Hello my pretty stars

NES

Hello my pretty stars

 ――ねえ知っているかい? 太陽というのはとても明るくて、温かいという話だぜ。


 もう飽きるくらいに聞かされた話だ。はいはい、知ってますよ。それでもって、空は限りなく広くて、海はどこまでも青くて深くて。そこはとても素晴らしい世界だって言うんでしょう?

 何十回、何百回。いや、何百万回この話をしたのか見当もつかない。あのね、判っていると思うけど、私はあなたと同じ話を、ここでいつも一緒に聞いているの。あなたが知っていることなら、全部知ってる。知らないことの方が、きっと少ないんだから。


 ――つまらない奴だな。話にぐらい付き合ってくれても良いじゃないか。何しろ、もうすぐ、なんだぜ。その、どきどき、とか。びくびく、とかはないのかよ。


 もちろん、そんな気持ちはない訳じゃない。どちらかと言われれば、それは確かに怖いことだ。そうか。もうすぐなのか。あまり考えたくなかったな。

 ここは充分に居心地が良くて、いつまで経ってもいたいくらいだった。うとうとと微睡まどろんで、目が覚めたらお話しして、軽く運動をしたらまた眠る。

 退屈で、それでいて飽きのこない充実した毎日だ。


 ――光があって、色があって。空気があって、水があって。それとあと、音楽だ。あれは良いな。僕は音楽が好きだ。


 音楽も良いけど、いつも聞こえてくるあの優しい音色ねいろの方が好みだった。ある時は速く。ある時は遅く。いつでも二人の周りを取り巻いている。この音があるから、今日まで落ち着いて待っていられた。

 それよりも大事なのは、この手と足だ。これはただ、ここで振り回すためだけにあるんじゃない。たまに思いっきり伸ばした際には、色々なものにぶつかって大変なことになる。ちょっと窮屈すぎるんじゃないですかね。二人でいるには手狭だし、一人で充分な気もしてくる。


 ――なんだよ、つれないな。ここまでずっと一緒だったじゃないか。


 それもちゃんと理解しているから、安心してほしい。私と同じあなた。同じだけど、違う。こうして向かい合っていると、不思議な気持ちになってくる。ねえ、もう少ししたらちゃんと会えるのかな?


 ――そうだといいな。ああ、そういえば、順番、決めとこうか?


 それなら、先が良い。まずは私が様子をうかがってくる。何しろ、こことは全く違う場所なのだから。ちゃんと出来るのか判らない。怖気おじけづいて出てこないとか、勘弁してよ。待ってるからね。


 ――わかった。いってらっしゃい。


 まだ見えないけど、そこには光がある。優しく包んでくれるてのひらがある。言葉が溢れて、肺が空気で満たされた。温かい。これが、温度だ。喜びの声が、世界の中に溶け込んで。



 私は他の誰でもない――私になった。

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