姫猫と謎のフレンズ②

 ちびレオはその姿に思わず不安が過った、さっきとあまりにも雰囲気が違う、そもそもシラユキには猫耳も尻尾も無かったはず、なのにある… そしてその鋭い目付きは敵を倒す時のライオンの眼差し。


 ライオンを母に持つちびレオにはすぐにわかった。


「ユキじゃないの?あなたは誰?」


「私はこの子のおばあちゃん… あなたはもしかしてヒマワリちゃんから姿を奪ったの?それはなかなかに達が悪いですね、この子をどこに連れていくつもりだったの?そのままシラユキちゃんも食べてしまおうと言うならこの私が相手になります!この子は私が守る!指一本触れさせない!」


 その目に光を灯しグッと爪を構える小さなホワイトライオンの姿に、ちびレオは怯えながらも考えた。



 おばあちゃん?



 恐怖と疑問が入り交じり、小さな女の子の脳内が意☆味☆不☆明☆になっているのだ。


 さっきはシラユキという女の子だった、仲良くお話をしてお友達になったのだ。


 なのに今はどうだ?髪はちびレオ同様にふんわりとしたボリュームが出てその頭には自分と同じように耳がある、尻尾だってある。


 しかし… 同時にその手には鋭い爪、口からチラリと見える牙。


 

 このユキのおばあちゃんという変な人は、わたしをやっつけようとしてる、どうして?せっかく会えたユキと仲良くしたいだけなのに…。



 ちびレオは臨戦態勢のホワイトライオンユキを前に、それまで困り顔だったものを悲しみに変えて目には涙を浮かべ始めた。


「ごめんなさぁい、ふぇぇ… 仲良くしたいだけなのぉ… 食べたりしないよぉ… うぇグスン ママぁ、怖いよぉ…」


「はわわ!?」


 そう、ちびレオは基礎になった体がセルリアンというだけである。


 実質的に今の彼女はセルリアンとはまた別の存在、そしてそれとよく似た人物をこのホワイトライオン、ユキは知っている。


 それは忘れもしないあの子、セルリアンからフレンズ化した類い希な存在、“セーバル”という女の子のことを彼女は知っている。


 恐怖のあまり泣き出してしまった小さな小さなちびレオを見て、子を持つ親としてユキもすぐに感じ取った。


 

 はわわ~!?なんてことですか!?こんな小さな女の子に敵意を向けて泣かせてしまいました!?どどどどうしよう!?


「あ… あの!ごめんなさい?おばあちゃんちょっと熱くなってしまいました、あなたはあれですね?セーバルちゃんと同じ系のやつなんですね?はわわ… そうとは知らずにの本当にごめんなさい、よしよし?怖かったね?もう大きい声出さないからね?」


 彼女の頭を撫でると、緑色だが確かにフワリとした髪や猫耳(のようなもの)… それになんだかいい匂いがする、そうこれはお日様の香りとでも言うべきだろうか?

 ユキは彼女を慰める延長でまだ自分の体が大きくてグラマラスだったころのこと、小さかった息子ユウキをあやしている時の親心を思い出し、秘めたる母性を丸出しにしてちびレオを抱き締めた。


「よしよし、ごめんね?もう怖い顔しないからね?安心してください?」ムギュウ~


「ほんと?」


「えぇ本当です、疑ってごめんなさい… シラユキちゃんのお友達になってくれたのね?どうもありがとう、おばあちゃんとしてお礼を言わせてください?」


 さっきまでライオンが狩りに入るときのテンションを見せていたユキだったが、その圧倒的ママ力でちびレオを瞬く間に安心へ導いていった。


 落ち着いたちびレオも、このおばあちゃんとか名乗る訳のわからんシラユキの中にいる変な人は、シラユキを守るために牙を剥いただけであり、それはこの人がとても優しいからそういう態度に出ていただけだ… とそんな本質的優しさに気付くと、改めてユキに笑顔を向けその包容力に甘えた。


「落ち着きましたね?」


「うん!あったか~い… ママみたい!」


「あらまぁ?ウフフ… でもあなたはなんなのでしょう?どこからきたの?」


 特に難しいことを考えないシラユキの代わりに、ユキはちびレオから気になるであろういくつかのことを尋ねていった。









「え!?ヒマワリちゃんとヘラジカちゃんの娘ってことですか!?」百合ぃ!


「ヒマワリちゃん?違うよママはライオン、ヒマワリはお花でしょ?」


「や、えーとそうですね… そう、その通りですね…」



 これはなにか妙な気がしますね?まさかヒマワリちゃんにこんな大きな娘さんがいるとは!しかもヘラジカさんとの間に!どうやってつくったの!?攻めと受けは!?



 ユキは、シラユキの中から彼女の目に映る光景を見ることができる。


 シラユキが起きた時点ではまだ彼女も気持ちよく爆睡していたが、シラユキがクマちゃんを抱いてゴロゴロ転がったりちびレオと唐突な隠れんぼ大会を繰り広げていたときにはさすがに騒がしいなと目を覚ましていた。


 起きたとき見た光景、それを見ると彼女もシラユキ同様に感じたのだ。



 平原がおかしい、なにやら見たことの無い物がチラホラ…。



 現状を把握できない今、ユキはしばらく様子を見ることにした。

 するとすぐにちびレオとシラユキのエンカウントがあり、やがて二人は仲良くおしゃべりなど始める。


 この時点ではユキもまだ「子供同士で可愛い///」とか思ってニコやかにその場を見守っていたのだが、ちびレオがセルリアンだと気付くや否やその顔にも焦りの色が見え始める。←私体無いんですけどね?はわわ…


 見た感じ純粋な子だ。


 しかしそのライオンに酷似した容姿や、セルリアンでありながら意志疎通ができるという事実、もしかしたらシラユキがたまたま外に出たその時に城に忍び込んだセルリアンが部屋で眠るライオンとクロユキの輝きを奪いあのような姿になったのでは?とそんな憶測が頭に過るとユキは爆睡していた自分に嫌気が差し、悔しさから下唇を噛んだ。←まぁ私体無ryハワワ…


 そしてその時!


 「遊ぼう!おいで!」と手を引かれたシラユキを見て「まずい!」と感じた彼女は、瞬時にシラユキの体をうb…借りてその手を振り払ったのであった。


 だが実際はどうか?


「ママもパパも優しくってわたし幸せなのー!でもユキはいいな~!おばあちゃんもいるんなんていいな~!」



 ちびレオちゃん可愛い///

 


 ユキは、息子を置いてこのような状態になった反動のためか、小さな子供に大変弱かったのだ。


 だがしかしだ、それではいかんとキリッと気を取り直し本当に彼女が脅威ではないのか確かめなくてはならない。



 疑うわけではないのだけど平原もなにやらおかしな雰囲気だし、これは確かめなければなりませんね?


「ちびレオちゃん?お母さんを見てみたいの、ダメですか?」


「え?いいけど… ママ寝てるから起こしちゃダメだよ?」


「ええもちろんです、さぁ行きましょう?」









 城に入るとわずかに寝息のようなものが聞こえる、恐らく部下の三人だろう… つまりこれはここがちゃんとライオンの城であることを意味してると言っていい。


「しー… だよ?」


「はい…」


 ライオンの部屋の前まで来ると襖をそっと開けて中を覗きこむ二人、そこには…。




「スー… スー… ムニャムニャ…」




 ライオンが気持ち良さそうに寝息を立てている、見た感じ輝きを奪われたとかそういう風には見えない。



 ふむ、間違いなくヒマワリちゃんですね?そして無事のようです、つまりちびレオちゃんはやっぱり無罪の無害、少しでも疑った自分に晩御飯抜きを申し付けたいくらいです… が!



「ママはね?眠るのが大好きなんだよ?だから眠ったらなかなか起きないし朝も弱いんだよ?可愛いでしょ?」小声


「えぇとても、私もお昼寝好きですし… ところでここに男の子がいたはずです、真っ黒い髪でお耳と尻尾はありません」


「え?ん~ん、知らないよ?わたしママと寝てたけどそんな子知らない」


「そんなはずは…」


 ユキが優しく話を突き詰めると、ちびレオはそもそもなぜこんな時間に起きているのかという話になった。


 しかしそれは彼女の話によると、外から楽しそうな声が聞こえて目を覚ましてしまい気になって見にきたとのことだった。


 それからシラユキを見付けたちびレオは知らない子がクマちゃんと戯れてるのを発見して… こう、友達になりたいけどなかなか話しかけれないみたいな感じの状態になり入り口から彼女を傍観していた、そこをシラユキに見付かったのである。


 

 はわわ… おわかりいただけたでしょうか?なんとちびレオちゃんもシラユキちゃんも同じ部屋で寝ていたと言うのです。



 意☆味☆不☆明☆


 フレンズとして長い彼女だがさすがに意味がわからなかった、こんなとき愛しのナリユキがいれば華麗に答えを出してくれるのにとモヤモヤしたものだ。



 お願いナリユキさん… 今だけ私を名探偵にして?←すまん無理だユキ



「難しいことはわかりませんが… どうやら私とシラユキちゃんは変なところに来てしまったのかもしれません」


「変なところ?」


「そうです、シラユキちゃんにはクロユキちゃんという双子の兄がいますが、その子はここにはいない… 代わりにヒマワリちゃんの子供であるちびレオちゃんがここにいます、つまりあなたとシラユキちゃんは不思議なことに従姉妹いとこというのになるんですね、何を言ってるかわからないと思いますが、おばあちゃんにもわからないの…」


「イトコ?」


 “従姉妹”あるいは“従兄弟”とも書く。


 父か母、そのどちらかの兄弟姉妹の元にいる子供のことを指す。

 細かいことをいえば再従兄弟はとこだのなんだのとあるのだが、切りが無いのでそれは自分で調べてくれ。


 つまり、シラユキの父親とちびレオの母親が姉弟でありその繋がりで言えば自分達は皆家族だと言うことを、ユキはちびレオに簡単に伝えた。


「わたしにそんなにたくさんの家族がいるの?すごい!」


「そういうことです!それにしても、クロユキちゃんはどこにいってしまったの?あら?はわわ…」


 その時、ユキは全身から力の抜ける感覚を感じた、時間が来てしまったのだ。


「どうしたの?大丈夫おばあちゃん?」


「どうやら時間のようです、シラユキちゃんに体を返します… 大丈夫です、いいですか?二人とも仲良くするんですよ?」


 まさか謎も解けぬまま終わってしまうとは!と悔しい思いをしたユキだったが、無理に外に出ているとこのままではシラユキもパッタリ倒れてしまう、意識を保つためユキは自ら肉体を孫娘に返した。







「あれ…?ここどこ?」


 パチリと目を開くと城の中だ、それはそれは驚くことだろう。

 

「ユキ?」


「ねぇちびレオ?どうしてユキ達お城の中にいるの?」


 ちびレオにもよくわからないことであろうこの状態、はてさてなんて答えたものか?と彼女自身混乱したものだ。



 あれ?もしかしてユキはおばあちゃんのことを知らないの?



 ちびレオは不思議に感じながらもとりあえずこう答えた。


「ママを見にきたの、でも真夜中だからぐっすり寝てるみたい」


「あ、そうなんだ?じゃあ静かにしないとね!ってあれ?あれっておばちゃん?ちびレオのママはライオンおばちゃんなの?」


「あ、そうなの!ユキとわたしはね?イトコ?っていうんだって!」


「イトコ~?えー!?それってお友達じゃないってこと~!?」


 お友達… シラユキから当たり前のようにでたそんな言葉にちびレオは胸が熱くなった。


 これはシラユキとクロユキにも同様に言えることだが、パークには彼女達意外に子供がいない。

 それは孤独とまでは言わないが、三人にとって少し寂しさを感じさせるものである。


 故に、シラユキの友達としてちびレオがいてくれたことを眠ってしまったユキも喜んでいたし、ちびレオも“友達”と言われるたびになんたかくすぐったい気持ちになっていた。


 だから、彼女はシラユキにこう伝えた。


「えーっとね?イトコっていうのはつまり家族なんだよ!でもきょーだいとかパパママとは違うから、お友達でもあるの!家族でお友達なの!きっとそういう素敵なことなんだと思う!」


「そーなのー!?家族だし友達でもあるなんてすっごーい!さいきょーだね!」


 少しテンションの上がった二人は、眠るライオンへの配慮を忘れて少し騒ぎだしてしまった。

 そしてそれを思い出すとお互いハッと顔を見合わせて。


「「しー…」」


 と人差し指を口の前に持ってきた。




 そして会話はこそこそと続けられた。


「ねぇ?そういえば、ユキはお兄ちゃんがいるの?」


「うん、クロユキって言うの!みんなはクロって… あれれ?いないみたい」 


「じゃあ、そのクロも起きて遊んでるってことなのかな?」


「あ、きっとそうだよ!クロは頭がいいからってユキのことすぐからかってくるの!きっと今も隠れてイタズラしようとしてるんだよ!ねぇちびレオ?一緒にクロを探して?ギャフンと言わせてやりたいの!」


 事態はユキの思っていた疑問からは大きく逸れ始め、クロユキこそが諸悪の根元なのだというシラユキの暴論的答えにスーパーヒーロー着地を決めた。


 そしてそんなシラユキの言葉にちびレオは。


「たのしそー!やるやる!」


 とても協力的だった。


「よーっし二人なら負けるもんか!勝つぞー!」

「おー!」


「…んームニャムニャ」


「「!?」」


 ついつい騒いでしまった姫二人は特に悪いことをしてるってそういうわけでもないのだけど、ゴロンと寝返りをうつライオンを見てピクッと肩を震わせた。


 そしてまた「しー…」とやったのちコソコソと城の外に出て、いるはずもないクロユキ探索に入った。


 そう、クロユキはそこにはいない…。


 城や平原どころか“この”ジャパリパークには存在すらしていない。


 お気付きもなにも始めから隠してなどいないが、それこそがユキやシラユキの感じていた違和感。


 なぜなら、ここはシラユキ達にとって異世界なのだから。



 あるいはクロユキならこの事実に周囲の情報を集め気付いたのかもしれない。


 しかし能天気なシラユキと時間制限付きのユキではその事実に気付くことはできないのであった。

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