ナリユキの話

「ユウキ、元気か?」

「ママですよぉ~?」


「父さん!母さん!よく来たね?疲れたでしょ?座りなよ?」


 訪れたのはシロの両親、父ナリユキと母ユキである。


 父ナリユキは元々パークで研究員としてカコの下で働いていたそれなりに優秀な男、そんな彼も歳をとり本職は若い者に任せ今はのんびりと隠居生活を… しているわけではない、現在はミライの右腕としてパークの復興の為に重役らしいことをしている、ミライもナリユキも歳をとったからと言ってまだまだ現役バリバリに仕事は残っているのだ。


 その妻ユキはご存知ホワイトライオンのフレンズ、巡り巡って奇跡的に肉体を取り戻した彼女はその若々しい体で老体のナリユキを誘惑支えしながら仲良く余生を過ごしている。


 実に幸せな老後だろう。


 彼女は寂しがりなのでナリユキの仕事にもしょっちゅう着いていく… というのもシロが幼少期の時に起きた例の事件、彼を孤独へと追いやったあの悲劇を二度と繰り返さない為に極力この夫婦二人は離れないことにしているというのもある、もちろんミライの息のかかった優秀変わり者なガードマン達もいるが、ナリユキの留守中にまた何が起こるかわからない、ユキの単独行動中も同様に言える。


 あのような不幸はもう起こすわけにはいかない… が、尤もあの時ほど向こうもフレンズに対して殺伐とはしていない、これもミライ達が復興に力を入れ続けフレンズ達との架け橋になろうとした努力の賜物である。


 故にパークをでたシロの娘シラユキ、彼女もまた恋人とキャンパスライフを楽しめるくらいには平和な世界が広がっているのだ。


 そしてパーク内でちらほら既婚者がでるほどにはフレンズの存在も認められている。



 ヒトとフレンズは再び共存を始めたのだ。



 そんな中、二人が遥々パークに足を運んだのには理由がある。



曾孫ひまごができたって聞いてすっ飛んできたぞ」


「助手さんはどうですか?いいユウキ?あなた親としては先輩なんだからちゃんと二人をサポートしてあげるんですよ?」


「わかってるよ母さん、今二人を呼んでくるから楽にしてて?」


 そう、曾孫… つまりクロユキと助手の間に子供ができたのである。


 シロ… いやこの場合ユウキ、二人にとって一人息子の彼は息子夫婦クロユキと助手を呼ぶために一旦その場を後にした、その背中を見たとき両親である二人は思った。


 

 でかくなりやがって…。

 大きくなりましたね…。



 フッとナリユキが少し笑うと彼女も察したのかクスクスと小さく笑みを浮かべた、既に言わずともお互いの考えていることは伝わっているのだろう。


「ユウキ、あんなに立派になって…」


「やっぱり君に似てるからかな、アラフォーのくせにまったく歳を感じさせない」


「そうですか?私はナリユキさんに似てきたな~?と思います、まぁ… ナリユキさんほど背は高くないですけどね?」


「あぁこれだけは譲れんな、まぁだんだん腰も曲がって縮んでくかもわからんが」


 そう彼はもう若くない、やがて終焉が訪れるだろう。


 だから彼は歳を重ねる度思う、あと何年君といられるかな?と…。


「大きくても小さくてもいいんです、ナリユキさんは私のナリユキさんです」


 彼女も同時に思っている、最後まで隣に居させてくださいね?と…。


 二人は所謂熟年夫婦だが、まるで年若い恋人同士のようにキュっと手を握り互いの気持ちを通じ合わせた。


 シワの増えた彼の手でもいつまでも綺麗な彼女の手でも関係ない、二人は最後までこうして手を重ね合うと心に決めている。


「思い出しますね?」


「なにを?」


「初めて手を握った時のことです、あの時と何も変わりません… ナリユキさんはいつもこの大きな手で私の手を包んでくれます」


「よしてくれ昔話なんて?恥ずかしくなってくるだろう…」


 まさか70近くになってもこんな気持ちになるとは… と妻から若い頃と変わらぬ一途な愛情を改めて感じた。


 見た目が老いたところで彼女は変わらず彼を愛し、見た目など些細なことであると言うように手を握り返す。


 それが彼女が愛した最初で最後の男性であるナリユキに対する彼女の最大限の愛情表現、そして敬意。



 そして彼もそんな妻を見て思い出す。



 二人が初めて手を繋いだ日のことを。



 二人の関係がこうなるずっと前、まだ若かったあの頃を。








 オッス!オラナリユキ!パークで働くピチピチの若い研究員だぜ!よく覚えとけ!研究員だ!ところで今何してると思う?


「仮面フレェンズッ!参上ゥッ!」


 \キャー仮面フレンズガンバレー!/


「行くぞ怪人テツヤツヅキ!フレンズパァンッ(チ)!」


 なんでかわからんが数回目ですっかり慣れてしまったヒーローショーで仮面フレンズとかいうヒーローをやっている、もう一度言うが俺は“研究員”だ。


 なぜスーツアクターも無しに大して慣れてもいないアクションまで全て自分でこなしているのかって?決まってるだろ、ある日俺は女神ミライさんに言われたのさ。


『ナリユキくん!お願いがあるんです!』


『やぁミライさん、構わないよ?俺にできることならね?』キラッ☆


『ヒーローに… なってみませんか?』


 よくわかんねぇまま二つ返事でOKしてやったわ、なんなら思ったんだ… もしかして「私だけのヒーロー」的な?これ実質逆プロポーズじゃね?勝った!無惨にもフラれてたヤツらざまぁ!とか思ってた、だって上目遣いだったもん!我が世の春が来た!


 でも結果はご覧の通りでヒーローとは文字通りのヒーローだった… なぜ同じ部署で動きも良さそうな調査隊の人に頼まなかったのか、俺はもう正直これは逆プロポーズの可能性まだワンチャンあると思いますよ。←ないです


「うぉぉぉッ!トドメだ!ジャパリケインッ!」シャキィィン←剣のような物←効果 相手は死ぬ


\キャー仮面フレンズカッコイイ~!/\キャーナリユキサァーン!/


 心強い声援… しかしなぁそこの白いお嬢さん?毎回のことだが正体を明かすのはやめてくれないか?今の俺は仮面フレンズなんだよ?フレンズ達の夢を壊すんじゃない。


 説明しよう。←唐突


 研究員ナリユキとは研究員である!学生時代から身長が高いせいでバスケ部とかバレー部の勧誘を受けたりしてたが球技がからっきしだ!←185センチ

 まったく苦手とも言わないが特別体力がある訳でもないしよく運動する方でもない、でも近頃研究と称して外に出払っているのでそれなりに修羅場は潜ったつもりだ、みんなも野性動物には気を付けような?



 ま、俺ってばヒーロー物大好きだから?結局ぼやきながらも仮面フレンズ楽しんでんだよね… いつか子供ができたら言ってやるのさ?パパヒーローなんだぞ?ってな!



 ショーが終わり、元の白衣姿に戻り一息付いているときだ。


 バンッ!と楽屋のドアが勢いよく開いた。

 おや?どちらさm…。

「ナリユキさぁーん!お疲れ様でした!お昼ご飯食べましょう!」


 ですよねー?


「ユキ、楽しかったかい?君の声聞こえたよ、いつも応援ありがとう?でも正体ばらすのやめような?はいお弁当」


「わーい!今日はなんですかぁ~?」ワクワク


 こちらの白いお嬢さんこそホワイトライオンのフレンズさんだ、俺は本人の意向でユキと呼んでいる。

 

 ジャパリパークにはホワイトライオンなんて珍しい子もいるんだから一研究員としては興味深い、しかもフレンズみんな可愛いし無邪気だからストレス社会にまみれた大人には癒し効果抜群だ。


 そんな素敵な場所にあなたもどうですか?


 ようこそジャパリパークへ!



「はわわ~!?これはなんですか!?」


 とユキが持つフォークの先にあるものそれは赤い食べ物、まるで某軟体生物の形をしたそれの名をこう呼ぶ。


「タコさんウインナーだ」


「それはタコさんなんですか?ウインナーなんですか?」


「タコの形をしたウインナーだ」


「不思議ぃ~?どうしてタコさんになるんでしょう?」


 多分それは君にとって些細な問題で結局美味しければ何でもいいはずだと思うんだ。


「おいしー!」

 

 ほらね?


 なぜかこうしてユキの分のお弁当を作るのにも慣れてきてしまった、このまま料理スキルも上がり続けてだんだん研究員から離れていくことも心配だが、それ以上に食費のことのほうが心配だ…。

 女の子一人養えないような給料でもないがユキは元動物が大型猫科なだけによく食べる、フレンズに使ってるのだから経費で落ちないだろうか?落ちないだろうなぁ… なぁ頼むぜ所長さん?


 って別にユキと暮らそうとかそんな気はない、フレンズと人間だしな。

 でもなんで俺は一人のフレンズにこんなに肩入れしてるんだろうか?まさに成り行きってやつでここまでになったと言えばそうなんだが、彼女と初めて会った時におにぎりではなくジャパリ饅頭を渡していたらこうはいかなかったのかな?


 それはそれで楽なんだ、特に以前と同じで変わらない研究所の仕事が待っているだろう、でも…。


「ごちそうさまでした!」


「あぁ、満足できたかい?」


「はい!今日も美味しかったです!」


「ハハハそうか?作った甲斐があるよ?」


 こうしてユキの嬉しそうな顔を見て、つい頭ポンポンしちゃうイケない色男ナリユキくんもここにいるわけだ… だから。


「えへへ…///」 


 ってこんな笑顔を見ることも無かったと思うと、それはそれでなんか寂しいなとか思ってる自分もいることも否定しない。


 これも何かの縁、こうして「美味しい美味しい」と嬉しそうに食べてもらうとこちらもつい顔が綻んでしまう。


 彼女はよく笑う、俺が雑に作ったおにぎりでさえ感動するほど喜んでくれた。


 食い物にたかってるだけだと思ってやれやれと思ってたら今度は行く先々へ「私も行きます」って着いてくるようになって、そのうち名前を付けろと言ってきたんだ。


 雪みたいに真っ白だからユキ… って安直だがそんな名前も特別に感じてくれてるらしい、あの時もこんな風に嬉しそうにしてた。


 まぁその時のことはまた別の時間に話そうか。


「どうかしましたか?」


「え?いや…」


 笑顔に見とれてた… なんて言えるはずがない、彼女はフレンズだからあまり思わせ振りなことを言うのも良くない、いや俺は調子に乗って結構変なこと言っちゃうんだが。


 第一俺はミライさん一筋だし、ユキだってフレンズとして恋愛感情というものを理解できているのか不明だ。


 だからまぁ、飽くまでスタッフとフレンズ… この距離感が俺たちにとって丁度良い距離感だろう。







「今日はどちらまでいくんですか?」


 外に出るといつものようにユキが尋ねた、そうヒーローショーなんてやってるが俺には本業もある、今日も行かなくてはならない場所がある… と言いたいとこだが実は今日はオフなんだ、ミライさんに着いてこうかと思ったがなんだか彼女は忙しそうなので邪魔するのも悪い、故に予定はない。


「休みなんだ、だから今日はこれで終わり… 買い物でもして帰るさ?お弁当のおかずとかな?」


「あの、じゃあ…」


 こう言うのはわかってたことだ、だから俺は彼女の言葉を遮ってでもこう言う。


「私もい「一緒に来るかい?」


「え?」


「ユキも行こう?どーせ君のお弁当も作るんだし、せっかくだから君の食べたい物を作るよ、リクエストはあるかい?」


「はわわ~!?本当ですかぁ!?じゃあじゃあ私!あの唐揚げっていうのまた食べたいです!」


 びっくりして目を丸くしてたかと思えばまた花が咲いたみたいにパァっと笑顔に変わった… 青い瞳がキラキラして、白い頬っぺたがほんのり紅潮している。


 おっと… また見とれちまった、フレンズは美人が多くて参るねぇ~?


「OK!この肉食女子!オーダー承りました!そんじゃ鶏肉を買わないとなぁ…」 


 予め懐に忍ばせておいたチラシをチェック、鶏肉と… キャベツも欲しいな?あとは… おや?おやぁ?


「なにぃ!?鶏肉のタイムセール中だとぉ!?走るぞユキ!お肉は時に待ってくれないんだ!」


「え?え?わ、わかりました!ふぇぇ!?は、はわわ!?///」



 この時、思わずユキの手をグッと掴んで引っ張りながら走ったんだ。

 

 咄嗟なもんだからあとから思い出して「あちゃぁ~」って感じだった、フレンズと言えど女の子の手をあんな乱暴に引っ張るなんてジェントルマンナリユキの名に傷がつくぜ失態失態…。


 その後なんとか鶏肉を確保した後、帰りに並んで歩く俺にユキは言った。


「あの… ナリユキさん?」


「んー?」


「もう、急ぐところはないんですか?」


「…?」


 後は大して急ぐとこはない、やっぱりびっくりさせてたかとその時は反省したものだ。


 教訓!女の子の手は優しく触れて丁寧にエスコートしようぜ!









「…と思ってたんだが、もしかしてあの時また手を引いてほしかったのかい?」


「はい、ちょっぴり残念でしたよ?でも自分からなんてあの時はとてもできなくて…」


「まったく積極的なのか奥手なのかわからんな君は… でもほら?」


 シワシワになった俺の手はしっかりと、彼女の手の甲に重ねられている、そしてそのままその手を取り両手で包み込んだ。


「今ならちゃんと握ってやれる… 君が望むならいつまでだってこうしてやるさ?急いで向かうとこなんてない、ゆっくり歩いてたって同じようにな?」


 この命が続くまでは…。


「足りません、抱き締めてください」


「おいユキおまえなぁ?」


 真顔でなんちゅうこと言ってんだこの子はまったく、と手を握ったまま呆れつつ俺は彼女を見つめていた。


「ふふ…///」


 そしたらあの時と同じその照れ臭そうに笑う彼女に…。


 また見とれちまった。


 


 あれ?俺まだイケんじゃね?よし生涯現役じゃこら見とけよ嫁このエロくて若々しい体しやがって、じいさんなめんなよ?


「あー!あー!オホンオホンオホン!」


「あらユウキ?いたの?」


「どうしたユウキ風邪か?妊婦がいるのにマスクも無しに咳をするんじゃないまったく」

 

「父さん若いね」


「お前もな」


 いつから見てたんだこの子は、でもあれだぞ?散々お前父さんたちの前で嫁さんとイチャコラしてくれたよな?お前も複雑な気分を味わえ。


 

 やがてクロユキと助手が来た、まだお腹は大きくないようだが10ヶ月なんてこの歳になった俺にとっては音速だ、あっという間に曾孫の顔が見れそうだな。


 生まれる子供が男か… 女か… どちらにせよ可愛いことには違いない、どっちに似るかな?また双子かな?


 いやしかしなんにせよ、家族が増えるってのはいいことだな?


 よくやったなクロユキ?それからそんなクロユキをよく立派に育てたなユウキ?


 これなら安心して俺もいつでも逝ける。





 まぁ、美人の嫁さん置いてそう簡単に死ぬつもりはないがな?

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