一日目・夏休み
俺が目を覚ますと、そこはやっぱり俺の部屋のままだった。
あの脳が揺れるような感触が何かは分からないが、特に変わったことは起きていない気がする。
いや、やはり違和感がする、俺は、アキが居なくなっていることに気付いた。
それに何故かむし暑い。
というか、俺の服装も、学校の制服から、Tシャツと短パンに変わっていた。
この服装とむし暑さに覚えがある気がするが、いつだったか。
「七ヶ月前の八月三日、町内花火大会が開かれる日です」
「うゎ!」
いつの間にか俺の背後にアキがいた。
「お前、どこにいたんだよ」
「すみません、あなたのいる時間座標を見つけるのに手間取ってしまいました」
意味が分からない。それより、八月三日?確かその日は...。
「僕が最初にミコトに告白しようとした日だ!」
「はい、今のあなたは、八月三日の自身の体で、この日をやり直していることになります」
やっぱり、この服装は八月三日に俺がしていたものだ。
つまり、俺は本当にタイムリープしてきたことになる。
さすがに七ヶ月だと、体の違和感は無いな。
「ん?俺はタイムリープで来たとして、お前はなんでここにいるんだ?」
「あなたがタイムリープした後、時間軸の歪みから向かった時間座標を割り出し、タイムスリップして来ました。」
そうでしたね、この人タイムスリップとか普通にできる人でしたね。
「で?この日に戻った俺はどうすればいいんだ?」
「さぁ、それはあなたが決めることです。私は、あなたがさっさと告白を成功させて未経験卒業してくれればそれで」
あっそ。
まぁ、告白するタイミングまでは、前回と同じ行動でいいか。変に過去を変えたくないし、二回目なんだから、緊張もさほどしないだろう。
えっと~、浴衣どこに閉まったっけな~。
そこで、ふと、一つの疑問が浮上する。
「ねぇ、お前も来るの?」
「はい、サポートもするよう、上から言われているので」
「その格好で?」
「はい、そのつもりですが?」
駄目だろ!ピチピチスーツ来た女の子連れて行けるか!過去がすごく変わるよ⁉騒ぎになるよ⁉
「あ、そっか、透明になる機械とかが「ありませんよ何言ってるんですか馬鹿ですか?」
食いぎみに突っ込まないで。予想外の罵倒含めないで。
「しょうがない、ちょっと待ってろ」
俺は、棚の奥をしばらく漁って、目的のものを渡す。
「これは?」
俺が渡したのは、金魚が描かれた女物の浴衣だった。
「去年の夏、クラスの奴全員で、今回のと同じ花火大会に行ったんだけど、そこで、ジャンケンで負けた男子と女子一人ずつが、それぞれ女装と男装をして行くという馬鹿みたいな企画が立ち上がってな」
「まさか...」
「あぁ、俺はジャンケンで見事負け、それを着て花火大会に行った。おまけに、チャラ男三人くらいにナンパされた」
「ご愁傷様です」
「黒歴史として二度と見たくは無かったんだが、しょうがないだろ」
「私が、これを着るんですか」
「そうだけど、俺が着てたやつは嫌か?」
「いえ...そういうわけでは」
「よし、なら俺部屋出てるから、着替えてこい」
俺が部屋を出て少し待っていると、中から呼ぶ声が聞こえたので、中に入る。
一瞬固まってしまった。
先程までライダースーツで無表情だった少女が、今は金魚の浴衣に身を包み、うつむいて頬を赤らめているのだから、なんと言うか、ギャップのカウンターナックルがクリーンヒットって感じだ。
顔赤くできるんだ。血管無いかと思ってた。
「あの...どうでしょうか」
さっきまで無機質なロボットみたいだった少女が、いきなり下ネタぶっ混んできて、今は乙女な顔してると思うと、キャラが定まってないのか?こいつ。
「おぅ、普通に似合ってる。いいと思うぞ」
ここで「かわいい」とか付け足そうものなら、ラブコメがスタートしてしまう。俺が落としたい相手はこいつでは無いのだ。
「よし、じゃあ、今度は俺が着替えるから、出ていてくれ」
「別に、私はあなたの裸を見ても欲情などしないので、心配は無用です」
表情が初期状態にリセットされました。うん、やっぱりこっちの方がいい。変にフラグの心配しなくて済む。
それでも、俺は女子に見られながら着替えられるほど強靭なメンタルは持ち合わせていません。
「出ていってくれ」
その後、俺が着替えを終えて部屋を出たとき、アキが少し不満そうに感じられたのは、気のせいということにしておこう。
振り返ればあの時ヤれたかも 秋野シモン @akinoshimon
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