楽園に猫一人③
「なるほどなぁ~?」
タイトルは“白い猫”。
ある日、訳ありのうら若き白髪の少年がパークに上陸する、そこで様々な経験を経て仲間や友人、家族を増やし大人になっていく。
自分の生まれや体質、過去のトラウマに悩まされながらも成長し恋をして幸せを掴むまでの人生譚とでも言えばいいのだろうか?
まるで自分のドキュメンタリーを見せられてるみたいだ。
物語は俺が廃人から復帰してまた幸せな人生を再スタートさせるとこまでで終わりか。
「本当に俺の話だ、しかもきっちり初体験のことまで書いてあるなんてとんだエロ小説だまったく、図書館揺れすぎ」←自虐
…
「あわわわわ… し、シキ君!本物!?本物なんですか!?」
「来るまでにいろいろ話したんですけど、なんか間違いなく本の中のシロさんみたい?なんか、なんて表現したらよいのやら…」
ジェンツーペンギンのジェーン、彼女は文字を習い覚えていく内に小説というものに没頭していったそうだ。
中でも恋愛物が好みらしく、そのジャンルは最早ガールズラブにまで幅を利かせている、とにかくキュンキュンくるものに目がないのだろう。
そして今、現実に小説の主人公として出てきた男シロが目の前で自分の部屋の本棚に陳列している本を読み漁っている。
何が起きてるのか?それはシロ本人はもちろんシキやジェーンも、探険隊の園長とカコ博士、そしてミライにもわからないことだった。
「なるほど、大体わかった… ここに来るまでに感じていたいくつかの疑問を纏めようか?」
パタンと本を閉じ丁寧に棚に戻すと、シロはシキを連れてジェーンの部屋を出た。
歩きながら話したことはシロが感じていた違和感や疑問、いくつか纏めたのでその事についてだった。
「まずシキ君、ここは時系列的に言うと俺から見て過去みたいなんだ」
「どういうことですか?」
そもそも大きな時間のズレがあるらしい。
シロがパークに来たのは閉鎖後およそ20年ほど経った時のことで、その間に現在のヒトのいないジャパリパークになっていき、やがてヒトのフレンズかばんが誕生した。
しかしシキのいるこのパークは閉鎖後数年単位でしか経っていない。
「証拠に、園長が健在で俺が知ってるよりずっと若いカコ先生とミライさんがいた… 俺の知ってる限り園長は既にいないし、現在の代表は初老のミライさんが勤めてるんだよ?そしてカコ先生は究極生命体だ」
「カコ姉さんが半フレンズ化のような状態なんでしたね?はえ~… そう考えればざっと15年以上違うってこと?」
「そう、なのにこの代のフレンズは俺の世界と同じなんだ」
なぜならば… とPPPを例に上げる。
時系列の上では過去になるシキの世界だが、シロの世界には同じPPPが存在しているのだ。
シキの恋人ジェーンは、シロの世界にいるのと同じ3代目PPP… その理由はロイヤルペンギンの存在が裏付けている。
「なるほど、プリンセスさんはこの代からPPPのメンバーに追加されたから?」
「そう、時間のズレはあるけど多分同じようにメンバーを集めて彼女がアイドルを復活させたんだ」
恐らくシロの世界にとってイレギュラーな、グレープやレイバルがいるのはその時間のズレのせいだろう。
そしてそれは…。
「俺の世界にシキ君がいないように」
「俺の世界にはシロさんがいないってことなんですね?」
「正解!」ビシッ
シキは、シロを見ていてずいぶん余裕があるんだな?と感じていた。
自分ならよくわからないけどこのよく似た世界に迷い混んだ時どうなるか?もしかしたらとち狂って自棄になっているかもしれない。
なのにこの人のこの余裕はどこからくるのだろうか?
「随分余裕だな?って顔をしているね?」
「あ、あぁいや… 自分だったらもっと取り乱してるなぁなんて、だってシロさんには家族もいるし、子供もまだ小さいんですよね?不安じゃないんですか?帰れるかもわからないこんな意味不明な状況で…」
至極真っ当な意見を述べたシキ、もちろん彼も不安なのだ… しかし確証めいた物が彼にはあった。
「不安さ、すぐにでも妻に会って抱き締めたいし、子供達も抱きあげてやりたい… でも昔俺が君くらいの頃にさ?似たようなことを体験した気がするんだ、モヤがかかったみたいに思い出せないけどここに来てからうっすらと何か感じてる、そして俺はその時帰る瞬間に言われたはずなんだよ?“役目を終えたから”だって」
「役目… ですか?」
「そう、だから原因はどうあれやることがあるんじゃないかって思ってさ?」
彼がこの獣人の楽園でやらなくてはならないこと、それがなんなのかは誰にもわからない… 彼がいた世界とよく似ているが大きく違うこの世界、待ち受けるものは敵か… あるいはもっと別のことなのか。
「ところで君のType2、フレンズの力を使えるんだってね?」
「あ、はい… シロさんにしてみれば複雑ですよね?フレンズの能力を人間が手にするんですから、ほら?例のあれがやろうとしたことと同じです」
「カインドマンのことか…」
思わず彼も無意識に声を低く唸るようにその名を口にした。
かつて、シロがもっとも怒りを爆発させ、罪をいくつも重ねる原因になった一人の人間がいた。
その男の目的は人類の進化と称して動物の力を人間に与え金儲けに使うことだった、地位や名声を手にし支配をする、そんな強欲な男だった。
やつにとって動物をヒト化させるサンドスターは人間にフレンズのような力を与えるヒントになっていた。
そして奇しくもType2はフレンズの力を人間に与える機能を持っている、やはりシロとしては詳細を聞いたとき顔をしかめるしかなかった。
「本にはそいつの名前はなかったです、“最低なヤツ”と表記されてました」
「そっか… まぁ、実際最低なヤツだったさ?でも今でも思うんだよ俺は、焼き殺す必要はあったのかな?皆殺しはやり過ぎたんじゃないか?って… 結局俺がやったことってアイツがやろうとしたことと根本は同じなんだよね、フレンズの力で暴力的に命を奪ったんだから」
彼はその罪を抱えて家族の為にも懸命に生きることを決めた、これから何回夜が明けて何回彼が善行を積もうと何人もの命を奪ったその罪が消えることはない、かといって連中のしたことも決して許せないので償おうとも思わない。
だから彼は抱えて生きるのだ、彼の護りたい者達の為に。
それを聞いたシキはうまい答えが返せずに黙り混んでしまった。
「まぁ俺のことなんていいんだ、ただ俺が言いたいのはそれを作ったのがカコ先生で、使用者がその弟であるシキ君… 君だったことについてさ?そりゃ時に戦うことも必要さ?何かを守りたいときには戦うしかないんだ、それに見てたら分かるよ?君なら正しく力を使ってくれるって」
「俺… ガキなんでまだよくわかんないこともあるんですけど… 姉さんの作ってくれたこのフレンズさん達の力は、フレンズさんのために使いたいです、使う以上は責任を持ってるつもりです!」
お互いに目を見てニッと笑顔を向けた。
その時だ。
『セルリアンの反応あり!男同士見つめ合ってる場合ですか!』
Type2が警告した、みずべちほーのライブ会場へ向かいセルリアンが3体。
「しっかしここはセルリアンがよく出るな?フィルター仕事してるのか?」
「ちょっと厄介なヤツがいて多分そいつの仕業なんですよ!シロさん?ここは任せてください!」
「心配ないとは思うけど、いいの?」
シキの細いその目には熱い闘志が、それは細くたってシロにはちゃんと見えていた。
「シロさんの怒りは消えないと思うけど!俺はせめて納得のいくような力の使い方します!だから見ててください!俺の!戦い!」
装着!
その掛け声と共に金属音をたてながら火花を散らしてラッキービーストが装甲に変わっていく。
一方シロは… 「あ!そのセリフなんか聞いたことある!」とか緊張感の無いことを考えていたが、その言葉を聞きシロも彼に力を託すことを決めた。
「五代くん、ならば獅子の力を与えよう?」
「え?獅子の力?(五代くんって誰よ?)」
そう言って爽やかスマイルでサムズアップしながら手を差し出すシロ、五代くんが気になって行動に移れないシキ、状況を察した
『なにやってるんですか?早くサンドスターのサンプルとるんですよ!』
「あ、あぁそっか!ちょっとくすぐったいですよ!」
『セット ホワイトライオン』
フレンズモードでホワイトライオンの力を付与した装甲に変形、Type2ホワイトライオンフォームでシキはセルリアンを迎え撃つ。
「いくぞ!切り裂け!」
…
にしてもあのType2とかいうやつ、便利だなぁ?いいなぁ~俺も変身したいなぁ?シキ君頭いいんでしょ?Type2versionホワイトRXつくってよ!
なんてのはさておきだ、俺のサンドスターサンプルを使いホワイトライオンのフォームになったシキ君はあっさりとセルリアンを全滅させたようだ。
俺ってハーフだし何度も体おかしくしてるからちゃんと使えるか心配だったけどよかった、カッコいいじゃんホワイトライオンフォーム!
彼だけではない、頼もしいヒーローがこのパークには三人もいるんだ、部外者の俺がこれ以上わざわざお節介焼く必要はないだろう。
だからここらで家に帰れたり~?なんて都合のいい展開はない、俺のやることは激励と力を与えることではないらしい。
数日世話になりそうだし、寝泊まりするとこを見付けないとな。
「え?ここで泊まったらどうです?空き部屋もあったはずですよ?」
「いや、図書館へ行くよ?若いカップルが二組もいるとこにいたらおじさん寂しくなっちゃうからね?それに図書館なら慣れてるし料理さえ作ればワガママフクロウも納得するだろうから」
そう言うのならと彼も俺を快くしんりんちほーへ送り出してくれた、まぁ隣だし?行き来も何回もしてるし?一人でも余裕っしょ?
と思っていたんだが、ここにはもう一人お節介焼きがいたようだ。
ブォン!ブォン!と音を挙げながらバイクが走ってくる… 紫の腕輪が特徴的な彼、フンボルトペンギンのグレープだ。
「送るよ!乗って?」
「これがあれでしょ?マシンダイバーでしょ?いいなぁ~!俺も変形するバイク乗りたいなぁ~!ロマンだなぁ~!」
「いいもんだよ?風になるのは?」キリッ
まぁ俺にはバギーがあるんだが、バイクとなるとまた勝手が変わってくるだろ?バイクはバイク!バギーはバギーだ!
お言葉に甘えて後ろに乗せてもらい風を感じることにした、グレープは華奢で中性的だがなぜかこんなにも背中が頼もしい、こりゃ~フルルじゃなくても惚れるぜ?しかしあのフルルに彼ぴっぴたぁねぇ?俺のとこのフルルは花より団子なのにね~?色気付きやがってまったく。
まぁ、聞いたところ彼も訳アリのようだが…。
そうこうしているともう見えてきた、しんりんちほーにはあっという間に着きそうだな。
…
「あれ?シロさん行っちゃったんですね?お話もう少し聞きたかったですけど残念です」
主に男心をくすぐる女の子の仕草とか?予定が狂いました、これで完璧!シキ君は私にくびったけ!作戦がパァですよまったく。
なんて下心満載だが可愛いことを企んでいたジェーン、シキは手を動かしながらジェーンに適当な相づちを打っていた… 現在また機械いじりの真っ最中である、まったく女心のわからないヤツめ。
「どこへ行ったんですか?」
「図書館ですよ、グレープさんがバイクを出してたからもうとっくに着いてるかなー?」
「え… 図書館!?」ガタッ
ジェーンは気付いてしまった、最高に複雑なエンカウントがその先に待ち受けていることに。
「シキ君… 図書館はまずいんじゃ?」
「ん~あのサンドスターコントロールって俺でもできないかなぁ?あれできたら便利だと思うんだけどなぁ…」ガチャガチャ
『出来るわけないでしょ、あなたただのヒトなんですから』
「ですよね~?」ガチャガチャ
「もう!シキ君!」
「うぇ!?ほいっす!」
話を聞かない彼に向かい合いバンッ!とテーブルに手を叩きつけ強めに名前を呼んだ彼女、さすがに耳を傾けて手に持つドライバーを静かにそこに置くとじっとその糸目で恋人ジェーンを見た。
「あ、や… なんかそんなに見つめられると私///」
「ご、ごめんなさいつい///」
「じ、じゃなくて!シロさんですよ!図書館に行ったって本当なんですか?」
その言葉にハッとすると彼はあっけらかんと答えてみせた。
「うん、住み慣れてるから~って… どうしたんですか慌てて?」
「どうしたって!?あそこには“かばんさん”がいるじゃないですか!」
「ん…?」
なんでダメなんですかね?
ぶっちゃけシキは超ニブいのでこの辺のことにはからっきしだった。
図書館はシロも住み慣れてる。
本の通りだ、間違いない、しかも長の料理番をしていた彼にとって長の舌を唸らせることなど造作もない、長は喜びシロも住めるってことで大変合理的で利にかなっていると言える。
しかし図書館にはかばんがいるのだ。
「もぉ~!わかんないんですか!?ここ読んでください!」
「えっと… 」
以下“白い猫”の一文より。
“ 一方彼の妻はゆったりとパーマのかかったような黒く長い髪を風に揺らす可愛らしい女性。
彼女には獸の耳や尻尾はない、フレンズ流に言って蛇の子のようなフードもなければ鳥の子のような羽も見当たらない… が、フレンズである、彼女はヒトのフレンズ。”
そう、ヒトのフレンズ。
「待って待って?え… シロさんの奥さんってまさか」
「かばんさんのことですよぉ!向こうに私達と同じPPPがいるようにかばんさんもいるってことですよ!」
「おったまげ!?」
ジェーンは言った。
最愛の人と同じ顔、同じ声、同じ名前、同じ仕草、そして同じ笑顔の人物が目の前に出現して「初めまして、あなたはなんのフレンズさんですか?」と他人行儀に言われたらどんな気持ちになってしまうか。
「私がもしシキ君にそんなことを言われたら… わかっていてもショックです、それにそのシキ君が私のシキ君でなくても同じようにトキメクと思います!だって同じシキ君にはちがいないから…」
この時シキはやっと気付いた。
もしも俺がシロさんの立場になったとして、そこにも当然ジェーンさんがいる。
でもそのジェーンさんは俺のことを知らない… 昨日まで抱き合ってキスとかしてたはずのあなたの口から言われるんだ「初めまして」と。
加えてもし俺とシロさんみたいな感じで知らない男がそこにいたら?その男がジェーンさんとよろしくやっていたら?
そのジェーンさんは俺と愛し合うジェーンさんではない、決してそうでないのだけど。
そんなものを目の当たりにしたら… 俺は…。
やだ死ねる。
そう、事はただ彼等が出会うというそれだけではないということだと、彼はやっと理解した。
…
参ったな、そう来たか…。
「シロ?どうしたのペンギンが蒸し機に入れられたような顔して?」
「グレープ… やっぱり帰ろうかな?いや、最悪野宿でも」
「へぇあ!?ここまできて!?なんで!?」
そうだ、いてもおかしくないよな?だって時間にズレがあるだけでここは俺が住んでいるジャパリパークキョウシュウエリアなんだ、PPPもいれば長もいる。
だから当たり前に…。
「初めまして、“かばん”です… あの?あなたはなんのフレンズさんですか?」
「お友達になろーよ!」
妻とその相棒がいて然りなわけだ。
くそ、可愛いな… 初めて会ったときと同じだ、髪はショートでやや中性的だが紛れもない女の子。
純粋無垢なその瞳、大きなかばんに羽飾りの付いたガイドの帽子、赤いシャツ。
俺がいつも一番に会いたい女性だ。
でも…。
君には会いたくなかった…。
どんな顔して話せばいいんだ。
かばんちゃん…。
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