第6話 話して刹那語らせ

「お、後輩君」



 名前で呼んでくれない先輩。夏が終わる頃にまた先輩と会社でばったり会った。



「夏祭りの時はすまんね」


「気にしてないっすよ」


「そう?」



 そうして先輩は一緒に話そうと俺を座らせる。ちょいちょいと呼ばれて、俺は頭を下げながら向かいではなく隣に座った。



「ね、ねぇ後輩君」


「先輩?もしかして思い出したんですか?」



 刹那。白い先輩は真っ赤になった。耳まで一気にぶわっと。



「君、あの、後輩君!?えじゃあ、あの、ほら」


「先輩一回落ち着いて!」


「じゃあ私の黒歴史を知って!」


「静かに、先輩!」



 シーっとすると、少し落ち着いてくれた。彼女は俺の顔を見て、今度は怒り出す。それは俺が、



「笑うな!」


「あっはっは」


「ヒドイ」


「だって先輩、あははは」



 今度は拗ねてしまった。先輩はあの頃の僕のことを忘れていた。図々しい僕が向かいじゃなくて隣に座ることをあの頃の先輩はいつも怒っていた。



「で?先輩は何で思い出してくれたんですか」


「君が隣に座るから」


「どうして隣に座っちゃ駄目なんですか?」


「君は昔から質問ばかりで嫌いだよ」


「俺、昔とは違いますよ?」



 そこで先輩は目を細めて、口の端を曲げる。



「そうだな。それに一瞬だった」


「一瞬でしたか?2人でした花火も?」


「そうだよ。純粋なあの頃にはお互い戻れないだろ」



 席を立とうとする先輩の足首が目に入って、俺は俯いているんだと気づいた。



「先輩待って、もう少しだけ」



 思わずつかんだ腕も細かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

火花を刹那散らせ 新吉 @bottiti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説