第13話 旅立ち
「いやあ、ずいぶんとお世話になっちゃったね。」
事件が解決した後しばらく、私達ははナリュさんの護衛で近くの村を回ってた。けど、それも今日が最後。ナリュさんが聖王国に向かうことになったからだ。私達は亜人だから聖王国での護衛は流石に無理。幸い領都というだけはあって代わりの護衛はすぐに見つかった。聖王国で仕入れをしたら戻ってくるらしいから、そのときはまた一緒にご飯でも、と約束して別れる。
「じゃあ、元気で!」
「ナリュさんも、気をつけてね。」
そう言ってナリュさんは聖王国に旅立っていった。結構長いこと一緒に旅をしてたから、なんだかちょっとさみしい気もするね。かく言う私達もそろそろ旅に出るつもりだ。私の目的は世界を見て回ることだから。ハルは私と傭兵団を組んでるからついてきてくれる。驚いたのはリオネさんがついてきてくれるってこと。
「君たちと旅をした方が修行になりそうだからね。」
と、言うのがリオネさんの言。まあ、確かに変なのにはよく絡まれるよね。私、なにか引き寄せる体質とかなんだろうか。まさか女神様が何かしたとは思えないけど。ちなみに、街を出る前に一度神殿でお祈りをするつもり。女神様にはいろいろとお世話になったからね。お礼をしないと。
そう思って女神様の像の前でお祈りをしていたら、いつの間にか真っ白な空間に居た。ここは確か、私が前女神様に会ったところだ。でも、前と違うことがある。私の隣にはハルが居るってこと。前回は一人っきりだったから、ちょっと怖かったんだよね。あ、もちろんリオネさんも居るよ。
『ようこそ、ようこそ来てくれましたね、私の眷属達。この度は世界を侵す敵を探すのに一役買ってくれてありがとうございます。』
今回現れたのは前回とは違う女神様だった。って、もしかして最高神ルートレイア様?それに気付いたリオネさんがものすごく畏まってる。流石に最高神様を前にしたらこうなっちゃうよね。そう言えばルートレイア様は月の女神様でもあるんだよね。私達を作った神様。ずっと居ないって思われてたけど、ちゃんと居たってことに感動する。でも、なんだろう。女神様がかけてるこの不思議なタスキ。リオネさんは神々しいお姿だ、って言ってるけど、このタスキが全部台無しにしてないかな。というかこの文字なんて読むんだろ。〈けんぞくふれあいきょうかきかん〉?
『あなた達には今まで辛い思いをさせてしまいました。これからはあなた達にも私の加護が届くようになりますから、何時でも祈ってくださいね。』
そう言えば神術も使えるようになったんだっけ。試しに神術を発動してみる。神様へのお祈りで神術が発動する。うーん、魔術よりちょっと効率悪い感じかな。でも、これでみんな私達が神様の眷属だって認めてくれるようになったんだよね。そんな感慨に耽っていたら……。
ちゃりーん。
そんな音が空間に響いた。え、えっと?音のした方を見ると女神様が居た。ものすごく気まずそう。頭に何かお財布のようなものが浮かんでて、それがさっきから点滅してる。
『あ、ああ!眼の前だったから直接お財布に!って、そうじゃなくて、えっと、大丈夫ですよ、ちゃんと割引価格になってますから!それに、複雑な術でも代理で行使しますから失敗なしです!』
なんだか慌ててわたわたと説明してくれる女神様。そうか、神術は神様にお願いして術を使ってもらうから、コストに手数料が上乗せされるんだ。まあ、神様にお願いするんだから原価って訳にはいかないよね。元の価格で物を売ったら働いた分だけ損しちゃうってナリュさんも言ってた。っていうか、割引なんてあるんだ。
「い、いえ、神術がそういうものだとは理解してますから大丈夫ですよ。」
ハルが慣れない敬語でフォローを入れる。ハルがそんな言葉遣いするの初めて見たよ。女神様のこの様子は予想外だったようで、リオネさんも若干ぽかーんって顔をしてる。まあ、自分の上司のこんな姿を見たら流石に驚くよね。
『そろそろ出かける時間だぞ。』
女神様との楽しい語らいもあっという間に過ぎ去った。ルートディーネ様がルートレイア様を呼びに来る。何でもこれからカイギっていうのがあるんだとか。女神様はお仕事大変だよね。こんなに忙しいんだったら私達にまで手が回らなかったのも仕方がないのかもしれない。この世界を守るためにこれだけ頑張ってくれてるんだから。何もしてくれない女神様を恨む人も居たけど、やっぱり信じてよかった。
気がつけば私達は神殿に居た。不思議なことに祈り始めてからほとんど時間は経っていない。月の女神様あらため最高神ルートレイア様に謁見できたのをリオネさんはすっごく喜んでた。女神様に謁見と言うにはなんだかほんわかした時間だったけど。
神殿での祈りを終え、いよいよ街を出る。神殿騎士の人達が総出でお見送りしてくれた。女神様に謁見したって話をしたらものすごく羨ましそうにしてたっけ。いや、多分実物を見たら……。これ以上は言わない方が良いかな。うん、憧れは憧れのままにしておいた方が良いよね。
街を出て街道を行く。国の中心からに向かうからか、どんどん人通りが多くなっていく。この国は亜人にも寛大だから結構亜人も居るんだね。さっきなんか魔族とすれ違ってうっかり世間話をしちゃった。私の集落とは別の集落だけど、あんまり会わないからね。
「うん、やっぱり旅をしてよかった。世界は広い!」
「なんだい突然?いや、ルニアとの旅はぼくも楽しいけど。」
「君たちは仲が良いね。」
そんな他愛のない話をしながら街道を進む。天気はよく、旅日和。きっとこれからもいろんな面白いことが待ってるんだろう。そんな期待を懐きながら、私達は旅を続けるのだった。
__INFO__
本話をもって本作は一旦区切りとさせていただきたく思います。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
また何かネタを思いついたらそのうち再開するかもしれません。
生贄少女の冒険譚 焔数 @ensu
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