第5話 花火を切なく蹴散らせ

「思い出したー!!」



 あれは俺がまだ僕だった頃。タバコなんて吸う奴は馬鹿だと思っていた頃。その頃僕が好きだった先輩だ。今ここではほんの小さな花火が見える。だけどあの頃は本当に少しも見えなかった。そりゃそうだ。僕が俺になって馬鹿にしてたタバコを吸うくらいには時が過ぎた。先輩は変わってしまった。少し変なところは変わってないけれど。大きな声を出した俺を見てその人は驚く。



「お弁当の!」


「いや先輩、俺!僕ですよ」


「会社の後輩?」


「そうですけど、中学の時も後輩で」


「悪いな。声かけてもらってもたいてい顔すら思い出せないんだ、いつも」



 隣の子が知らないならもう行こう、と先輩を誘う。まあ覚えてないなら仕方ないか、と簡単に引きさがれる仲だ。



「また会社でね、後輩君」



 あの頃の僕では想像のできない先輩の姿だ。特に足がね、こんなに足を出して派手なマニキュアを塗る人ではなかった。もっと白くていや今だって白いけれど。儚げで、でも清楚ではなくて、投げやりで、変なことを喋っては薄ら笑う先輩、強い色が似合わない人だったのに。夏祭りに誘ったけど来てくれなかった。この穴場には来てくれた。打ち上げ花火を見れずに、手持ち花火を一緒にやった。


 なんとなくタバコを吸った。火花は一瞬。吸い終わった。ビーサンで踏みつける。すぐそばに手持ち花火が落ちていた。一緒に蹴って排水口に捨てようとして、さっき食い終わったコンビニプリンの袋に突っ込んだ。

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