姫猫と謎のフレンズ

「ただいま~!」


 元気良く帰りを伝えた女性、その雪の様に白く美しい髪と海の様に青い瞳は彼女の父親、シロ譲りである。


 もっとも彼女が本当に似ているのは彼の母親の方、ホワイトライオンのフレンズの方なのかもしれないが…。


 そんな彼女のことを両親はこう呼んだ。


「おかえり、ユキ」

「おかえりなさいユキ、疲れてない?」


「パパ!ママ!元気そうでよかった!」


 彼女はシラユキ、シロとかばんの娘でありクロユキの双子の妹である。


 現在二人は二十歳、結婚して落ち着いた(と思う)クロユキに対してシラユキはパークを出て現在は大学生になり、歳並みにキャンパスライフを謳歌している。


「ユキ、父さん達はどうしてる?病気とかしてないかな?」


「なんでもないよ?おじいちゃんは歳にしては元気ってよく言われてるし!この前はおばあちゃんのせいで腰を痛めたって言ってたけど、あんまり怒ってなかったから仲がいいってことなんだねきっと!」



 そうなのか… マジか父さん、俺も負けてられないなぁ。←圧勝



 つまり、3世帯に渡りこの家族は夫婦仲が良好なのだ。


 とても良いことだが、シロは娘がそんなことシレッと言えるようになってしまったことになにやら時の流れをひしひしと感じていた。


 聞くに、彼女の恋人であるアサヒとも順調らしい。


 だがそれは当然のことでもある。


 勢いでパークを出て彼の元に押し掛け女子高生となったシラユキ、祖父祖母の元でお世話になっているとはいえすべてを1から始めなくてはならない彼女にはアサヒだけが頼りであり支えである。


 彼女との再会が思った以上に早かったことに驚いたアサヒ、いざ再会してみると迷惑でなかったかと不安になるシラユキ。


 学校生活はいろいろあったが、現在はこうして順風満帆な関係を築いている。


 両親達からしてみれば二人の結婚は目前だろう。







「ユキ!帰ってたの?ひゅー!色気付いてきたね?さすが恋する乙女!」


「ただいまクロ、助手とはどう?」←スルー


「聞きたい?えーっとね‥」


 要約するととても良好らしい、長くなりそうなのでシラユキは自分から聞いておいてその話題をぶった切った。


 そうしてお互い昔を懐かしみながら談笑などしていた時だ、クロユキはハッと思い出した様に彼女に尋ねた。


「そうだ、ユキってさ?小さい頃変なこと起きなかった?」


「なにそれ‥ 例えば?」


「ほら、夢の中で誰かに会ったとか知らないところで目が覚めて気付いたら戻ってたとか?タイムスリップしてたとかさ?」


 なんだその突飛もない話は‥ とシラユキは少しキョトンとしながら兄であるクロユキを眺めていた。



 そんなことあったかなぁ?タイムスリップ?知らないとこで知らない人?ファンタジーやメルヘンじゃあないんですからそんな都市伝説みたいな話…。


 あ、ちょっと待って?



 クロユキの言葉から記憶を辿っていった時、彼女の頭の中に何かぼんやりと一人の小さな女の子と遊んだ記憶が浮かんできた。


「ある… 不思議なことあったよ!」


「え!?あんの!?」


「自分で聞いたのに何驚いてんの~?えっと確かあれはねぇ…」







 二人が、もっと小さな頃だった。

 

「「パパ!ママ!いってきまーす!」」


「いってらっしゃい、おばちゃん達をあまり困らせるんじゃないぞ?」


「困ったら近くのラッキーさんに話しかけて?フレンズさんがいたら挨拶するんだよ?それからセルリアンがいたら無理に戦わないこと!」


「「はーい!」」


 クロユキの時同様にそれは7才の時だ、二人もだいぶ自立心が鍛えられてきたようだとシロ達は話し合い、子供達の叔母に当たるライオンの元に二人だけで遊びに行かせることにした。


 いつかお使いをした時と同様に森を抜けへいげんちほーにでる、そしてまっすぐにライオンの城を目指し一晩お泊まりをしてからまた帰る… とそんなプランである。


「「着いたー!」」


「やぁお嬢に若、待ってたよ?」

「よく来たっすね!おじょー!若!」


「二人共ぉー!?大丈夫かぁー!?痛いとこないかぁ!?」


 無事あっさりと、それはもう何の問題もなく城に着いた二人。

 すでにそこでソワソワ到着を待っていたライオンのフレンズことヒマワリに抱き抱えられてその場をゴロゴロと転がっていた。


 両親不在のお泊まり会。

  

 それは二人が5才のころ例の件でゴコクに避難して以来のことだった。


 しかし二人はライオン達のおかげか寂しがることもなくその日を楽しく過ごした、面倒見の良いツキノワグマやアラビアオリックス、そして力自慢で派手な遊びに付き合ってくれるオーロックス。


 ライオンの他その三名にたくさん遊んでもらうと、夕食が済んだころ二人はグッスリと眠りに着いた。










 その晚、すっかり夜も更けた頃だ。


 何か感じた様にムクリと起き上がったのはシラユキだった。


「綺麗なお月様…」


 なんて寝惚け眼で空を見てそれとなく外へ足を運んだ時だ、彼女は何か言い知れぬ違和感を感じ取った。


「あれ?」


 外ってこんなんだっけ?



 そこは間違いなくライオンの城だが、なにやら見慣れない風景?形?とにかく自分の知っているそことは違う感じがしたのだ。


「なんか、散らかってる?」 


 ざっくばらんと平原には物体が設置されている、台だとかテーブルだとかなにやら布を被せられたりしている。


 あんなもの昼間にはあっただろうか?いや無い、シラユキはそれが気になりそれらに近寄ってみた。




 ヒラリ… と布をめくってみると。


「変なの、ガラクタばっかり、なにに使うのかなー?」


 使い道不明な物、例えばそれはよくわからない置物であったり、もしくは見たこともない形の道具であったり何かの部品のような物であったり様々だ。


 他にも色々あったので調べてみたが、ただ単にテーブルが2つ3つ並んでいたりだとかやはりシラユキには理解不能の景色が広がるばかり。


 だが、別の布をめくって見たときだ。


「あ!」


 彼女が手に取ったのはぬいぐるみ、大きなクマのぬいぐるみだ。


 なにクマかは不明だがとにかくクマだ、テディベアタイプとでも言っておこう。


「かわいいー!」


 ムギューと満面の笑みでそれを抱き締める7才のシラユキ、実に絵になることだろう、ただし無許可での撮影はご遠慮願います、おっかない父親が目を光らせてる可能性がありますので。


「わーい!」ゴロゴロ


 眠気も忘れ、平原でクマをぎゅ~と抱きしめ転がるシラユキ。


 昼間は無かった変な物達の出現に不思議だなぁと始めは不気味がったものの、クマパワーはそんな恐怖を意図も簡単に打ち砕き彼女を笑顔に変えていた。


 活発でお転婆の彼女だが女の子らしい面もしっかり持っているのだ。


 そのうちシラユキはそこがなんなのか、なぜガラクタがあるのか、そんなことはどうでも良くなっていった、楽観的なのである。



 だがその時、城の門の辺りだ…。


「ん…?」


 スッと隠れる何かが目に入った、暗いが確かに見えた小さな影。


 

 クロ?おばちゃん?



 恐らく自分がいないことで城の誰かが気になって外に出てきたんだ… とシラユキはその程度にしか考えていなかった。


 なぜなら、シラユキにとってへいげんちほーとは…。


 叔母、ライオンの城がありそこには楽しいお姉さん達がいる。

 父親の師匠、ヘラジカのアジトが反対側にありそこにも沢山の楽しいお姉さんがいる。


 双方とても強く頼もしいので、セルリアンの恐怖に怯えることはない。


 また別の方向には牧場がありたわわな牛のお姉さんがユサユサと出迎えてくれる、シロはそれを見てかばんに睨まれる。


 シラユキにとってへいげんちほーとは安全圏、気兼ねなく遊べるだだっ広い庭。


 故に、先ほど見えた謎の影に彼女が恐怖心を覚えることはない。

 なのでこんな夜にも関わらず彼女は好奇心を胸いっぱいにその影の後を追うことにした。


 そこには寂しいとか、怖いとか、不安とかそういうものはない。

 ここは彼女の遊び場、城に戻れば双子の兄と叔母とその部下のお姉さん達がいる。


 一人ではない。


 だから怖いだなんて少しも思わなかった。


「だぁれ?待ってよ!」


 シラユキは持っていたクマちゃんを放り投げ、そこに向かい走る。



 やがて影の見えたところまで着いたが、そこには誰もいない。



 気のせいだったのだろうか?と考え直してはみたが絶対にそんなことはない、シラユキは確実に見た、何者かがそこにいるのをしっかりとその目に焼き付けていた。


「おかしーなー?どこに行ったんだろう… あ!もしかして!」


 その時あることが思い浮かんだのか、彼女はどんどんムクレッ面になり辺りをキョロキョロと見回し始めた。


「クロー!いるんでしょー!またユキのことからかって!怒るよ!」


 恐らく兄がまた自分を茶化してビックリするところを見て笑ってるんだ… とシラユキ考えていた。


 それもそのはず、クロユキはそうしてすぐにシラユキをからかう。


 シラユキとしてはバカにされたようで癪に障るというものだが、彼女とていいようにされて負けてしまうわけではない。


 クロユキは頭のいい子だが、シラユキには行動力がある。


 キャハハ…。


 今度は門の外、確かに声がした。


「あ!まーてー!」


 力強く飛び出し走り出すがやはり既ににそこには誰もいない、恐らくどこかに隠れているのだろう。


「どこ~?ん~こんなときは確か…」


 シラユキは隠れんぼなどしてなかなかクロユキが見つけられない時に母から聞いたアドバイスを思い出していた。





『ママぁ~!クロが意地悪なの!全然見付けられない!』


『そっか~… じゃあこう考えてみて?“ユキならどこに隠れるか?”がむしゃらになって探すよりユキがここなら見付からないってところを探してごらん?』


『もうやったよ!でもどこにもいないの!』


『ん~そうだね、クロは器用だから… それじゃあねユキ?逆にユキが絶対探さないようなところを探してごらん?ユキが隠れそうなところはクロも探しに来るってわかってるみたいだから、その逆にユキならここには隠れないし探しもしないってところ‥』


 母かばんに言われたアドバイス、シラユキはゆっくりとそれを思い出し、周囲を探し始めた。



 そしてその時に彼女が母に最後に言われた言葉を思い出す。



『もしかしたら、探す必要もないようなところに隠れているのかもしれないね?』



 外のタイヤ広場や他の遊具のそば、先ほど見た台やテーブル、ガラクタに被る布の下。


 だが見付からない…。


 ひとしきり探し終わった後、彼女は諦めてしまったのかその場に背中を向けて踵を返してしまった。


「見付かんないや~… と見せ掛けて!えぇ~い!」


 否、諦めてはいなかった。


 ドーン!と彼女が飛び込んだその場所には先ほどの大きな大きなクマちゃんのぬいぐるみがあった、あの大きさならさっき自分も隠れるくらい大きいと体感していた彼女はそれをよく知っていたからだ。


 そして、シラユキはついにそこにいたものを見事確保した!


「捕まえたよクロ!クマちゃんがさっきと違うとこに落ちてたからおかしいと思ったんだ!どーお?参ったでしょ?」エッヘン


 …と、鼻高々にどや顔をして見せた彼女だが、このあと驚愕の光景を目の当たりにする。


「イタタ… あーん、見つかっちゃったよ~」


「え!?あ、あれ!?」


 面食らったのも無理はない、なぜなら彼女が取り押さえそこにいた者それは…。


「キャハハハ!でも楽しかった~!あなた隠れんぼが得意なんだね?キャハハハ!」


「え、えー!?クロじゃなかったの!?あなたは誰!?」



 シラユキが取り押さえたのはクロユキではない、緑色の女の子である。

 彼女は全体的に鮮やかな緑色で姿は小さな子供、しかししっかりとライオンのフレンズとしての特徴を持っている。


 

 が、耳だけは鮮やかな羽のように見える。


 

 この子はだぁれ?どうして緑色なの?同じくらいの子供なんて初めて見た、おばちゃんに似ててまるで小さなライオンおばちゃんを見てるみたい、緑色の小さいライオンおばちゃん?どういうこと?



 その子がシラユキに尋ねた。


「あなたは誰?どこから来たの?わたしは“ちびレオ”って言うんだよ!」


 そんなキラキラとした笑顔で自己紹介を受けたシラユキ、この子は笑った顔が自分の叔母にそっくりで、そんな彼女と同じようにまるでヒマワリの花を見てるような気持ちになった。


 そしてそんな笑顔を向けられるとシラユキも悪い気はしない、彼女も元気よく自己紹介をした。


「初めまして!ユキはシラユキって言うの!みんなユキって呼んでるよ!あのね?図書館から来たの!」


「可愛い名前ぇ~!よろしくねユキ!」


「ちびレオも可愛いね!よろしくね!」


 二人は特に深くは考えなかった。


 こんな時間のこんなところに自分と同じくらいの子供がいて、その子は可愛い名前をしていて明るくて隠れんぼが得意。


 どことなくお互いに自分と似たものを感じとり、すぐに意気投合してしまった。


「ちびレオ?それ名前が書いてあるの?いいな~… ユキもほしいなぁ~!」


「うん!名札って言うんだって?ユキは文字が読めるの?スゴいすごーい!」


 真夜中で、見知らぬ二人のはずなのに。


 子供の無邪気さ特有なものからくるのか、お互いの素性など気にせず仲良くおしゃべりを始める二人、その延長でやがてテンションがぶち上がってきた二人は深夜の眠気など感じる間もなく外で元気に遊び始めてしまった。


「ねぇユキ?遊ぼう!」


「うん!遊ぼう!」



 仲良くなった二人、ちびレオはシラユキの手を引き遊具へ連れだそうとした。


 しかしその時。


 先ほどまでニコニコ笑いながら着いてきていたシラユキはピタッと歩を止めその手を振り払った。


 驚いたちびレオは不安の混じった表情と声で振り返り、尋ねた。


「あれ、ユキ?どうしたの?ユキ… え?ユキ?」


「…」


 今度面食らってしまったのはちびレオの方だった。


 何せ目の前にいるのはシラユキでありシラユキではないのだから。


「ユキ?お耳と尻尾があるよ?えっと、ユキも… ライオン?」


 その質問を無視して、シラユキでありシラユキではない彼女はゆっくりと口を開く。




「あなた… “セルリアン”ですね?シラユキちゃんをどうするつもりです?」




 その雰囲気… 風格…。


 彼女こそ、当時シラユキの中にその身を潜めて己の孫娘を守ってきたフレンズ。



 ホワイトライオン。


 ユキその人であった。







クロスオーバー


猫シリーズ(気分屋)×アミメキリンと謎のヒト(bentmen)


コラボ先↓

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885171827

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