バターナイフと明日の夢

@mikan_orange

起床

明日になるのが嫌なんだよ。とにかく明日という日が少しでも短くなるように午前2時を生きているんだ。だから、これは決して夜更かしではない。

とにかく学校にもどこにも行きたくなかった。スマートフォンを片手に真っ暗な部屋の中でうるさい心臓の音を聞く。眠い。眠い。眠いのはわかっているけど明日を縮めるためだ。明日を、明日を、私の明日は、明日は、


───────どこにあるのだろうか。


目を閉じて。暗転。




目を覚ますと、朝。鳥が私を嘲笑っている。鳩のくるくるという鳴き声がいつ泣き止むのか、一つ二つ数えてみる。六つと半分で笑い終わると、どこかへ飛び去ってしまった。私もどこかへ飛んでいければどんなにいいだろうか。だが人間は飛ぶには些かおおきすぎる個体だ。

鳩の笑い声を数えたくなるときは大抵夢を見たあとだ。夢は覚えていないのに、だ。やけに胸がざわついて仕方がない。1時間後に生きているともわからないのに、得体の知れない高揚感は却って不気味な影を心に落としていく。

布団を蹴飛ばして一気に起き上がり、べちべちとフローリングを踏みつけながらキッチンに向かう。山型の食パンを焦げかかっているトースターに投げ入れ、冷蔵庫を開ける。タッパーの中のミックスサラダとブロッコリーを、わしっと手のひらいっぱいに掴んでサラダボウルに放る。フォークでぐさりとブロッコリーを刺して頬張る。

そういえば夢を見た場所は緑がたくさんある場所だったような気がする。ブロッコリーの青青とした緑を網膜に感じて、ふいにフラッシュバックのような変な感覚になる。

サラダを食べ終わると、トースターがチンと鳴る。最近の中ではいい焦げ具合である。

今日はせっかくなので、贅沢にバターを塗ってみようと思い付いた。マーガリンとはまた異なった甘みと芳醇な香りが今の私には必要であると直感がそう言っている。バターナイフを引き出しから出して冷蔵庫の中のバターを探し出す。最近は普段の料理にもマーガリンを使っていたから、冷えたままずっと眠っていたバター。やっと使われるときが来たのだ。銀の包紙を開けてひとかけ、バターをあつあつのトーストの上に塗りたくる。あ、バターがちょっぴり手についてしまった。体温で溶けて人差し指についたバターを親指と合わせてぬるつかせる。 


そういえば夢の中で、私は誰かを刺し殺したんだ。



右手の尖ったバターナイフと、ぬるついた左手を見下ろしてみると、夢の映像と重なって、

血でぬるついた左手と、銀色に鈍く光ったナイフを握った右手。うっそうとした森に囲まれて立ち尽くしている自分が見えるのだ。


夢にしては鮮明すぎて怖いくらいで、部屋着の長袖の下で肌がぞわぞわとした。


なんなんだろう、やけに現実味のある夢だな。


そんなことを思いつつ、まだバターの溶けきっていないトーストにかぶりついた。

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