第2話 雨と雨傘奏

 

 今日も曇り。直ぐにでも降りだしそうな天候。

 これを憂鬱と言わずして、何と言う。

 帰り着くまでには、もってくれるかねえ。

「お、雨男くんだ!」

「誰が雨男か! って、雨傘かよ。何の用だ?」

「うん? 後ろ姿が見えたから、声をかけただけだよ?」

 あぁ。こいつは、そういう奴だったな。俺も、なんだか慣れてきちまったな。

「雨は降らせねえぞ?」

「えー」

 ぶーたれ始めやがった。めんどくせえ。

「えー。じゃねえよ。えーじゃ」

 でも、相手にしてる時点で、面倒じゃ無くなり始めてるのかもしれない。

「なんで構えてるのさあ」

「お前、俺に飛び付こうとしてるだろ? 前科持ちだ」

「女の子に抱きつかれて、嬉しくない男の子は居ない!」

 そうかもしれんが……

「お前は別だ。タコ」

「ぶっきらぼうにしちゃって、このこの」

 とりあえず、雨傘を剥がす。こんな光景を誰かに見られでもしたら、要らぬ噂が立つ。

「くそっ。雨が降って来やがった」

「どっかで雨宿りする?」

「そうすっか。雨に濡れる趣味はないしな」

「えー。気持ちいいじゃんか」

 それは、雨傘が特殊なだけだと言いたい。

「猫みたいなやつが雨に濡れるのが好きとか、どういう現象だよ」

「ボクは、猫じゃないよ」

 ニャーニャーと騒ぎ始めた雨傘は適当に流すとして。

「わかったよ」

「絶対に、分かってない。言葉がなげやり」

 俺の態度に抗議し始める雨傘。何言った所で放置だ。事実、分かってないしな。

 雨傘の言葉を聞き流しつつ、雨宿り出来そうな場所を探す。そういや近くにちょうどいいのがあったか。

「すぐそこの神社に逃げ込むぞ」

「ちょ、ちょっと、いきなり走らないでよ」

 雨が降ってる時くらい、神社で雨宿りしても、罰はあたらないだろ。神様はお心が広いはずだしな。

「ほら見て、猫だよ」

 濡れるのが嫌で、ここに来たって感じだな。

 雨傘が、チチチと声を出して、猫の注意を引いてる。しかも、寄って来たぞ。俺がやっても、効果無かったとは絶対に言わない。

「同族だから、警戒されないんだな」

「悔しい?」

 にまぁって表現が正しいだろう顔を俺に向ける雨傘。寄ってきた猫を抱き上げて、俺の方へと向けてくる。

「ほーら、猫だよー。しかも、何処かの飼い猫だ」

 くそっ。勝ち誇った顔しやがって。まぁ取りあえず、そんな事よりも雨だ。

「こりゃ、止まないな」

「止まないね。何だかんだと言いつつも、晴くんが降らせてるの?」

「俺じゃない。天候のせいだ」

 難しい顔をしたと思ったら、今度はダダでもこねそうな表情に変わる。

「なーんだ。もっと降らせてほしかったのに」

「雨好き過ぎだろ。なんで、こんな天候が好きなんだよ」

 雨傘なんて苗字なんだから、傘くらい差せよ。雨音が好きだとかそういうのはあっても、この天候が好きな奴なんて希少種だぞ。

「えー。雨いいじゃん。傘に雫が当たる音。窓に当たる音」

「お前は、ずぶ濡れ率が高いだろ」

 雨が降れば大体濡れてるからな、コイツ。

「それは、趣味?」

「なんだ、その変わった趣味は。しかも、なんで疑問形なんだよ」

「ボク、晴れ女だし? 晴れって好きじゃないんだよね。夏とか最悪。そんなわけで、趣味で濡れてるわけですよ」

 晴れに親でも殺されたのかよ。ったくよぉ。

 結局のところ、好きで雨に濡れるわけだ。

「んじゃ、今日は、気分よく雨に濡れますかね」

「お。晴くんも、これで仲間入りだね」

 気分良さそうにしてる所、悪いがそんな仲間入りはちょっとな。

「ゴメン被る。ほれ、帰るぞ。ずぶ濡れになって風邪ひくなよ」

「引かないって」

「あぁ、バカは風邪を引かないんだったな」

「ひど!? まぁ、成績は良くないんだけど。それはそれ、これはこれ」

 と、言葉にしつつ、何かを添えた手は左から右へと移動する。

「ほら、お勉強と、IQは違うっていうじゃん?」

 確かに、その通りだが、雨傘はアホっぽいな。

「お、そうだな」

「期末試験みてろよー」

 あぁ、絶対にダメなタイプだなコイツ。

「俺よりいい点が取れたら、何か言う事を聞いてやるよ。雨を降らせるでもいいしな」

「ほんと?」

 目の輝き様が半端ないな。

「あぁ」

「じゃあボク、帰って勉強するから、じゃあね!」

 あの様子じゃ、無理だな。俺も帰るか。あぁ、雨が激しくなってきやがった。

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