第3話 晴れと雨傘奏


 この時期に快晴。

 無条件に、良い事がありそうだとおもうほどには、珍しく、晴れてる。

 前に居た奴が振り返ると、見知った顔だ。

 最近どうにも、雨傘とは縁があるらしい。

「およ? 晴くんだ」

「すげえ憂鬱そうな顔してるな」

 久しぶりの晴れだろうに。

「あぁ、分かる? 晴れてるしねえ」

「そんなに嫌いなのか? 晴れ」

 雨よか、マシに見えるんだがな。

「嫌だよ、それに、テストの結果が……」

 落ち込んでるのは、それが理由かよ。

「勉強しろ」

 一瞬でも心配した俺の気持ちを返せと口にしたいが、それはただの八つ当たりだな。

「知ってるよ、知ってるんだよ、ボクは」

「何をだよ」

 とは口にしたものの、思い当たる節もある。

「晴くん、上から数えた方が早いほど頭がいいなんて、ボクが勝てるハズないじゃん! 最初から勝負にすらなってないとか酷くない?」

 何となく口にした言葉だったんだが、覚えてたんだな。

「酷くないだろ。言う事を聞いてやるんだからな。それに、俺にも上がいるだろ」

「むーりー。晴くん上から四番目じゃんか。世の中理不尽だよ。もしかして、隠れがり勉? その顔で?」

 顔は関係ないだろ。顔は。

「あー、怒らないで。ゴメン。口が滑っただけ」

「お前、謝る気、実はないだろ」

「何だかんだと晴くんは、怒らないからね」

 えへへ。とにやけ顔を向けて来る雨傘。くそ、この顔は反則だろ。妙にほだされるんだよな。

「よし、分かった。これから、不遜な口を利く奴にはデコピンをすることにする」

「デコピンか。それくらいなら、痛くないし」

「ほう、言ったな。俺のデコピンを甘く見ない方がいい。デコを貸せ」

 一撃目は印象を強烈な物にする為に、強めがいいな。

「ちょ、ちょ!? なんで、そんなに溜めてるのさ。それ絶対に痛いやつ」

 分かってるじゃねえの。

「あたぁ!? 想像以上に痛いんだけど?」

 恨めしい言葉を投げわりには、にやけてる。これは、あれか、もしかすると、逆効果ってやつだったりするのか。

「お前、実は、Mだろ」

「失礼な。それじゃ、変態さんみたいじゃん」

「みたいじゃなくて、まごうことなき変態だ」

 抗議を始めるが、そんなもん放置だ。そのうち疲れて辞めるだろ。なんて思ってると、あ! と声を上げる雨傘。切り替えホント早いな。

「これから始まる期末の為に、学校第四位のがり勉じゃなくても、点を取れる方法を教えてください!」

「いや、予習と復習をやってるだけだ。テスト前は、おさらいすればそれでいいからな」

 てなわけで、俺はがり勉んしてるわけじゃ無い。

「う、ウソだ……がり勉無しで、四位……世の中理不尽だと思わない? 晴くん」

 それには同意しかねる。ま、要領が悪いだけなんだろうけどな。

「勉強しろ」

「ほら、やっぱりがり勉だ!」

「基礎が出来ない奴は勉強漬けにするしかないだろ。ほらほら、帰れ。お勉強の時間が待ってるぞ」

 げんなりし始める雨傘。

 よくよく考えてみれば、好きで勉強してる奴なんて居ないか。

「今度、勉強教えて。お願いします」

 ガバっとおとがしそうな勢いで頭を下げる雨傘。なんだその体育会系のノリは。

「今回は赤点逃れたけど、次はどうなるのか分からないんだよ……」

 そうかと思えば、情に訴えて来やがった。

「わーったわーった。今度な」

「ほんとだよ? んじゃね。ボク、こっちだから」

 忙しい奴だな、ほんとによ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る