうか?君は本当に鋭いね?どの世界でも君には勝てそうにない。


「それじゃあ、僕は嫌われていたわけではなかったんですね?」


「まぁ… ね?」


「どうしてあんな態度をとっていたんですか?僕は仲良くなりたかったのに…」


「えっと… “白い猫”って本読んだ?」


 聞くと頭に「?」を浮かべていた、なんでも存在は知っていたそうだ、多分ジェーンちゃん辺りに勧められていたんだろう。


「ごめんなさい… 小説って興味はあったんですけど、僕が読むのって辞書とか参考書とかそういうのばっかりで…」


「いやいいんだ、調べ出すととまらないんでしょ?知ってる… その小説にはつまらない男のつまらない人生が書いてあるだけ、無理に時間割いて読むことないよ?」


 彼女は何も知らない、俺が何者でどこから来たのか… 彼女とどういう関係なのか。


 知る必要は無い。


 彼女に俺は必要無いし、彼女は俺の妻ではないのだから。


「あの?今度はちゃんと料理のこと教えてくださいね?僕がんばりますから!」


 ある日言われたはずだ、元の世界に戻れた時… 多分お互いの記憶は無かったことになるって、忘れてしまうかも知れないって。


 証拠に俺はあの日のことを思い出せない、でも俺はその事をここに来てから朧気ながらに思い出している、つまり必ずしもそうでは無いということだ。


 もし彼女が俺のことを覚えたままだったら、忘れてもいつか思い出すとしたら?


 今後、何かしら彼女に影響を及ぼす可能性がある…。



 ならば、やらなきゃならないことがある。



「立てる?ちょっと、来て?」


「なんですか?… キャッ!?///」



 ギュウ… と俺はこの時ここに来て、初めて彼女をこの両腕でしっかりと抱きしめた


「な、なんですか?///」


「ゴメンね急に?ひとつ聞いてほしいんだ」


「は、はい…///」


 彼女を優しく抱きしめつつ、右手に炎を灯した俺は言った。


「ねぇ、“かばんちゃん?”」












「月が綺麗だって?」


「そうさ、妻には違いないがさすがにハッキリとは言いにくかったからそう伝えたんだ」


「なんで月?夕方だったんだろ?あれ?」


「…バカ、本を読め」


 酷く酔っていたためか、彼は誰にも話せなかったことをその時全てゲンキに話していた。


「それで嫁さんに罪悪感を?」


「いや、その後だ… 俺は浄化の炎で彼女の中の俺に関する記憶を焼き払ったんだ」


「そんなことまでできんのか…」


「後にも先にもそれっきりにしたいよ… だから仮にみんながその時のことを忘れて今の俺みたいに思い出すことがあっても、彼女だけは俺のことを思い出すことはない、それが一番だと思った… でも俺のしたことがどんな影響を彼女に及ぼすのか、そもそも人の記憶を都合良く改竄するなんて到底許されるようなことじゃない、こうして思い出してしまった今は妻を見るたびにその罪悪感に駆られるんだ」


 抱きしめたまま、炎を発動させた彼は彼女の中にある自分の記憶を危険視して… それだけを焼き尽くした。


 気を失った彼女をそこに寝かせると、彼もまた役目を終えたみたいに元の世界に帰ることができた、そして…。


「渇!」パンッ!


「痛っ…」


「心が乱れとるぞ!もっと集中せんか!ってなんじゃ!?何も泣くことないじゃろ!?」


「え…?」


 戻った時、スザクの元で瞑想をしているところだったそうだ… 夢でも見ていたのか?と彼はその涙を拭ったが、なぜかその心に残った喪失感ような物は消えていなかった。










「かばんさん!大丈夫ですか?目を覚ましたんですね?」


「あ、はい!おかげさまで!皆さんありがとうございます!」


「ん?君を助けたのはシロだよ?ここに来たんでしょ?話してないの?」


「シロ…?僕知らないです、どんなフレンズさんなんですか?」


 シキ達が山を降りてかばんの元に着いた時には彼はもういなかった、まるで夢でも見てたみたいにすっぱりと消えていたのだ。


 彼女の記憶と共に…。


「嘘?覚えてないの?数日図書館に住んでたでしょ?ほら、料理上手で白くって… 彼のことで私のとこに相談来たじゃん!」


「ん~… ちょっとわからないです、ごめんなさい」


 

 シロさん… 何したんだよ?


 そこには急いで書いたのか少し汚ない字で別れの言葉が綴られた手紙が一枚落ちていたそうだ、彼との数日間は戦いを繰り返すシキ達にとって本来の若者らしい自分を思い出す良い機会にもなったかもしれない。


 故に、やがて自分達も彼のことを忘れてしまうのだろうか?そんなことを思うとシキ達三人もどこか寂しい気持ちが心を過った。










「ん… ゴメン、寝てた…」


「大丈夫ですよ?随分飲んだんですね?具合はどうですか?」


 妻の膝枕で目を覚ました、そう確か俺はゲンキと飲んでたんだ、それで飲み過ぎて吐いて帰ってこうなったんだ…。


 彼女は妻だ、間違いなく俺の妻… あの時の彼女より大人びていて髪も長くってちゃんと俺のこと愛してくれる最高の奥さん。


「かばんちゃん…」


「どうしたんですか?涙なんか流して?」


「俺君に酷いことした…」


「何もされてませんよ?」


 いやしたんだ、厳密には君じゃないのかもしれないけどしたんだ… だから俺は大好きな君の顔を見てこんなにも胸が痛む。


「したよ、とても酷いこと…」


「そうだとしても… いいですよ?」


 そう言うと妻は俺の髪を撫でながら笑顔で俺を見下ろしながら言ったんだ


「きっとそれは僕の為にしてくれたことですよね?ちゃんとわかってるんですよ?シロさんがわざわざ僕の傷付くようなことするはずがないってことくらい?多分、傷付かないようにしてくれたんですよね?違いますか?」


 もう… もう二度と…。


 仮にそれが別の世界の妻ではないかばんちゃんだったとしてもだ。


 もう二度とあんなことは御免だと思った。





「ねぇかばんちゃん?」



「はい?」



「月が、綺麗だね?」



「ふふふ、そうですね?僕もそう思います」


 








クロスオーバー


猫シリーズ(気分屋)×獣人の楽園(タコ君)


コラボ先↓

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884938234

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