飩燈籠

安良巻祐介

 

 飩燈籠を持った子どもが家の裏をうろうろしているというので、様子を見に行ったら素早く逃げていった。冬場ならともかく、初夏になろうかという時節にあんな季節外れのあつものを売りに来る心根が知れない。逃げ出す前に見えた、橙色の行灯の中で、飩がとろとろと粘りながら煮えているのを思い出すと、近頃の暑さがますますひどく感ぜられるようだ。子どもが捕まらなくても、暮れ方などに家の軒下の薄い暗がりに燈籠がぼんやり光っているのをよく見かけるので、だんだんそれは当たり前になってしまって、近頃などは燈篭を捧げ持ったままニオニオと白目を向いて鳴いているのが聞こえるから、気味が悪いのに腹ばかりは異様に減り出して、いつの間にか舌を出して喘ぐ犬の顔から戻らなくなってしまっていた。…

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飩燈籠 安良巻祐介 @aramaki88

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