第3頁 コンソメスープ

川が凍っているとき、あの上に乗りたいって、いつも思っていた。

別に、それで割れて落ちてもいい。

きっとその底は、冷たくて深くて寒くて痛いんだろうけど、そのうち何も感じなくなって、この痛くて苦しい世界から何も感じずに居なくなれると思っていたから。


でも本当は、思ったよりも苦しくて、傷に沁みて痛くて、怖かった。


それに、誰かに背中を押された気がしたけど、本当にそうだったのか…夢だったのか…

よくわからないけど、今はどうでもいい。




だって、私はもう




「いい匂いがする…」





ん?





「…あれ?」


勢いよく起き上がる。


「は…?」


真っ白のふっかふかの……布団…?

やわらかい手触りの…パジャマ?

いや、私が着ていたのは灰色のほつれたパジャマと深緑色のボロいマフラーのはず…


「これ………………………あの世…?」


ぐるりと見渡すと、古い木の壁と床に、右手側には小さな棚?に使われた後の蝋燭が入ったランプみたいなものと、見慣れた汚い衣服が綺麗に畳まれている。


助かった?いやいやいやいや、泳げないから、私。

ていうか深かったし。

いや、そもそも本当に起きてたの?

寝てるんじゃない?

散歩してないんじゃない?

でも寒かったし痛かったし、背中ドンッてのリアルすぎるし。



……どうしよう、夢なのかあの世なのか、何が何なのかわからない…


あと、さっきからコンソメスープのいい匂いがするの、なんで?



「う"っ…ぃ"った……」


とりあえず立とうとすると、脇腹に激痛が走って無理だった。

着ている服を上げて確認する。


虐められて出来た怪我や傷が全部包帯みたいな布を巻かれたりして手当してある……え、怖い。



≪…………………ギシッ…≫


あの夜と同じように静かだった空間。

そこで一人、意味の分からない状況にうろたえている中で、どこかから軋む音が聞こえた。


≪…………ギッ……≫


あ、怖い。


音が、どんどん近づいてくる。


≪…『~~…ね』ギッ≫


……喋ってる?

声のようなものも聞こえてきた。


≪…ギッキィイイイイイ≫


こわいこわいこわいこわい


『あら?』

≪ギッギッギッ…ギィッ…≫


この部屋のどこかから声が聞こえる。


『目が覚めたのね、良かった』


何か近くに


『おはよう』


あ、ドアがあった……でも開いてないよ…怖い…


『人間さん』


ん?…ドアじゃない…もっと近く…


『…あらー?わからない?』


なんか、足元が引っ張られる気が


『そうそう、そのまま真っ直ぐ見て。"ここ"よ、"ここ"!』


膝に何か乗って























「こんにちは。あなた、コンソメスープは好き?」
























私の膝に乗って微笑みかけてくるその人は、両手で包めそうな大きさの、美しい人でした。

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あなたの世界とわたしの世界 膤古-yukiko- @kiyuki1031kiyuki

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