雨のち晴れ

月見酒

第1話 雨男

 学校の屋上。貯水タンクとソーラーパネルの間に人が数人寝転がっても余裕の場所がある。俺のお気に入りの場所だ。

 空は曇り。空を眺めてたって何にも良い事なんてない。何をするわけでもなくボーっと空を見上げる。部活の喧騒を耳にしながら。

 あぁ、マジで憂鬱だ。空が曇ってる理由が俺の変な体質のせいじゃなくてもだ。オマケに一番嫌いな六月ときた。

 神様仏様なんてものがいるなら、聞いてみたいね。何で、こんな体質にしたのか。

 他人から見れば気持ち悪いだけのオカルト現象。この年にもなってそんな事は信じてもらえるわけない。

 だけど、チビだった頃から風潮してた事もあって知る人ぞ知る雨男だ。

「どうしたの?」

 突然視界が遮られる。曇りの日に空なんてどうでもいい事だけどな。

「そんなしかめ面してたら、運が逃げちゃうと思うんだけどな」

「余計なお世話だ」

 あー、めんど……クラスの奴らじゃないし、誰だ? この女。

 気だるそうに返事を返せば何処かへ行くもんだと思ってたんだけどな。

 どういったわけだか、お構いなしにまた喋りかけてくる。

「ねぇ? なんで、キミは無表情なの?」

 何を言い出すかと思えば。

「それこそ大きなお世話だ」

「笑ったらキミ、凄く素敵な顔しそうなのに」

「素敵ってどんな顔だよ」

 俺自身、想像の付かない顔とかキモイからやめてくれ。

「こんな顔」

 にーっと満面の笑みで微笑んでくる何処かの誰か。まぁ、俺の通ってる制服を着てるって事は、ここの学生だんだろうけどな。

「俺にはそんな顔できない」

 えー、とか、頬を膨らまして見せる目の前の女子。子供かよ。

「しないだけだよ。ほら、にーって」

 俺の口元を無理やり吊り上げてくる。そんな事したって変わるかよ。

「うわ!? コワ!」

 随分ないいようだな、お前。

「勝手に俺の顔で遊んでたくせに、ずいぶんないいようだな、おい」

 相手が野朗だったら軽く腹に決めてる所だ。ったくよぉ、今日は厄日か何かか。

「てか、何で俺にかまう?」

 そんな俺の言葉にワザとらしく考える仕草をし始める。

「んー。怒らないって言うなら、言ってもいい」

「アホか、女相手に並大抵の事じゃ怒らねぇよ」

「じゃ、言うけど……」

 そこまで口にしたものの、目が本当に? と、訴えてるが、俺は早く答えろと二回、手を向向けて振る。

 すると、分かったよぉ。と、言葉を続ける。

「キミが雨男だって聞いたからからかな」

 何処で聞いたんだかな。

「なーにが、素敵な笑顔だ」

「ちょ、ちょーっと、怒らないって約束」

「ったく」

 コイツに怒っても仕方ないのは分かってるしな。

「でも、キミが笑えば、素敵だと思ったのはホントだよ?」

 それでね。そう言葉を続けると曇ってる空を見上げて、も一度俺に向き直る。

「ボク、雨が好きなんだ。だから、降らせて欲しい」

 あー、こんな物好きも居るのか。変わり者だな。って、俺が思うのもおかしいか。

「変わった奴だな」

「そうかな? いいと思うんだよね、雨」

 その言葉と共に空の雲が濃くなる。分かってる――

「あれ?」

 雨が好きだなんて聞いて、どうにも、俺は嬉しいらしい。それは次第に、雲から落ちてくる雫が意味してる。

「降ってきたな」

「本当に降らせちゃうなんてね。キミは何者だ!」

 芝居がかってる言葉と――

「なーんてね」

 この女子の笑顔。きっとコイツは晴れなんだな。

「雨男だ。お前も、そう言ってたろ?」

「そうだっけ?」

「まぁ、んな事はどうだっていい。衣替えの季節で薄着してんだ。濡れたら風引くぞ」

「それでもいい」

 そう言って地べたに座り込む。そして、本当に嬉しそうな顔をして――

「雨が好きだから」

 落ちてくる雨を顔に、身体に受けながら。

「変わった奴だ」

「キミもね」

 にーっと、コイツのいうところの素敵な笑顔ってやつをして見せてくる。

「ボクは雨傘奏キミは?」

「俺は雨男だ」

 なんて単純なんだろうな、俺は。雨の勢いが増している。

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