第3話

裕翔や真夏、雪乃のお母さん達が家においでと言ってくれたが申し訳なくなってしまい、断った。小学生で一人暮らしはできないしで施設に入ろうと思っていた。そんな時に桜子さんが家へおいでと言ってくれた。同じように断ろうとしたけど、桜子さんが一人暮らしで寂しいし、凪くんいてくれたら嬉しいなと、その一言で、うんと答えてしまった。

それから僕は桜子さんと暮らし始めた。



桜子さんの家の中は機械が沢山あった。桜子さんのお父さんが機械いじりや、何かを作ったりするのが趣味だったらしく、亡くなった後でもそのままにしているらしい。1階には、桜子さんのお父さんの作業場、2階にはリビングとキッチンと部屋が2つ3つあった。

一緒に暮らし始めた初日、その部屋の一室に案内された。

「ここ。凪くんのお部屋ね。自由に使って!荷物は後で届くから。一緒に荷解きしようね。」

結構な大きい部屋を与えられ、不安だったけれど、桜子さんの透き通るような無邪気な声で一瞬で安心してしまった。本人は気づいていないかもしれないけれど桜子さんの声は僕を安心させてくれる。その日の夜の夕食は桜子さんの手作りで、カレーライスだった。何が好きか分からなかったから定番だからとカレーライスにしたらしい。すごく美味しかった。胸がいっぱいだった。涙が出てくるのを必死に抑えながら、夢中で食べ続けた。

「ゆっくり食べな。」

桜子さんは僕の食べる姿を見ながら笑いながら言った。僕が食べ終わると桜子さんは僕が使った食器を洗ってくれた。僕が、桜子さんは食べないの?と聞くと後でね。と返事をした。


母さんが死んでから小学校にはあまり行かなくなった。行くような気分じゃなかったし、もうすぐ夏休みに入るしでいいかなと思ってしまった。僕と母さんの2人暮しだったから、色々あって慌しいかったのもある。泣きたい時もあったけど泣かなかったし、夜は眠れなくなった。泣いたり、目を閉じると周りの全てが崩れて、壊れてしまいそうで怖かった。眠れたかと思うと、母さんが死んだ姿や、死んでいく様子を夢に見てしまい毎回目が覚める。そういう時は桜子さんが一緒に寝てくれた。母さんとは別の暖かさがあったし、何よりちゃんと僕を見てくれた。

裕翔、真夏、雪乃の3人は結構な頻度で会いに来てくれた。無理矢理引っ張り出されて、遊んだりもした。夏休みが終わる頃には、桜子さんの家が僕達幼馴染の溜まり場にまでなってしまった。桜子さんはとても楽しそうだったし、みんなとの遊びに混ざって行く姿がとても好きだった。

「あ゛あ゛夏休みが終わるよぉぉぉ。」

「真夏、変な声出すなよ。」

「宿題終わった?」

と雪乃が真夏に聞くと

「ああああああ!!!やめてぇ!!!それ以上は聞かないでぇぇぇ。」

「終わってないんだな。」

真夏はすごい形相でそう言った裕翔を睨みつけた。話を逸らすように雪乃が僕に話を振ってきた。

「凪は、夏休み終わったら学校くる?」

「うん。一応そのつもり。今は大分落ち着いたし。」

「おしっ。学校で待ってるからな!」

裕翔が笑顔でそう言ってくれたからおうっと久しぶりに大きな声で、返事をした。


学校が始まると、変な噂が流れてきた。

僕の噂だった。僕が母さんを殺したとか本当は2人で心中するつもりだったとか。そんなことはないのに。一部の同級生や、裕翔達は気にすんなと言ってくれたけど、酷い噂だった。同級生の親達が勝手に話を盛って色んな人に話していた。今更訂正するのもあれだし、僕が言ったところでどうにかなる訳じゃなかった。そのまま僕は小学校を卒業した。

中学は地元の中学校だったし、生徒もほとんど変わらないせいか噂は完全に消えた訳じゃないけど、僕は明るく無邪気に振る舞った。明るくしてると噂なんて気にならなかったし、なにせ友達も増えた。いつの間にか噂も消えていた。


「凪!!英語の教科書貸して~!!」

裕翔とクラスメイトとでバカ騒ぎをしていると、真夏が僕のクラスに入ってきた。

「あ、机の中に入ってる!勝手に漁って!」

「ほーい。」

「え、なに?おふたりさんどういう関係~?」

とクラスメイトからの茶化しが入る。ただの幼馴染だよ。と返しても、ひゅーひゅー言ってくるので、そんなんじゃねぇよ!!とムキになってしまい、その場が静まり返った。

「まぁまぁ、お前ら知らないと思うけど凪は怒ると怖いぜ~。俺なんか保育園の頃、凪と喧嘩になって投げ飛ばされたんだけどさ~。」

と裕翔が冗談混じりで言ってその場を和ませてくれた。僕がジュース奢ってくれたら許してやんよ。と裕翔にノリで返すとお前なぁ~調子乗んなよ~。と僕に冗談まじりの軽めのヘッドロックをしながら言うとすると僕らの周りが笑いに包まれた。

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見えない心臓 小端咲葉 @uni_

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