迷子少年の初めて④

 ナウさんという“ヒト”は。


 ママと似てるって訳でもなく、ミライおばあちゃんみたいに歳をとってるって訳でもなく、カコおばあちゃんみたいに不思議な感じがする訳でもない。


 でも…。


「クロユキくんって言うんだね?そっか迷子なんだ… 僕がナウだよ?よろしくね?」


 なんかお姉さんって感じで、少し緊張してしまった。











 ナウはいろいろ突っ込んで聞きたい部分はあったものの、とにかく迷子のクロユキのため尽力を尽くすことを誓った。


「こういう時は迷子センターなんたけど、どうやら君は訳ありのようだね?」


「ナウさんならなんとかなると思って探していたんです、どうですか?」


「さっきまで何度も泣いていた、こう見えて無理してると思うんだ… 頼むナウ」


 彼女はこの時クロユキの事情を瞬時に理解したという訳ではない、だがナウは彼が普通の迷子でないことはわかっている。



 僕がさっき見たのはなに?あのあれ… なんか幽波紋スタンドみたいの使ってたじゃん?使ってたよね?


 実在してたのかぁ…。←してない



 彼女はもちろんそんなことを本気で思ってるわけではない、だが人間はあんな特技は持っていないし知っている限りフレンズもあのようなことはできない。


 だがナウはクロユキが普通の子でないことを知った上で、協力を惜しみ無くすることを決めていた。


「とりあえずさ?難しい話は後にしてご飯にしない?休日出勤でウンザリしてたからさぁ~?今日は僕がごちそうするから好きなもの食べなよ?クロユキくんもほら?遠慮しないでね?」


 この時クロユキは「ごちそうする」というくらいだからこのナウがなにか振る舞ってくれるのかと思っていたが違う。


 当初の目的地ファミレスというところで、人に頼むとその料理が出てくるのだ。


「えーっと… これとこれとこれと~?」


「まだ食べるんですか?」

「頼みすぎだろ」


 

 僕は、とりあえずオムライスを頼んだ。


 なかなか美味しかったけど、やっぱりパパの作ったやつが好きだと思った。







「はぁ~食った食った…」


「本当ですよ、相変わらずすごい量食べましたね?」


「いったいこの体のどこにあの量が入っていくんだ?」


 ナウはこう見えて大食いである、一食辺りを並の倍は食べることもある。


 クロユキは、ファミリーレストランとかいう彼にとっての不思議空間よりも、三人の食事風景が興味深かった。


 ナウは大食い、トキは辛党。


 ツチノコは普通だったが、その隣でトキの食べていた物が並の辛さではないことは見てわかった、更に自分の隣では一人で皿を数枚重ねていくお姉さんがいるのだ。


 クロユキはそう思うと、もしかしたら自分は変わり者の集まりに囲まれているのか?とほんの少し心配になった。


「クロユキは残さないし食べ方も綺麗なんだな?好き嫌いはないのか?」


「残すのは食材の命を冒涜してるからってパパが許してくれないんだ?嫌いな物はあるけど、パパが小さく刻んだり味をつけたりして食べやすくしてくれるから食べれるようになってきた」


「そうなのか、いいお父さんだな?」


「うん!でもどうしても食べれないときはユキとコッソリ交換しちゃうんだ!」


 命の冒涜… 食材とはそれまで命だったもの、だから食べるときには「いただきます」残さず食べて「ごちそうさまでした」と感謝を伝えなくてはならない。


 だがそれでも口に合わない物というのはどうしてもある、そんなとき彼はシラユキとの連携プレイで切り抜けていた。


「ユキって?」


「あ、妹だよ?僕双子なんだ!」


「そっか… 妹にも早く会えるといいな?」


 そうだユキ… ユキは怒ってるかな?近頃ずっとバカにしちゃってた。

 ユキがよく不貞腐れるのも僕が偉そうにしてたからじゃないか、でもそっか… 僕とユキはずっと協力してたんだった。


 森にセルリアンがいたらお互いに助け合って倒してた、ご飯の時どうしても食べれない物はユキのやつと交換したりして食べてた。


 僕、一人じゃ何もできないんだな… 泣いてばっかりじゃないか。









 ナウはクロユキの件を本部に連絡してみたが、当然彼の両親が見付かるはずはなかった。


 そもそも来客名簿に彼の名前はない、あるはずがない。

 

 なぜなら彼は客としてこのジャパリパークに来たわけではないからだ。


「ん~… 迷子なら両親が同じように君を探してると思ったんだけど、どうもお客さんとして来てるんじゃないみたいだね?かと言って職員の子供という訳でもなさそう」


「どういうことですか?」


「つまり、迷子センターの枠を越えてるんだよ?身元不明なんだ」


「話が大きくなってきたな…」


 調べれば調べるほどクロユキの妙なところが浮き彫りになっていく。


 だが当たり前のことだ、言うなれば彼はタイムトラベラー、理由や方法はどうあれ未来から過去へ来ているのだから。


 クロユキを不安や恐怖がまた支配し始めた。


 チラホラと聞こえる「身元不明」だとか「パークの外」「警察」「引き渡す」などの言葉。


 聞いたことのない単語の数々、それらはクロユキの不安を煽り続けた。



 僕はどこかへ連れていかれるの?いやだ… おうちに帰りたい、僕の家はジャパリパークだよ?外になんか行きたくない。


 会いたいよ… パパ、ママ、ユキ…。


 助けて博士助手。


 怖いよ… サーバルちゃん。

 


「…だから、一旦本部の方に頼んで身元を証明してから彼の住所を… ってクロユキくんどうしたの!?大丈夫!?」


 ナウが彼に目を向けたとき、静かに涙を流しガクガクと怯え震える姿がそこにあった。


 彼女らから見てもこれはただ事ではないというほど怯えているのが見てとれた。


「やだぁ… 外になんか行きたくない… 行きたくないよ…」


「…?でも君の家は外じゃ?」


「違うよ!僕はただ森でユキと遊んでただけなのに帰ったら家が無くなってたんだ!パパもママもユキも博士も助手もいない変なところにいたんだ!僕だって帰りたいよ… でもきっとバチが当たったんだ、ユキのことバカにしてたから…」


 泣いたり怒ったり落ち込んだり… 彼がかなり情緒不安定になっているのが三人にもすぐに見てとれた。

 その様子を見てただ事ではないと感じたナウは顎に手を当て少し考えた後、言った。




「わかったクロユキくん、僕のうちにおいでよ?パパとママが見付かるまで一緒に暮らそう?君さえ良ければね?」




「お姉さんの…?」


 それは飼育員ナウの思いきった提案だった。


「ナウさん、大丈夫なんですか?それってその… 誘拐とかになるんじゃ?」


「大丈夫、本部の方には私が預かるってちゃんと言っとくからさ?それにパークにいるってことは都市部の住民の子かもしれないし… クロユキくん?見付かるまでは僕が君の家族になるよ?本物のパパとママには敵わないけど、君が寂しくないように僕も頑張るから?どう?」


 ここに来てからクロユキはいろんな優しい人に救われてきた。


 教授と准教授、トキとツチノコ。


 そしてナウ、彼女がとても優しく良い人なのは彼でなくても周知の事実。


 実際トキ達が彼女と話してるのを見て悪い人間ではないってことくらいクロユキにもすぐに理解できた。


「ナウさんがそう言うなら私は賛成です」


「私達が… とも思ったけど3人だと流石にあの部屋は少し狭いしな?ナウなら家も広いし、安心して任せられる」


「うん、それに二人は夜もさ?ほら…」


「そ、そうですね…///」

「返す言葉もない…///」


 トキ達は照れながら首筋にある赤くなった痕に指で触れていた。

 悲しんでいたクロユキだったが、図書館を出たときもああして首の痕を恥ずかしそうにしていたのを思い出した。



 結局あれはなに?痛くないの?



「さぁクロユキくん?どうする?君が嫌ならなにか別の方法を考えるけど…」


 ナウも少し不安だったのだろう、それは当然彼女の優しさからくる提案だったが、クロユキ自身がそれを拒絶してはまったく意味がないのだ、ましてや彼にとって初対面の大人だ、嫌だと突っぱねられてもおかしくはない。


 しかしクロユキはまっすぐナウの目を見て答えたのだ。




「僕は、お姉さんと一緒がいい」




 それは信頼の証だった。


 お姉さんの側なら怖くない、トキさんもツチノコさんも近くにいる、図書館に行けば教授達もいる。


 きっと優しい人やフレンズさんがここにはたくさんいる。


 帰れるかはわからない、でもどこか遠くへ連れていかれるくらいならここで少しでも信頼できる人達の側にいたい。

 


 彼はそう思っていた。







「じゃあ、私達とはここまでですね?」


「すぐに帰れるといいな?でも、なにか困ったことがあったら言ってくれ?私達もクロユキの味方だから」


「うん、ありがとう二人とも!あと… いつまでも仲良くね?」

 

 ナウ宅の前、時刻は夕方に差し掛かっていた頃だ、トキとツチノコとはここで別れることになる、彼女達にもまた都合があるからだ。


 だが二人もまたクロユキの為に自分達の力を貸すことを誓った。


「当たり前ですよ?私達は愛し合ってますから?」


「まぁ… そうだ/// だから私達の心配はいらないよ、クロユキにもいつかそんな相手が出来るといいな?」


「うん…」


 サーバルのことを思い出したクロユキは少し寂しげな目をしたが、その後すぐに二人に挨拶をしてナウの家に入った。



「子供… か」


「欲しいですか?」


「そりゃあトキと私の子供がいたらそれは最高だけど…」


「そうですね?私もそう思います、いつかそんな奇跡が起きたらいいな~…なんて思いますよね?」


 二人はその日歩いて帰った。


 肩を並べて手を繋ぎ。


 時には笑顔を向けながら。


 二人の家に、歩いて帰った。









「ごめんね~?住んでみたはいいんだけど一人じゃ広くて持て余しちゃってさぁ?散らかってるけど楽にしてて?自分の家だと思っていいからさー?」


 クロユキは女性に慣れているつもりだった。


 なぜなら彼は普段からフレンズ達に囲まれて生活して、恋まで経験しているのだから。


 だが人間の女性、身内でない人に会うのは初めてであり、優しくて親身になってくれるナウという女性を前に少し緊張してしまったのだ。


 獣の耳や尻尾もない彼女なのに、なぜだか歳並みの少年らしく緊張していた。


「さてと… じゃあクロユキくん?お姉さんとお喋りしよっか?」


 ソファーに腰かけたナウはクロユキに隣にくるようにポンポンとそこを手で叩いた。


 黙ってナウの隣に座り込んだ彼は少し頬を赤くしながらソワソワと足や手を動かしていた。


「もしかして、悩みがあるんじゃない?」


「え…?」


「君は素直そうだから、何となくわかるよ?辛かったらお姉さん全部聞いてあげるから、話してごらん?」


 君のことはなんでもお見通しだ!ってそんな笑顔を向けながらクロユキに尋ねていた、彼はハッとした… だが実際は悩みというより心配事というのが正しい。


 クロユキは、隠していた訳ではないが事の経緯をナウに話すことにした。





 


「なるほどね… 見つからないわけだよ、そうなると君はずーっと明日から来たことなるのかぁ…」


「信じてくれるの?」


「もちろん!それともクロユキくんはここで嘘をついちゃうような悪い子なのかな?」


「嘘なんかつかないよ?でもあんまりにもおかしいんだもん… 多分こんな話パパもママも信じてくれない、それにきっともう会えないんだ」


「どうして?」


 聞くとクロユキは以前母に言われた言葉を思い出し、その言葉がずーっと頭を駆け巡っていたそうだ。


“『ひとりぼっちになっちゃうからね?』”


 近頃の彼は自らの才能に天狗になり、シラユキに対し見下したような態度をとることがあった、そうして自分が嫌なヤツになってしまったから神様とかが罰を与えたんじゃないかと本気で思い込んでいた。


「そっか~それは確かに良くないね?」


「うん、だから僕… 一人になっちゃった」


「大丈夫、ちゃんとその事に気付いたじゃないか?ちゃんと反省してこれから妹ちゃんのいいところたくさん見付けて誉めてあげればいいんだよ?そうすれば神様も許してくれるから?」


 母にもよく言われた言葉だった。


 シラユキにはシラユキのいいところがあり、クロユキにはクロユキのいいところがある… だから自分の方が優れていると見下さずに、相手が自分よりも優れているところを認めて尊敬しなさいと。


「例えばトキちゃんは歌が大好きなんだけどさ?ちょーっと個性的でね?」


「うん、聞いた」


「そっか… まぁそれでね?でもツチノコちゃんはそんなトキちゃんの歌が大好きなんだよ、楽しそうに歌うトキちゃんを見てると自分まで楽しくなるんだね?

 ツチノコちゃんはずーっとひとりぼっちだったからトキちゃんからいろんな物をもらって今は幸せそうにしてる、トキちゃんもそんなツチノコちゃんからたくさんの輝きをもらっていつも笑ってる、お互いにいいところを尊重しあって助け合ってるんだよ?だから二人は見てて幸せそうって思うし、なんだか尊いよね?」


 二人のように愛し合えとまでは言わないが、そうしていいところを見付けて認めてあげれば相手もきっと自分のいいところを見てくれる。


 シラユキが悔しがるのは、クロユキのサンドスターコントロールが確かにスゴいからで、憎まれ口は叩くがそれは尊敬の裏返しとも言える。


 クロユキはそのことを理解すると、シラユキのいいところだってたくさんあるじゃないかと思い直していった。


「ところで、そのサンドスターコントロールって?」


「これだよ?」ボォウ


「わっ!?光の玉が出てきた!?ほぇ~… サンドスターってまだ研究中でさ?謎が多いんだけど… へぇ~?じゃああの時見た手はやっぱり幻じゃなかったんだね?」


「パパが教えてくれたんだ?僕は病気になっちゃうからって」


 病気と関係があるの?とナウは興味深そうにその話を聞いていた… 謎の多い物質サンドスター、これがいったい人体やフレンズにどのような影響があるのか?それはまだこの時代ではわかっていない。





 それから夕食を済ませるとナウは湯船にお湯を溜めクロユキの前に立ちはだかった。



「それじゃお風呂に入ろうか?」←直球


「えっと… 僕別に一人でも…///」


「照れてるの?可愛いなぁ… ほら脱いだ脱いだ!さぁお姉さんとキレイキレイしましょうねぇ~?」


「わぁ~!?なんでぇ!?///」


 彼女にも母性愛というものが当然のように存在する。


 それは結婚もせず彼氏もいない反動だったのか、孤独に悲しむクロユキ少年を見て彼女の庇護欲が振りきれてしまいこのような暴挙にでていたのかそれは謎だが。


 ナウはいたいけな少年の服を剥ぎ浴室へ連れていった。


「頭から洗うね~?目に入ったりしたらごめんね?」


「うん…///」


 もっと幼い頃、いろんなフレンズにもみくちゃにされながら温泉に入ったことのあるクロユキだが、恋を知った辺りからは妙に気恥ずかしくなり入ったとしても母親が限界だった、なのでなるべく混浴を避けていた。


 だが…。


 しかし今はどうか?押しに負けて美人独身彼氏無し職場では有能のお姉さんと仲良く洗いっこに興じているではないか。←興じているのはナウ


 この時クロユキは、なにかとてつもなくイケないことをしているとそんな気持ちにさせられていた。


 彼女には無論獣の特徴はない、所謂好みとは違うが、押しが強かったためかクロユキもドキドキと心臓が高鳴っていた。


「じゃあクロユキくんにはお姉さんの背中を流す任務を与えよう?優しくしてね~?」


「う、うん」


 ゴシゴシと順調に背中を流しているときだ。


「ん?どうしたの?もしかして僕の背中に見とれちゃった?///」


「ううん」←無慈悲


 ピタッと手を止めたクロユキはナウのうなじから首筋にかけてをじっと見つめていた。


「首がどうかした?」


 不思議に思い尋ねるとクロユキは昼間から気になっていたある疑問を投げかけたのだ。


「トキさんとツチノコさん、首に赤い痣みたいなものがあったんだけど結局なんなのかわかんなくて… でもお姉さんにはないし、大人にだけできるとかじゃないんだなって」


 その疑問の答えはナウにはすぐにわかった、それは恋人達が夜に行う所謂マーキングのような行為。


 彼、あるいは彼女は自分の物だとわざと見える位置に花びらの如き赤い跡をつけるもの。


 キスマークと言われるものだ。


「あ~… 気になるの?」


「痛かったりしないのかな?って」


「心配だったんだ?」


「うん… 気になっちゃって」


 純粋な優しさ、そんな少年の純粋さに自分の中でふつふつと沸き上がるものを感じたナウはクロユキの手を取り振り向いた。


「教えてあげようか?」


「え…?」


「こっち、来て…?」


 優しく手を取り懐にポンと彼を座らせた、お風呂場とは服を着ているのが不自然である… なのでもちろん二人は一糸纏わぬ姿で肌同士がピッタリと触れあっている。


「じゃあ怖くないから、目を閉じてね?」


「なにするの?」


「大丈夫、お姉さんを信じなさいって?」


 ぎゅっと目を閉じたクロユキ、耳には水滴が湯船に落ちる音や換気扇のファンの音。

 それから ヒタ… というナウが少し動く音が聞こえてきた。


 クロユキの肩に手を置くと、ナウはゆっくりと彼の細い首筋にその潤いのある唇を近づけていき。


「ん…」チゥ


 そこにキスをすると、数秒間吸い続けた。


「…!?なにするの!?///」


「ッハァ… ごめんね?痛くなかった?」


「平気だけど…」


 首からゆっくりと唇を離し、彼に「鏡を見てごらん?」と触れながらそこを指差した。


「あ、これ!… え!?こういう風についたものだったの!?///」


「そういうこと?ごめんねビックリさせて?あの二人は仲良しだから、あなたは私のものだ~って印を付けてるんだよ?愛情表現ってやつ」


「ねぇ… そしたら僕はお姉さんのものになったってこと?」


「そういうことに… してもいいよ?」


 うっとりとしているがからかうような目でナウは言った。


 照れくさいが、なんだか囚われの身になったような感覚に陥ったクロユキは「僕は物じゃない」と少し怒ったような目でナウを見て言った。

 


 




 そんな事のあとだが、二人はお風呂を上がると寝間着を着て寝室に入った。

 クロユキに合う服は無いため、とりあえずナウのワイシャツを着せている。


「さぁ今夜はお姉さんが添い寝してあげよう、おいでクロユキくん?」


「一人で寝れるもん…」


「そう?あんなに泣いていたのに?」


「平気…」


 平気ではない、正直切羽詰まっている。


 知らない世界の知らない場所、知らない人達に囲まれたまま夜になる。


 この孤独を7才の少年が切り抜けるには非常に辛いものがあるだろう。


「お姉さんは寂しいよ… だから一緒に寝てくれない?」


 そう言って手を伸ばすナウ。


 本当は辛いはずのクロユキが照れて素直になれないのをわかっててそう言ったのか、あるいは彼女自身がこの時本当に一人の夜が耐え難かったのか…。


 それは本人のみぞ知るが、やがてクロユキはその寂しさに折れたのかすんなりとナウの腕の中に吸い込まれていった。







「クロユキくんはさぁ?好きな子とかはいたりするの?」


 ベッドの上で、小さなクロユキを後ろから包み込むように抱き締めながら聞いたナウ。


「いる… でも結婚しちゃった…」


 心地よい体温を背中に感じながら素直に答えたクロユキ。


「そっか… 辛いね、やっぱり寂しい?」


「寂しいけど、幸せにしてるならそれでいいやって…」


「優しいんだね?そんなことを言える男はそうそういないよ?」


「そう…?」


「そうさ?あ~… 僕があと十年若ければなぁ~?将来お嫁さんにしてもらいたかったよ」←切実


 実際、自分がこの子と同じくらいの年頃でお互いいい歳になったら… なんて乙女チックなことをクロユキを抱き締めながら考えていた時だ。


「お姉さんは好きな人いないの?」


 逆に聞かれてしまった。


「仕事仕事って人生生きてたらさ~?なんかこのまま一人なのかな~?なんて?好きな人かぁ?恋なんてずっとしてないなぁ…」


「じゃあ…!」


「ん?」


 彼はそれまで背中を向けていたが、不意に振り向きナウと向かい合った?


 するとグッと首の後ろに腕を回し…。


「んん…!」チゥ


 と彼女の首に吸い付いたのだ。


 浴室で自分がされたのと同じように。


「帰れなかったら… 僕もお姉さんの為に頑張る///」


「クロユキくんったら上手だねぇ?お姉さんドキドキしちゃったよ…///」


 そのあと二人は抱き合ったまま糸が切れたようにフッと眠りに落ちた。




 首筋に赤い花びらを散らせながら。









 翌朝のこと。


 ナウは一人目を覚まし寝ぼけ眼をこすりながらノソノソと洗面台に向かい顔を洗っていた。


 バシャバシャと冷たい水が顔にかかり、意識がハッキリしてくる。


「はぁ… あれ?え、えー!?なんだなんだ!?」


 目を覚ました彼女は首筋にある痕を見て目がギョッとした。


「嘘でしょ!?昨日なにしたっけ!?僕ったら寂しさのあまり大変なことを…!?」


 だがふとすぐ隣の浴室を見た時思った。



 おかしいな… なにかとても大事な時間を過ごした気がする、なのに思い出せない。


 小さな男の子… そうだ、迷子の男の子が居た気がする。


 あれ?思い出せないな?




 家にはいつものように自分だけ。


 だが残っているのは昨晩の洗い物の食器が二人分だってことと、首に残る赤く滲む痕。



 変なの… 肝心なことが思い出せない。



 後にトキとツチノコに尋ねたが、同じようによく覚えていないと返事が返ってきた。


 不思議なこともあるものだと、ナウはだんだんその日のことを思い出さなくなっていった。










「それで起きたら森の中でさぁ?ママに起こされたんだよね?」


「あぁあの時か、俺も覚えてるよ?そういえばお姉さんの家に居たとか訳のわからんこと言ってたな?っていうか首のあれはそういうことだったのか… この野郎、心配して損したぞまったく」


 そう、僕はあの晩眠ると次目覚めた時いつもの森の中… ユキから僕が居なくなったと聞いてみんなで捜索に当たっているとママがあっさりと木に横たわる僕を見付けた。


「急に思い出しちゃった… お姉さん元気かな~?」


「クロ、嫁が見てるぞ?口は災いの元だ…」


 妻のミミ… ワシミミズクの助手だ、今度は本当の本当に助手。


「二人でなにやらゲスな話をしてませんでしたか?」


「ハハハ… 真相は愛する旦那に聞いてみなよ助手?」


「あ、そうだ?ねぇミミ?口癖変えてみて?“である”って言ってみてよ?」


「なんなのですか急に? …今日はいい天気で、で… であるのです… 急に変えろと言われても難しいのです!」


「「アッハハハハハ!」」



 不思議な夢もあるものだ、パパやユキにも似たようなことがあったのだろうか?


 ユキには帰ってきた時に聞いてみよう。


 もしかしたら…。


 猫はしばしば夢を見るのかもしれない。








クロスオーバー


猫シリーズ(気分屋)×トキノココンビの初めて(栗饅頭)


コラボ先↓

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885217618

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